イオンシネマが車椅子ユーザーに対して不適切な対応があったとして謝罪したところ、ヤフコメやXには逆に車椅子ユーザーを非難する投稿があふれました。
私は漫然とそれを見ていて、車椅子ユーザーにも非難されるところがあったのかなと思っていましたが、「車椅子専用席を使うべきだ」とか「映画館のスタッフは介助が仕事ではない」とか「人の善意に甘えるな」といった書き込みを読んでいるうちに、疑問がふくれ上がってきました。それらの書き込みには同情や思いやりがまったく感じられないからです。
そこで詳しく調べてみました。
中嶋涼子という車椅子インフルエンサーの人がXに投稿したのがきっかけでした。その一部を引用します(全文はこちら)。
今日は映画「#52ヘルツのクジラたち」を見てきたんだけど、トランスジェンダーの人が生きづらさを抱え差別を受ける話で辛すぎて発作起きるくらい泣ける映画だったんだけど、その後更に泣ける事があった。ちょうどいい時間の映画がイオンシネマのグランシアターっていうちょっとお値段張るけどリクライニングできて足があげられるプレミアムシートがある豪華な劇場で4段の段差がある席しかないところで見たんだけど、今まで何度もその劇場に一人で見に行って映画館の人が手伝ってくれてたのに、今日は見終わった後急に支配人みたいな人が来て急に「この劇場はご覧の通り段差があって危なくて、お手伝いできるスタッフもそこまで時間があるわけではないので、今後はこの劇場以外で見てもらえるとお互いいい気分でいられると思うのですがいいでしょうか。」って言われてすごい悲しかった。。「え、でも今まで手伝って頂いて3回以上ここで見てるんですが?」って言ったら、他の係員に聞いたところそう言った経験はないとおっしゃっていまして、ごめんなさいって謝られて、なんかすごく悔しくて悲しくてトイレで泣いた。
この投稿が少しバズったからでしょうか、イオンシネマを運営するイオンエンターテイメントは「弊社従業員がご移動のお手伝いをさせていただく際、お客さまに対し、不適切な発言をしたことが判明いたしました」「弊社の従業員への指導不足によるものと猛省しております」といった謝罪文をXに発表しました。
そして、そのことが『イオンシネマ、移動の手伝いで「従業員が不適切な発言」と謝罪。車椅子ユーザーの介助巡り議論に』という記事になってヤフーニュースに載ったというわけです。
イオンシネマが謝罪したのですから、イオンシネマに非があることは明らかです。
にもかかわらず車椅子ユーザーに対する非難があふれたのはどうしてでしょうか。
そこにはいくつかの誤解がありました。
多くの人は、中嶋さんは車椅子専用席があるにもかかわらず一般席に座ることを要求してトラブルになったと思い込んでいます。
しかし、この「グランシアタ―」には車椅子専用席はなく、36席すべてが足を伸ばせるゆったりしたリクライニングシートになっていて、料金も3000円(ワンドリンク付き)という豪華なシアターです。
このシアターは「サービス料金適用外」となっているので、障害者割引は使えないはずです。
中嶋さんは以前に3回以上このシアターを使ったことがあるということです(そのときの写真をアップしているので、少なくとも1回は使っています)。
今回に限って次回からの利用を断られたということで、納得いかないのは当然です。
“活動家”が車椅子の行動範囲を広げるためにあえて映画館に無理難題を要求しているというのも誤解です。中嶋さんはそのシアターが気に入って何回も使っているだけです。
車椅子専用席のあるシアターで観ればいいという意見もありますが、車椅子専用席はたいてい最前列にありますし、同伴者といっしょになれないということもあります。
高い料金を払っていい席で観たいと思うのはおかしくありません。
今年の4月1日から改正障害者差別解消法が施行され、行政機関及び民間事業者において障害者に対する「合理的配慮」が法的義務となります。
「合理的配慮」とはなにかということですが、「実施に伴う負担が過重でないとき」という条件がついているので、事業者が「負担が過重である」と判断して、その判断が客観的に見て合理的であれば、障害者の要求を断ることができます。
「映画館での車椅子の利用」が過重な負担になるかどうかは、その映画館の構造やスタッフの配置によっても違ってくるので、一概にはいえません。
問題は車椅子を人ごと持ち上げるときの負担にありそうです。
中嶋さんはこんなことをXにポストしていました。
過去3回グランシアターで見た時には、女性のスタッフさんが二人で階段を持ち上げてくれて、映画鑑賞後に「せっかくこんな豪華なところで見れたので写真とか撮ってもいいですか?」って言ったら快く写真まで撮ってくれたりしていた状況から、急に4人がかりのスタッフで上映後に入場拒否をされた事が理不尽でした。
調べると、車椅子を人ごと持ち上げる場合は4人以上が推奨されています。
イオンシネマが2人から4人に方針転換したのかもしれません。そのために「過重な負担」になったということはありえます。
ただ、このときは4人いて対応できています。多くのスタッフがいるシネコンで4人の人手が集められないということがあるのでしょうか。
イオンシネマの判断が妥当かどうかというのは私には判断がつきません。
私だけではなく一般の人には誰にも判断がつかないはずです。
