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東大前3人刺傷事件で逮捕された少年が通っていた名古屋市の私立東海高校は、黒の詰襟学生服が制服です。
今どき黒の詰襟学生服とは驚きです。

私の場合、中学が黒の詰襟学生服でした。
プラスチックのカラーが窮屈で、まったく非人間的な服だと思っていました。
高校は服装が自由だったので、それだけで解放感があったものです。

昔の中学高校は、男子はたいてい坊主頭に詰襟の学生服で、女子はセーラー服でした。これはもちろん軍隊の真似をした戦前の名残りですから、時代とともになくなっていくだろうと思っていました。
しかし、坊主頭はさすがになくなりましたが、制服はブレザーに変わっただけで、なかなかなくなりません。最近はむしろふえているかもしれません。私の家の近くの都立高校は、以前は私服だったのに、数年前に男子はブレザー、女子はセーラー服の制服になりました。ダサいデザインで、生徒の評判もよくないようです。

坊主頭はなくなったものの、頭髪に関する規制はむしろきびしくなっています。
多くの学校は、髪染め禁止の校則がありますが、茶色っぽい地毛を黒く染めさせる学校があるというので問題になりました。要するに黒髪に統一したいのでしょうが、本末転倒です。

そこで、生徒に「地毛証明書」を提出させる学校が出てきました。
「地毛証明書」というのは、生徒の髪が黒以外の色だったりくせ毛だったりした場合、保護者がそれは地毛であると書いて署名、捺印するというものです。
地毛であることの証明として、生徒の幼少期の写真を提出させる学校もあります。
NHKニュースの『「地毛証明書」に「頭髪届」 都立高校の4割余りで提出求める』という記事によると、「全日制の都立高校177校のうち44.6%にあたる79校が地毛であることを証明する届け出を求めている」ということです。
この記事は専門家の「人権侵害にあたるのではないか」という意見も紹介していますが、改まる気配はありません。

「地毛証明書」の問題はロイター、BBC、英国ガーディアン、タイム誌などで報道され、世界の人たちを驚かせたようです。
日本の学校の人権状況は、北朝鮮か一部のイスラム教国家並みです。


学校はまず子どもに対して「子どもの人権」について教えなければなりません。

前に少し紹介しましたが、ブレイディみかこ著『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』には「英国の子どもたちは小学生のときから子どもの権利について繰り返し教わる」と書かれています。
シティズンシップ・エデュケーションという教科で、国連の子どもの権利条約が制定された歴史的経緯などを学び、期末試験では「子どもの権利を三つ挙げよ」というような問題が出るそうです(解答例として教育を受ける権利、保護される権利、声を聞いてもらう権利、遊ぶ権利、経済的に搾取されない権利が挙げられています)。

もっとも、日本人は「日本はイギリスより遅れている」と言われても、あまり気にしないかもしれません。
では、「日本は韓国より遅れている」と言われるとどうでしょうか。


韓国の学校教育は日本の学校教育ときわめて似ています。かつて日本に統治されていたのですから、当然です。
学生服なども日本と同じでした。
しかし、今はまったく違います。
伊東順子著『韓国 現地からの報告』にその経緯が書かれているので、紹介します。

2010年、ソウルの隣の京畿道で「学生人権条例」が採択され、実施されました。
それは光州市などほかの地方自治体にも波及し、2012年1月には首都ソウル特別市も同条例を公布するに至ります。当時の韓国国営放送(KBS)はこのように伝えました。
「条例には、児童・生徒に対する体罰の全面禁止、頭髪や服装の自由、校内集会の許容、持ち物検査や没収の禁止などの内容が盛り込まれており、ソウル地域の幼稚園と小中高校ではかなりの変化が起きることが予想されます」
政府与党は反対の立場から大法院に「条例無効確認訴訟」を起こし、同様に反対する教師や保護者も少なくありませんでしたが、生徒は賛成でした。
その理由はこのように説明されています。

以前の韓国では教師の体罰も日常的だった。殴る、蹴る、立たせる、座らせる、走らせる……。半ば公然化した体罰は、民主化した韓国社会には不似合いな前時代的なものとして、常に議論の対象になってきた。多くの自治体では教育委員会の方針として、各学校に体罰禁止を通達していたが、それが条例として文字通り明文化されたわけだ。
学校である以上は最低限のルールは必要であるとしつつ、生徒たちの自律的な意見を尊重する。たとえば、校則の制定にあたっても、以前のように学校が一方的に決めるのではなく、生徒の投票など「民主的な方法」が採用された。

