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日本維新の会が参院選向けの公約を発表した中に「0歳児から投票権」というのがありました。
維新も思い切った政策を出すなあと感心したら、私が思ったのとはぜんぜん違っていました。

今の日本の選挙制度は「普通選挙」といわれていますが、正しくありません。18歳未満には選挙権がないので、「制限選挙」です。
1925年、加藤高明内閣は「普通選挙法」を制定しましたが、実際のところは選挙権は男性のみで、女性には選挙権がない「制限選挙」でした。それと同じごまかしを今もやっているのです。

18歳未満でも政治に関心があって投票したい若者はいます。
では、何歳まで下げたらいいかというと、簡単には決められません。小学生でも投票したい子はいるでしょう。
何歳と決められないなら、年齢制限そのものをなくせばいいというのが私の考えです。
0歳から選挙権があることにして、投票したくなればいつでもできるようにすればいいのです。
これがほんとうの「普通選挙」です。

認知症や知的障害の人だからといって選挙権が制限されることはありません。年が若いからといって制限されるのは不当です。

もちろんこれは子どもの意志で投票するのが前提です。
親が子どもの投票を左右するようなことがあってはなりません。


維新の会の「0歳児から投票権」というのは、私の考えたものとは違って、「ドメイン投票制度」というものでした。

維新の会の藤田文武幹事長はインタビュー記事の中でこう語っています。


藤田:(略)ドメイン投票制度は何かというと「0歳から未成年の人にも投票権を与えましょう」というものです。ただし、たとえば0歳児は意思表示ができないので、保護者の方に一票を代行する権利があります。
そうすると、(政治家の)景色が結構変わって、子育て世代や若い人の声をもっと聞いたらいいんじゃないかというインセンティブが自然に働きますよね。子育て世代や若い人の票の強さを制度として高めるのは、僕は今の時代に合っていると思います。

能條:ふと一つ気になったのが、子どもの一票を保護者である両親が代行するとなったとき、父親と母親のどちらが投票するのでしょうか。

藤田:それは喧嘩になりますよね。家庭の事なのでじゃんけんで決めてもらいましょう。

能條:私の周りのカップルで、政党に関する意見が合わないというのは結構聞くんですよ。なので、どういう議論をされているのかなと思って。

藤田:そこまで議論を細かく詰めてはいないですね。https://www.huffingtonpost.jp/entry/ishin_jp_62a69bdfe4b06169ca8d32d1


要するに子育て中の親の投票数を増やす制度で、それによって政治が子育て世帯への支援を強化することが期待できるというわけです。

私の「0歳児投票権」の考えは、政治に子どもや若者の意見が反映させようというものですが、これは政治に親の意見をより反映させようというもので、まったく違います。

さらにいうと、この制度の根本的な問題は、子どもを独立した人格と見なしていないことです。
インタビュアーは夫婦喧嘩が起こることを心配していますが、子どもが自分の意志で投票したくなったとき、親子喧嘩も起こりそうです。
親と子が別人格であることを無視するような制度ですから、子どもの私物化や幼児虐待にもつながりかねません。

ウイキペディアによると、「ドメイン投票制度」というのはアメリカの人口統計学者のポール・ドメインが発案したものですが、まだどの国でも採用されたことがありません。
維新の会は目新しさと子育て支援になりそうなところに引かれて飛びついたのでしょうが、実際は「子どもの人権」をまったく無視する制度です。
維新の会の人権感覚が知られます。



「子どもの人権」を無視するといえば、アメリカの政治はもっと深刻です。

TBS NEWSの「バイデン政権失速の裏で・・・ 急拡大する母親団体に迫る」というニュースによると、去年1月にフロリダ州で3人の母親によって結成された「MOMS for LIBERTY」という団体が今では全米33州に拡大し、会員が7万人を超えたということです。

この団体は「母親の自由(権利)」を掲げて、地元の教育委員会などに「パフォーマンスの悪い教師はクビにするべきだ」「肌の色だけで弾圧者と被害者を決めつける教育には反対」「若い人たちにアメリカの価値観をきちんと学ばせるのがだいじ」などと要求する活動を行っています。
創立者の1人は、「アメリカでは親の権利が踏みにじられているんです。それを変えるのがこの団体の目的です」と語り、支持者である共和党議員は「学校のすばらしさを取り戻す」と語りました。

トランプ元大統領の言い分と似ていることからわかるように、これは保守系の団体です。
「子どものため」ということを大義名分にしていますが、実際のところは「母親の自由」や「母親の権利」を主張するほど「子どもの自由」や「子どもの権利」が失われるという関係になっています。


実はアメリカには「子どもの権利」という概念がありません(ドメイン投票制度の発案者もアメリカ人です)。
子どもの権利条約を締約(批准・加入・継承)している国・地域は世界に196あり、未締約国は1か国ですが、その1か国がアメリカです。
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ユニセフHPより


さらにいうと、女性差別撤廃条約を締約している国・地域は189で、未締約国は数か国ですが、アメリカも未締約国のひとつです。

なぜそうなるかというと、要するにアメリカは家父長制が根強い国だからです。父親が母親と子どもを強権的に支配していて、女性の権利も子どもの権利もないがしろにされています。
このような家庭が保守派の支持基盤になっています。

アメリカでは女性差別と子ども差別が家庭の中で再生産され続けているので、人種差別などもなくすことができず、ポリティカル・コレクトネスという言葉狩りをするしかないのが現状です。


アメリカは子どもの権利条約も女性差別撤廃条約も締約していないという事実はほとんど知られていないのではないでしょうか。
アメリカは奴隷制を廃止したのが世界でいちばん遅く、黒人に選挙権が認められたのも1965年ですから、世界に冠たる差別主義国家です。
その国がウイグル族の人権問題で中国を非難するなど、人権で世界をリードするようなふりをしているのは滑稽なことです(ウイグル族の人権問題はもちろん重要です)。


子どもは社会の最弱者です。
「子どもの人権」さえ理解すれば、強者と弱者の関係で成り立っている社会の仕組みが全部見えてきます。
ポイントは、親すらも「子どもの人権」を踏みにじることがあるということです。

日本は子どもの権利条約締約国なのに、まるでアメリカと同じように「子どもの権利」がほとんど無視されているのはおかしなことです。