スクリーンショット 2021-11-17 193629
日本維新の会ホームページより

総選挙で躍進した日本維新の会は「身を切る改革」をキャッチフレーズにしていますが、こんな言葉を信じる人がいるのでしょうか。

人間は誰も「身を切る」ことなどしたくありません。するのは、心を病んでリストカットする人か、ハラキリする侍ぐらいです。
「身を切る改革」なんていうのは、詐欺師が「出資者には毎月10%の利息を支払います」と言うのと同じくらいあやしい言葉です。
大阪の人はこんな言葉を信じているのでしょうか。
政治家が「身を切る改革」をやるのは、世論に追い詰められたときぐらいだと思って間違いありません。


国会議員には歳費のほかに毎月100万円の「文書通信交通滞在費」が払われるのですが、先の総選挙で当選した議員は投開票日の10月31日から議員になったと見なされ、10月分の100万円が支払われました。
1日議員であっただけで1か月分もらうのはおかしいと新人議員がツイートしたのをきっかけに「文通費」のことが話題になっています。

とくにそのツイートをしたのが維新の議員だったので、維新の会がここぞと「身を切る改革」のアピールに利用しました。
維新の代表である松井一郎大阪市長や副代表である吉村洋文大阪府知事は「1日議員であっただけで100万円もらうのはおかしい。一般常識とかけ離れている。国庫に返納できないなら、どこかに寄付するべきだ」と主張して、「身を切る改革」に不熱心な他党を攻撃しました。

ところが、吉村知事が衆院議員を辞めて大阪府知事選に立候補した2015年、10月1日に議員辞職して10月分の100万円を丸ごともらっていた事実が発覚し、“ブーメラン”と批判されたのはお笑いです。
生活保護受給で批判された大阪の芸人が「もらえるものはもらっとけ」と言ったそうですが、吉村知事も同じなのでしょう。
ただ、「もらえるものはもらっとけ」というのは普通の感覚です。
「身を切る改革」が詐欺師の言葉なのです。

結局、1日在職しただけで1か月分もらえるのはおかしいということで、どうやら文通費を日割り計算で支払うことにするという法案が提出されるようです。


しかし、これは所詮小さな問題です。
こんなことで「改革」をやった気になられては困ります。

今回の総選挙で当選した新人議員と元議員の合計は120人です。この全員が文通費を返納したところで1億2000万円です。
前職の当選者は345人で、10月14日まで在職していたことになるそうで、日割り計算して100万円の半分とすると、1億7250万円です。
合計しても3億円になりません。


国会が召集され、国会議員が集まって、最大の話題が3億円のことです。日割り計算もせこい話です。
日本の政治の劣化を象徴しています。

しかも、この3億円がむだかというと、そうとは限りません。
車の通らない道路をつくったり、配布されないアベノマスクをつくったりするのはむだですが、国会議員に配られて、ちゃんと政治活動のために使われるならむだではありません。

名目は「文書通信交通滞在費」ですが、領収書は必要とされないので、使途は自由です。
サラリーマンの給料には基本給のほかに住宅手当や家族手当などがありますが、住宅手当だからといって住宅費にしか使えないとか領収書が必要だとかいうことはありません。
国会議員は歳費という基本給に「文書通信交通滞在費」という手当てがついていると考えればいいわけです(ほかに1人当たり月65万円の「立法事務費」もついてきます)。

いったんもらった文通費は国庫に返すことができないそうで、維新は所属議員から回収して、まとめてどこかに寄付すると言っています。
どこに寄付するのか早く明らかにしてほしいものです。
たとえばどこかの被災地の復興のために寄付するのであれば、自分たちの政治活動にお金を使うより被災地の復興に使ったほうがいいということで、自分たちの政治活動の価値を低く見ていることになります。

いや、自分たちの政治活動にはそんなにお金が必要ではないということかもしれません。
だったら、文通費を国庫に返納できるように法律を改正して、維新の国会議員は全員、文通費を国庫に返納すればいいのです。
日本維新の会の国会議員は衆参合わせて56人なので、年間6億7200万円を国庫に返納できることになり、これはバカになりません。
これこそが「身を切る改革」ですから、維新の議員は率先して行うべきです。

政党助成金は年間総額317億円です。
共産党は政党助成金を受け取っていません。これこそ「身を切る改革」です。
維新は受け取っています。これのどこが「身を切る改革」でしょうか。

要するに維新の「身を切る改革」は、文通費を日割り計算するだけですから、単なる見せかけ、パフォーマンスです。


いや、これから文通費を廃止し、歳費を減額し、さらに政党助成金の減額も主張していくのかもしれません。
しかし、それはそれで困ったことになります。
というのは、もともと政治資金には「与野党格差」があるからです。

企業団体献金は圧倒的に自民党に多く入ります。
さらに政治資金パーティも、与党議員のパーティと野党議員のパーティでは、パーティ券の売れ行きが全然違います。

自民党は資金が豊富なので、たとえば2019年の参院選で広島選挙区に立候補した河井案里氏に自民党本部から1億5000万円が贈られたりします。
また、自民党は選挙区の情勢を詳細に調査して、解散時期を決めたり選挙戦術を決めたりしますが、資金のない野党にはそういうことはできません。
政権交代を考えるなら、こうした与野党格差の解消をはかることも重要です。

ともかく、与野党格差があるときに、たとえば一律に文通費100万円を返上したら、与党はたいして痛くありませんが、野党はかなり痛いことになり、格差は拡大します。

維新の会のことを「自民党維新派」と言っている人がいました。つまり自民党の別動隊みたいなものだということです。
与野党が同じように「身を切る改革」をしたら、野党が先につぶれます。
もしかするとそれが維新の狙いでしょうか。

維新の「身を切る改革」にだまされてはいけません。