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ロシア・ウクライナ戦争は、ロシアの侵略から始まったので、ロシアが悪いことは明白です。
しかし、無から有が生じないように、無から悪も生じません。
ロシアが悪くなったのにはそれなりの理由があります。

バイデン大統領は3月26日、訪問先のポーランドで演説し、プーチン大統領について「この男が権力の座にとどまり続けてはいけない」と言いました。
これがアメリカはロシアの体制転換を狙っているのではないかと問題になりました。
その後、バイデン大統領自身が「道徳上の憤りを表現しただけで、政策を意味するのではない」と釈明しましたが、発言は取り消しませんでした。

この発言が問題なのは、ロシアとウクライナが停戦交渉をしているさ中の発言だということです。
バイデン大統領はほかにもプーチン大統領のことを「虐殺者」「人殺しの独裁者」「生粋の悪党」とも言っています。
停戦交渉を妨害しようとしているとしか思えません。

バイデン大統領は早い段階でウクライナ戦争に武力介入をしないと言明して、「腰が引けている」などと批判されています。しかし、自分は手を出さない代わりに、火に油を注ぐようなことを言い続けています。


バイデン大統領に限らずアメリカは一貫して「ロシア敵視政策」をとってきました。
冷戦が終わったとき、ロシアは「普通の資本主義国」になりました。ですから、NATOにもEUにも入れていいはずです。
しかし、結局、ロシアはNATOに入りませんでした。
NATO側が門戸を閉ざしたのか、ロシア側に入る意志がなかったのかはむずかしい問題です。どちらも相手に非があったと主張するからです。
しかし、当時のロシアは資本主義も民主主義も未熟で、極貧状態の国でした。西側はどのようにでもロシアを導くことができたはずです。
今日の事態になったのは、西側とりわけアメリカに大きな責任があります。


そもそも冷戦が始まったことについても、オリバー・ストーン監督は『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』において、アメリカとソ連は大戦中に深い絆で結ばれていたので対立する必要はなかった、冷戦はアメリカが望んだものだ、と述べています。
大戦直後は、ほぼ戦禍のなかったアメリカは超大国の足場を固める一方、ソ連は甚大な戦争被害を受けていたので、主導権はアメリカの側にありました。


もっとさかのぼって、アメリカにおいて白人が先住民族、いわゆるインディアンを大量虐殺したのは、インディアンが悪かったのか、白人が悪かったのか、どちらでしょうか。

西部劇といってもいろいろありますが、より昔のものでは、インディアンは奇声を上げながら白人を襲ってくるだけの存在として描かれていました。
また、インディアンは白人を捕らえると頭の皮を剥ぐとされていました。
「頭の皮を剥ぐ」というのがインディアンの残忍さの象徴だったわけです。
しかし、そもそも「頭の皮を剥ぐ」というのは、インディアンを殺すと賞金が出たので、その証拠とするために白人が始めたもので、インディアンはそれをまねたのでした。

なお、アメリカ合衆国では白人はインディアンを殺しながら土地を奪っていきましたが、カナダではインディアンの殺戮というのはほとんどありませんでした。


アメリカは犯罪大国でもあります。
先進国では概して犯罪は減少傾向にあるものですが、アメリカは別で、1970年に35万人ほどだった受刑者は、80年には50万人、90年には117万人、2000年には200万人という恐ろしいスピードで増え続け、14年には230万人を突破しました。

なぜこんなことになるのかということを、Netflix製作の「13th -憲法修正第13条-」というドキュメンタリー映画が明快に説明していました。

この映画はYouTubeで無料で公開されています。



映画の内容を簡単に紹介すると、アメリカには“刑務所ビジネス”というものがあるのです(もっと詳しいことは「なぜアメリカは犯罪大国になったのか」に書いています)。
奴隷解放後のアメリカでは、奴隷に代わる労働力が必要でした。金を払って人を雇うのでは利益が出ないので、受刑者の労働力が利用されました。徘徊や放浪といった微罪で黒人を逮捕して刑務所送りにし、受刑者を働かせたのです。実質的な奴隷制の継続です。警官が黒人を見ると職質したり逮捕したりするのは、このとき以来の“伝統”です。
1980年代以降、刑務所や移民収容施設が民営化され、“刑務所ビジネス”のために犯罪が量産されるようになりました。

警官が黒人を殺す事件が起きると、人種差別だとして「Black Lives Matter」のような運動が盛り上がりますが、一方で、「警官に抵抗した黒人が悪い」という声も上がります。
警官が悪いのか、黒人が悪いのか、どちらでしょうか。


アメリカはまた麻薬大国でもあります。
麻薬の消費者がいるので、麻薬を提供する麻薬犯罪組織が生まれます。
メキシコ、コロンビアなどは麻薬犯罪組織が国家を支配するような巨大な存在になっています。
アメリカは麻薬犯罪組織を取り締まるようにメキシコ政府やコロンビア政府に圧力を加えていますが、ある意味では、アメリカが麻薬犯罪組織をつくっているともいえます。
麻薬を消費する者が悪いのか、麻薬を供給する犯罪組織が悪いのか、どちらでしょうか。


二人が争っているとき、双方の言い分を聞いても、どちらが悪いかわからないことがあります。
たとえば関係がこじれてしまった夫婦の場合を考えればわかります。

しかし、親子の場合は容易に判断できます。
親が子どもを叱っている場合、その言い分を聞くと、いろいろ言うでしょう。「この子は親の言うことを聞かない」とか「嘘をついた」とか「物を壊した」とか「食べ物を粗末にした」とか「行儀が悪い」とか。
子どもの言い分は聞くまでもありません。
自分の子どもを悪く言う親が悪いのです。
「悪い子ども」というのはいません。「悪い赤ん坊」がいないのと同じです。

白人が悪いのか、インディアンが悪いのかも同じです。
白人が悪いのか、黒人が悪いのかも同じです。

力のある者、支配的な立場にある者が「悪」を生み出しているのです。


「悪い子ども」はいませんが、親がいつも理不尽な叱り方をしていると、子どもの性格がひねくれて、ほんとうに「悪い人間」になることがあります。
アメリカや西側がロシア敵視政策を続けているうちに、プーチン政権が独裁化したという面があります。

どんな国でも外国の脅威を感じると、体制を強化するために国民を統制しようとし、独裁制に傾斜します。
その典型が北朝鮮です。異様な独裁制国家が三代にわたって続いているのは、朝鮮戦争が休戦状態で、アメリカ軍と韓国軍と対峙するという緊張状態にずっと置かれているからです。
キューバも同じようなもので、かつてCIAの支援を受けた亡命キューバ人の部隊に軍事侵攻されたことがあり、そのあともアメリカによってずっと強力な経済制裁を受けています。その結果、共産党の一党独裁体制がずっと続き、フィデル・カストロから弟のラウル・カストロへと継承されました(今はミゲル・ディアス=カネルが国家元首)。


現在、バイデン大統領は「民主主義国対権威主義国」という図式を描いて中国とロシアを敵視する政策を進めています。
これは中国の習近平体制をますます独裁化させるだけです。

相手を敵視すると、相手もこちらを敵視します。

世界が平和にならない最大の責任はアメリカにあります。