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私が昔出版した小説がこのたび4冊同時に電子書籍になりました。
アマゾンのサイトを紹介します。












私は最近小説を書いていないので、小説家と名乗るのもためらいますが、一時期は、自分で言うのもなんですが将来を嘱望された小説家だったのです。


『恐怖の日常』は、私の最初の短編集で、オーソドックスなホラーばかりを集めました。ホラーファンなら誰にでも勧められます。

『不潔革命』は、ホラー以外の短編を集めたもので、だいたいはSFですが、ジャンル分けのしにくいものもあります。
表題作は、不潔であることがトレンディでかっこいいとされるようになった世の中を描いています。「性教育の時間」は、子どもに性教育をするのが当たり前になったときの教室の様子を描いています。「最後の戦争」は、人類が戦争のバカバカしさに目覚めて戦争が起こらなくなった未来社会を描きました。このように既成の価値観をひっくり返すのが私の得意とするところです。

『愛の衝撃』は、第二のホラー短編集です。自分の中で力を出しきれていない感じがあり、『恐怖の日常』のようには自信を持って勧められないのが残念です。

なぜ力を出しきれていないのかというと、『フェミニズムの帝国』出版のときのいきさつがあったからです。



『フェミニズムの帝国』は私の最初の、そして唯一の長編小説です。
それまで雑誌にぽつりぽつりと短編を発表していた私が満を持して書き上げたものです。

当時、マルクス主義が思想として力を失い、現代思想にもあまり可能性が感じられなかった中、唯一勢いのあった思想がフェミニズムでした。私は男性ながらけっこうフェミニズムの本を読んでいました。
そうしたとき、ある理由で女性が男性よりも強くなるというアイデアを思いつきました。最初はこれで一本短編が書けるなと思いましたが、強くなった女性が男性を支配する社会全体を描くとおもしろいと考え、長編を構想しました。
大林信彦監督の「転校生」(原作・山中恒)は、個人の男と女が入れ替わる物語ですが、私の構想は、社会全体で男と女の役割が入れ替わるというものです。それには社会の構造や価値観を全部つくらねばなりませんが、そのときにフェミニズム理論、ジェンダー論が役に立ちました。

物語は、近未来の女性優位社会において、男性はおしとやかで従順であることが求められ、女性によって痴漢被害にあったりレイプされたりしているのですが、ほとんどの人はそれを当然のこととして受け入れています。主人公の平凡な男性は、過激な男性解放運動に巻き込まれ、この世界の成り立ちの秘密を探っていくというものです。読者は、女性優位社会のおかしな価値観を笑っているうちに、では、今の男性優位社会の価値観はおかしくないのかと考えざるをえないという仕組みになっています。

ほとんどの男はフェミニズムに反感を持っていますが、私はそういう男でも読める小説を目指しました。おもしろおかしく読んでいくうちに、むずかしいフェミニズム理論がおのずと理解できるというお得な小説です。

『フェミニズムの帝国』が出版されたのは1988年です。その2年前に男女雇用機会均等法が施行され、それまで女性会社員は“職場の花”などと言われ、結婚すれば退職するのが当たり前でしたが、そうした慣習が否定されて、人々は価値観の激変にとまどっているときでした。
そうした中に『フェミニズムの帝国』を出版すれば話題になるのは確実で、私はこれをベストセラーにして世の中の価値観を変えてやろうという意気込みでした。

ところが、担当編集者(男性)はこの小説のことをまったく理解していませんでした。『家畜人ヤプー』みたいなマゾヒズムの小説と理解して、世紀末の退廃的な絵を表紙にした異端文学として出版したのです。
このいきさつについてはこのブログでも書いたことがありますし、今回の『フェミニズムの帝国』の「電子版あとがき」にも書きましたので、省略します。


ともかく、編集者にまったく理解してもらえなかったことがトラウマとなり、「私の書くことは理解されない」という思いが脳に深く刻み込まれて、執筆の妨げになり、だんだんと小説が書けなくなり、今にいたっています。


私はいくつかベストセラー小説を書き、ひとかどの作家として認められたら、次にマルクス主義もフェミニズムも超えた「究極の思想」の本を書くつもりでした。
しかし、「私の書くことは理解されない」という思いがあったのでは、小説よりもさらに思想の本は書けません。
そうして30年余りがたちました。
さすがにトラウマも癒えてきて、なんとか「究極の思想」の核心部分はすでに書き上げました。

「道徳観のコペルニクス的転回」というブログをお読みください。

今の知の枠組みを根底からくつがえす思想であることを理解してくれる出版社があれば出版したいと思います。


今回4冊が電子書籍化されましたが、2015年に KADOKAWA より電子書籍化された『夢魔の通り道』というホラー短編集もあるので、お知らせしておきます。