ただ、「支配人みたいな人」の対応に問題があったのは確かです。
今後の利用を断るなら、「当方の方針が変わりました」などとその理由を説明するべきです。なんの理由も示さずに断られるとショックを受けるのは当然です。
それよりももっと問題なのは、そのときの言い方です。
「今後はこの劇場以外で見てもらえるとお互いいい気分でいられると思うのですがいいでしょうか」と言ったというのですが、これはひどい言い方です。
通常は「たいへん申し訳ありませんが、次からはご利用を控えていただけないでしょうか」と低姿勢で言うところです。
この言い方は、「あなたがいい気分になるように私が判断してあげます」ということで、相手の判断力を無視した上から目線の言い方です。
これは「強者が弱者に『あなたのため』と言いながら本人の意志を無視して介入・干渉すること」というパターナリズムの典型です。
相手が身障者だということで見下し、さらに若い女性だということで見下したのでしょう。
こんな言い方をされれば、普通ならぶち切れてもおかしくありませんが、弱い立場だとそうもいきません。
イオンシネマが「不適切な発言」を認め、「従業員への指導不足」を猛省したのは当然です。
ところが、世の中にはこの「支配人みたいな人」がいっぱいいて、車椅子ユーザーを誹謗中傷する声があふれました。
今の時代は匿名で誹謗中傷しても、発信元を突き止められて損害賠償請求をされることがありますから、人を批判するときは確かな事実に基づかないといけません。
ところが、差別心から発信する人は、自分の差別心を正当化するためにデマを信じたり、自分で勝手に捏造したりします。
「車椅子専用席があるのに一般席に座ることを要求した」というのがその典型です。
「電動車椅子を持ち上げさせた」というのもありました。
「車椅子が通路をふさいでいざというとき避難できない」というのもありましたが、車椅子はたためますし、グランシアタ―はスペースがゆったりです。
その次は道徳的批判です。
たとえばXや5ちゃんねるにあったこんな書き込みです。
この言い方は、「あなたがいい気分になるように私が判断してあげます」ということで、相手の判断力を無視した上から目線の言い方です。
これは「強者が弱者に『あなたのため』と言いながら本人の意志を無視して介入・干渉すること」というパターナリズムの典型です。
相手が身障者だということで見下し、さらに若い女性だということで見下したのでしょう。
こんな言い方をされれば、普通ならぶち切れてもおかしくありませんが、弱い立場だとそうもいきません。
イオンシネマが「不適切な発言」を認め、「従業員への指導不足」を猛省したのは当然です。
ところが、世の中にはこの「支配人みたいな人」がいっぱいいて、車椅子ユーザーを誹謗中傷する声があふれました。
今の時代は匿名で誹謗中傷しても、発信元を突き止められて損害賠償請求をされることがありますから、人を批判するときは確かな事実に基づかないといけません。
ところが、差別心から発信する人は、自分の差別心を正当化するためにデマを信じたり、自分で勝手に捏造したりします。
「車椅子専用席があるのに一般席に座ることを要求した」というのがその典型です。
「電動車椅子を持ち上げさせた」というのもありました。
「車椅子が通路をふさいでいざというとき避難できない」というのもありましたが、車椅子はたためますし、グランシアタ―はスペースがゆったりです。
その次は道徳的批判です。
たとえばXや5ちゃんねるにあったこんな書き込みです。
障害の有る無しに関わらず、助けてもらう、配慮してもらう事に当たり前に慣れすぎて感謝をしなくなった人は批判されて当然なのよ今回の炎上も同じ車椅子ユーザーが批判されてんじゃないのあの人の傲慢な精神が批判されてんの
障がいをお持ちの方々が健常者と同じように社会生活を過ごしたいと思うのは自然なこと。でも「障がいを持つ私をもっと大事に扱いなさい」の姿勢はただの傲慢です。ご迷惑をおかけしますが…の姿勢が大事。障がい者も健常者も、それは同じですからね。
もう、車椅子ユーザーとか障害者様とか関係なく「わがままで傲慢な奴は助けない」が答えになっちゃってる。たとえ障害者差別解消法が新しくなっても合理的配慮が義務化されても、企業はともかく一般の人は助けないと思う。しょうがないよね、そういう方向に持っていった障害者様がいるんだから。
「障害者差別」と「道徳」が完全に一体化しています。
好きな席で映画を観たいという車椅子ユーザーにはなんの問題もありません。
問題はすべてイオンシネマの側にあります。途中で対応を変え、変えた理由を説明せず、車椅子ユーザーを見下した言い方をしました。
シネコンで車椅子ごと人を運ぶのが「過重な負担」か否かというのは誰にも容易に判断できないのに、シネコンよりも車椅子ユーザーを非難する人があふれたのは、この国の身障者差別状況をよく表しています。
好きな席で映画を観たいという車椅子ユーザーにはなんの問題もありません。
問題はすべてイオンシネマの側にあります。途中で対応を変え、変えた理由を説明せず、車椅子ユーザーを見下した言い方をしました。
シネコンで車椅子ごと人を運ぶのが「過重な負担」か否かというのは誰にも容易に判断できないのに、シネコンよりも車椅子ユーザーを非難する人があふれたのは、この国の身障者差別状況をよく表しています。