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アメリカが主催した「民主主義サミット」が12月9日、10日に、111の国と地域が参加してオンライン形式で行われました。

「民主主義サミット」と名乗るぐらいですから、その運営も民主的なものかというと、そうではありません。
参加国はアメリカが一方的に決めて、議長国もアメリカです。来年第2回が対面式で行われる予定ですが、それもやはりアメリカ主催です。
G7のサミットの場合は、議長国は持ち回りで、参加国は対等で、会議もたいてい円卓方式で行われますから、それと比べると、民主主義サミットはアメリカによる専制的運営ということができます。

民主主義は国内政治だけでなく国際政治にも適用されるものです。
アメリカが民主主義を世界に広めていきたいなら、民主主義サミットの運営も民主的にして、手本を示すべきでした。

国連の運営も同じです。常任理事国の五大国に拒否権があるというのはまったく民主的でないので、アメリカはまずここを改革するべきです。

もちろんアメリカにそんな気持ちはありません。民主主義サミットを開催したのは、一党独裁の中国に対して優位に立つためには民主主義を持ち出すのがいいと判断したからで、すべては米中覇権争いのためです。

そもそもアメリカの民主主義はそれほどのものではありません。
アメリカで黒人の選挙権が認められたのは1965年ですから、アメリカは先進民主主義国の中でもっとも普通選挙の実施が遅かった国です。最近も保守的な州で、黒人の投票を制限するために身分証明の方法を厳格化する法律が制定されたりしています。さらに、トランプ前大統領は大統領選の結果を認めないと主張しています。日本人がアメリカを民主主義国の手本のように思っているのは愚かなことです。


バイデン大統領は民主主義サミットの開会あいさつにおいて、「みずからの民主主義を強化するとともに、専制主義を押し返す」と述べて、世界を民主主義国と専制主義国に二分する考えを示しました。
これは一神教由来の善悪二元論の考え方でしょう。
民主主義というのは、それぞれ意見は違っても、根底はみな同じ人間だという考えです。善悪二元論とは相容れません。

アメリカは、専制主義国を次々と民主化していくことで民主主義国陣営が勝利するというシナリオを目指しているのでしょうが、これではその国に外国が民主主義を押しつけることになります。
どんな国民でも外国の押しつけは嫌うので、これはうまくいきません。

うまくいかないだけでなく、マイナスになる可能性もあります。
専制主義国で民主化運動をしている人たちが「アメリカの手先」という汚名を着せられてしまうからです。

第一次世界大戦ごろまで、各国の社会主義政党は社会主義インターナショナルという国際組織をつくっていましたが、ソ連が成立してからいわゆるコミンテルンが組織され、ソ連が社会主義運動を指導するようになると、やはり社会主義者は「ソ連の手先」とされて、かえって反共主義が勢いを増す結果となりました。
民主主義サミットはコミンテルンもどきです。



では、専制主義国をどうして民主化すればいいかというと、それはその国民に任せるしかありません。
その国の民主化運動を外から支援する場合は、民間団体か国際機関によるべきです。国家がやると内政干渉になります。

「草の根」という言葉がありますが、民主化は草の根運動によってなされるものです。大地から出た小さな芽がだんだんと育っていくようなもので、かなりの時間がかかります。

イギリスで選挙制度が始まったのは15世紀ですが、そのときは地主階級だけが参加するものでした。やがて産業資本家、労働者階級へと広げられて、普通選挙が実現したのは1918年でした。
日本で大日本帝国憲法のもとで初めて選挙が行われたのは1890年で、参加できたのは全国民の1%の高額納税者だけでした。その後、少しずつ選挙権が拡大され、男子普通選挙が実現したのは1925年です。
2011年にイスラム圏で「アラブの春」と呼ばれる広範な民主化運動が起きましたが、民主化が成功したのはチュニジアだけだとされます。ほかの国では内戦が起きて混乱したり、強権的な政権が復活したりしています。

アメリカはアフガニスタンに“民主的”な政府を押しつけましたが、20年たって失敗に終わりました。


そもそも民主主義を理想の政治体制と見なすのはヨーロッパの考え方です。ヨーロッパでは古代ギリシャ・ローマ文明のものをなんでも理想としますが、古代ギリシャ・ローマでは民主制が行われていたということからです。
日本人は割とすんなりとヨーロッパ由来の考え方を受け入れましたが、中国人は中国文明に自信を持っているので、民主主義を理想とは思っていないでしょう(おそらく孔子の「仁」の政治を理想としているのではないかと思います)。
イスラム圏の人も民主主義を理想とは思わないので、なかなか民主化が進みません。

もちろん民主主義には価値があります。
「権力は腐敗する」というのは絶対的な法則です。腐敗を防いだり、腐敗に対処したりするには、民主主義がいちばんいい方法です。
それから、専制政治で失政があると、国民は為政者を恨むだけですが、民主政治で失政があると、国民は少しは反省して向上します。
ただし、国民が向上するにはかなりの時間がかかります。おそらく一世代、二世代というスパンです。
民主主義だからよい政治が行われるなどと期待してはいけません。うまくいって民衆と同じレベルの政治です。


アメリカは、中国が経済的に発展すればいずれ民主化するだろうと見て、中国の経済発展を許容していたとされます。しかし、いっこうに民主化しないので、今では中国にきびしく対処するようになったということです。
しかし、これはアメリカをよく見せる表現です。実際のところは、中国の経済成長はアメリカの利益になったので許容していたが、中国がアメリカと肩を並べそうになってきたので許せなくなったということです。

もし中国の民主化を期待するなら気長に待つしかありません。

世界の頂点であり続けたいというアメリカの覇権主義は、幼稚な考えですが、それ自体に害はありません。しかし、覇権のために民主主義や人権を持ち出すので害が生じます。

人権についても民主主義と同じことが言えます。
アメリカが中国に人権問題で圧力をかけると、中国国内の人権活動家が「アメリカの手先」とされてしまいます。
人権問題は国際機関が前面に出て対処するべきです。


アメリカにおいては善悪二元論の発想はとうそう根深いようです。
二大政党制もそうですし、東西冷戦もそうです。
東西冷戦が終わると、イスラム圏対西側世界という分断政策になり、イラクとアフガンで失敗すると、今度は民主主義対専制主義という分断政策になりました。
国内でも保守とリベラルによる分断がますます深刻化しています。

日本としては、アメリカに加担するのも中国に加担するのも愚かです。
米中覇権争いを高みの見物するしかありません。