「学生人権条例」によって韓国の中高生は茶髪も化粧もミニスカートもOKとなり、今の若者はそうした中で育ってきています。
伊東順子氏の今年の著書『韓国カルチャー 隣人の素顔と現在』にはこう書かれています。

数年前から、日韓の姉妹校交流などに参加するたびに、韓国の子たちの垢抜けた様子にびっくりすることが多かった。それと比べると、日本の中学生などはいまだにがんじがらめの規則の中にいる。寒くてもタイツやコートが禁止の学校もあると聞いた。不合理極まりなさに眩暈がする。日本には私自身が30年以上前に体験した悔しいことが今もそのまま残っていたり、また私の時代よりもさらに女の子をとりまく状況が悪化していると思えることもある。


私が思ったのは、日本と韓国のアイドル文化の差は「学生人権条例」からきていたのかということです。

世界で大人気の韓国のBTS(防弾少年団)は、黒人人権運動(BLM)に100万ドル寄付したり、アメリカでのアジア系住民に対するヘイトクライムに反対する声明を出したりして、人権問題に積極的に関わっています。また、BTS(防弾少年団)という名前は、「10代・20代に向けられる社会的偏見や抑圧を防ぎ、自分たちの音楽を守り抜く」という意味だそうですが、これらは「学生人権条例」によって自分の人権が守られてきた世代らしい発想と思えます。

ついでに言うと、韓国コスメは安くてかわいいというので世界で人気だそうですが、これは韓国の中高生という新しい市場ができたことで商品開発が進んだからでしょう。

日本のアイドルというと、AKB48などのAKBグループ、乃木坂46などの坂道グループが代表的なものですが、これらは高校の制服のようなものを着て、黒髪で、集団で学校の文化祭や部活のような活動をします。要するに日本の学校文化そのものです。
日本で日本に合ったアイドルが生まれるのは当然ですが、韓国のアイドルとは違って世界には通用しません(東南アジアの何か国かにはAKBグループが存在しますが)。

日本人はダサい制服を着て、おしゃれもせずに育つので、ファッションセンスも美的センスも磨かれません。最近の日本企業の製品に魅力がなくなったのは、そのせいでもあるでしょう。

日本の人権状況は世界から周回遅れとなって、韓国にも追い抜かれたのが現状です。



日本の小中高生は、本来持っている自分の権利についてなにも教えられず、理不尽な校則に縛られ、不満はいっさい聞き入れられず、無力感に打ちひしがれています。
その結果、世界的にも自己肯定感の低い若者が生み出されます。

内閣府の「子ども・若者白書」から「日本を含めた7カ国の満13~29歳の若者を対象とした意識調査」の結果の一部を紹介します。

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こうした調査結果はマスコミでも報道されますから、ご存じの方も多いはずです。

なぜ日本の若者の自己肯定感が低いかというと、どう考えても、日本の学校教育のせいです。学校が子どもの自己肯定感をなくすような教育をしているからです。


私は日本の若者に元気がなくなったのは自民党の教育のせいだということを「日本をだめにした自民党教育」という記事に書きました。
そこにおいて、若者を元気にするには学校に「自由、人権、民主主義」を行き渡らせることだと述べましたが、自民党が政権の座にある限り、これは困難なことです。

しかし、韓国の「学生人権条例」にならって、地方自治体で条例を制定すればいいわけです。
「学生」という言葉は日本では主に大学生を意味するので、「生徒人権条例」か「児童生徒人権条例」か「子ども人権条例」という名前にしたほうがいいでしょう。
条例の中身は、体罰の禁止や持ち物検査の禁止など生徒の人権の尊重、生徒中心の校則づくり、学校運営への生徒のオブザーバー参加、生徒への人権教育の充実などといったことです。
自民党政権はそのままでも、各自治体で条例づくりが進めば、日本の学校教育は変えられます。

地方議員の中から「生徒人権条例」づくりの運動が起こってほしいものです。