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5月3日の憲法記念日には、例によって憲法九条についての改憲論議が行われましたが、改憲は当面不可能でしょう。
なぜなら岸田文雄首相にはまったく改憲する気がないからです。
ときどき改憲に意欲があるようなことを言いますが、それは保守派の支持者のためのリップサービスです。

岸田首相のやる気のなさは、施政方針演説や所信表明演説を見ればわかります。
改憲について触れるのは、いちばん最後か、最後の前と決まっていて、それもわずかの行数です。
官邸ホームページから引用しておきます。

第二百五回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説
六 おわりに

 憲法改正についてです。
 憲法改正の手続を定めた国民投票法が改正されました。今後、憲法審査会において、各政党が考え方を示した上で、与野党の枠を超え、建設的な議論を行い、国民的な議論を積極的に深めていただくことを期待します。


第二百七回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説
十 憲法改正

 憲法改正についてです。我々国会議員には、憲法の在り方に、真剣に向き合っていく責務があります。
 まず重要なことは、国会での議論です。与野党の枠を超え、国会において、積極的な議論が行われることを心から期待します。
 並行して、国民理解の更なる深化が大事です。
 大きく時代が変化する中にあって、現行憲法が今の時代にふさわしいものであり続けているかどうか、我々国会議員が、広く国民の議論を喚起していこうではありませんか。


第二百八回国会における岸田内閣総理大臣施政方針演説
九 憲法改正

 先の臨時国会において、憲法審査会が開かれ、国会の場で、憲法改正に向けた議論が行われたことを、歓迎します。
 憲法の在り方は、国民の皆さんがお決めになるものですが、憲法改正に関する国民的議論を喚起していくには、我々国会議員が、国会の内外で、議論を積み重ね、発信していくことが必要です。
 本国会においても、積極的な議論が行われることを心から期待します。

「議論を歓迎する」と言っているだけで、改憲に意欲を示すということはありません。

改憲にきわめて熱心だった安倍晋三元首相が第二次政権の8年間でできなかったのですから、やる気のない岸田首相にできるわけがありません。

それに、安倍政権は2015年に新安保法制を成立させるときに、内閣法制局長官の首をすげ替えてまで「解釈改憲」を行いました。これで改憲する理由がほとんどなくなりました。
安倍氏がほんとうに改憲したいなら、「切れ目のない安全保障体制を築くにはどうしても憲法九条改正が必要だ」という論理で押し通すべきでした。
なぜそうしなかったのかというと、おそらくアメリカから新安保法制の成立をせかされたのでしょう。それに、かりに改憲の発議ができたとしても、国民投票で否決される可能性があるので、アメリカは認めなかったのかもしれません。

「仏つくって魂入れず」と言いますが、改憲の魂は新安保法制のほうに入ってしまったので、今の九条改正論議には魂がありせん。


ともかく、九条改正はとうてい不可能ですが、憲法が「戦力不保持」をうたっているのに戦力である自衛隊が存在しているのはおかしなことです。
なぜこういうことになったかというと、もとはといえばアメリカのせいです。

自衛隊の前身である警察予備隊が結成されたいきさつは、ウィキペディアにこう書かれています。

警察予備隊(けいさつよびたい、英語表記:Japan Police Reserve Corps(J.P.R)又は、National Police Reserve)は、日本において1950年(昭和25年)8月10日にGHQのポツダム政令の一つである「警察予備隊令」(昭和25年政令第260号)により設置された準軍事組織。1952年(昭和27年)10月15日に保安隊(現在の陸上自衛隊)に改組された。

要するに占領下にGHQの命令でつくられたのです。
よく「戦後憲法は押しつけられた」と言いますが、実は「自衛隊も押しつけられた」のです。

アメリカは最初、日本を無力化する計画で平和憲法をつくりましたが、朝鮮戦争が起こったことで計画を変更し、日本を再軍備化することにしました。
アメリカの矛盾した方針が、戦後日本における平和憲法と自衛隊という矛盾を生んだわけです。


自衛隊は災害救助活動をすることで少しずつ国民から認知されてきたとはいえ、ずっと日陰者でした。改憲論者は九条改正をすれば自衛隊は日陰者でなくなると思っているかもしれませんが、出自に問題があるので、そうはいかないでしょう。

ロシア・ウクライナ戦争を見て、日本の防衛は大丈夫かという声が上がっていますが、それに対して「日本には自衛隊があるので大丈夫だ」という声は聞いたことがありません。
改憲派やタカ派も自衛隊を信頼していないようです。

アメリカは自衛隊をつくっただけでなく、安保条約、日米地位協定、新安保法制もつくり、日本の防衛政策の根幹を決めています。
憲法九条だけ変えても意味はありません。


防衛予算のあり方もアメリカが決めています。

このところ日本の防衛費はGDPの1%程度です。
ところが、昨年10月12日に自民党が発表した衆院選の選挙公約では、2022年度から防衛力を大幅に強化するとして、「GDP比2%以上も念頭に増額を目指す」と記されました。
2021年度当初予算の防衛費は5.1235兆円でしたが、それを倍増させるなど、ありえないことです。
タカ派の高市早苗政調会長が公約の中に自分の趣味を押し通したのかと思えました。

そうしたところ、10月20日の米上院外交委員会の公聴会において次期駐日大使に指名されたラーム・エマニュエル氏は、「GDP比2%以上も念頭に増額を目指す」という自民党選挙公約に触れて、「1%から2%にしようとしているのは考え方が変わったからだ」との認識を示し、日本の防衛費の増額は「日本の安全保障や我々の同盟に不可欠だ」と述べました。
また、11月22日の朝日新聞の記事によると、前駐日米大使であるウィリアム・ハガティ上院議員は朝日新聞のインタビューに答えて、「米国はGDP比で3・5%以上を国防費にあて、日本や欧州に米軍を駐留させている。同盟国が防衛予算のGDP比2%増額さえ困難だとすれば、子どもたちの世代に説明がつかない」などと語りました。
つまり前駐日大使も現駐日大使も、防衛費のGDP比2%以上を要求しているのです。
ということは、これはアメリカの要求で、自民党の選挙公約はそれに応えたものだったのです。

もともとGDP比2%以上という数字は、トランプ政権が2020年にNATO加盟国に対して要求したものです。
それがここにきて日本にも向けられてきたということでしょう。


それにしても、防衛費の倍増はいくらなんでもむりです。
自衛隊は人員募集に苦労していて、現在2万人近く定員割れしているのが実情です。自衛隊の規模を拡大するわけにもいきません。
とすると、高価な装備を買うか開発することになります。
最近、自民党が「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と言い換えることにしたのも、金の使い道はここぐらいしかないと見きわめたのでしょう。

日本の防衛政策の根幹はアメリカが決めているのです。

憲法九条を改正するか否かなどはどうでもいいことです。