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連続強盗事件の指示役である「ルフィ」がフィリピンの入国管理局の収容施設に拘束されていたことがわかりました。施設内から携帯電話を使って犯罪の指示を出していたそうです。
収容所内で酒や覚醒剤、バカラなどのギャンブルをしていたという報道もあります。
メキシコやコロンビアなどでは犯罪組織のボスが刑務所内で優雅な生活をして、外に犯罪の指令を出しているという話を聞きますが、フィリピンでもそれに近いことが行われていたわけです。

アジアの国は概して犯罪が少ないものですが、フィリピンは別です。麻薬犯罪が横行して、ドゥテルテ前大統領は容疑者をその場で射殺していいという荒っぽいやり方を指示しました。今はいくらか犯罪がへったようですが、入管施設の実情を見てもわかるように、警察や司法組織が腐敗しているのでたいへんです。
ちなみにドゥテルテ前大統領は“フィリピンのトランプ”と呼ばれていました。
フィリピンはかつてアメリカの植民地でしたから、アメリカの影響を色濃く受けています。


世界で犯罪の多い国はどこでしょうか。
犯罪といっても、なにが犯罪であるかは国によって違い、警察の取り締まりも違いますが、殺人に関してはあまりごまかしができません。
「世界・人口10万人あたりの殺人件数ランキング(WHO版)」というサイトから上位17か国を切り取ってみました。

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17か国中、南アフリカとレソトはアフリカですが、それ以外はすべて中南米の国です(ちなみにフィリピンは32位で、アジアでは最上位)。


中南米は「アメリカの裏庭」と言われるぐらい圧倒的なアメリカの影響下にあります。

アメリカ式犯罪対策は、ハリウッド映画と同じで、犯罪者を荒っぽくやっつけるというものです。こういうやり方は一時的に効果があるようでも、犯罪者や一般人も荒っぽいやり方を真似するので、かえって治安が悪化するものです。
アメリカ文化の影響が中南米の犯罪に及んでいるかもしれません。

犯罪のいちばんの原因は貧困です。
中南米の国はどこも経済的にうまくいっていません。アジアでは多くの国が経済的離陸を達成しているのと対照的です。
ブラジルだけは一時BRICsと呼ばれて、その成長力が期待されましたが、最近は停滞気味です。

なぜ中南米の国は経済がうまくいかないのかというと、政治が安定しないことが大きいでしょう。
多くの国では政府派と反政府派が年中衝突し、しばしばクーデターが起こり、反政府ゲリラが地方を支配しています。行政も腐敗して賄賂が横行しています。
そのため主な産業は第一次産業です。
第一次産業でもバナナ栽培の比重が大きいので、中南米の国を「バナナ共和国」と揶揄することがあります。

2021年1月、アメリカで議事堂襲撃事件が起きたとき、息子ブッシュ元大統領は「これはバナナ共和国で起こるような事件で、民主主義国家の姿ではない」と言いました。
アメリカ人が中南米の国を見下していることがよくわかります。


では、中南米の国がなぜバナナ共和国になったのかというと、これはもっぱらアメリカのせいです。
ウィキペディアの「バナナ共和国」の項目から引用します。
もともとこの言葉が生まれたのは、20世紀初頭の中米で、ユナイテッド・フルーツやドール、デルモンテなどアメリカ合衆国の農業資本企業が、広大なプランテーションを各国に建設し、その資金力で各国の政治を牛耳ったことに由来する。バナナの生産及び輸出には厳密な管理が必要だったため、各社は鉄道や港湾施設など、必要なインフラストラクチャーを自己資金で建設し、さらにバナナビジネスがうまく行くよう、各国の支配者層と結託して自らに有利な状況を維持させ続けた。 また、これらの国々の多くには他にめぼしい産業が育たなかったこともあり、外国の巨大企業に対抗できる勢力はほぼ存在せず、巨大企業、ひいてはそのバックにいるアメリカ合衆国の言いなりになる従属国化の道を歩むこととなった。

一例としてグアテマラを取り上げてみます。伊藤千尋著『反米大陸』という本を参考にしました。

十九世紀末、ユナイテッド・フルーツ社の前身は、腐敗したグアテマラ政府に食い込み、グアテマラのバナナをアメリカに輸出する権利を一手に握ります。さらに鉄道会社を設立し、鉄道沿いにバナナ園を開く権利を獲得します。そこには先住民がトウモロコシなどの畑を持っていましたが、同社は政府の力を後ろ盾に土地を安く買い、先住民を安い労働力にしてバナナを生産しました。買収に応じない先住民は軍が追い出しました。
1931年の大統領選ではユナイテッド・フルーツ社はウビコ将軍に肩入れして当選させます。ウビコ大統領は投資を誘うためにアメリカ企業に大幅な免税特権を与える一方、軍の力で先住民を動員して公共事業の強制労働をさせ、賃金を払わないという暴政をします。そして、「グアテマラ・ゲシュタポ」と呼ばれた秘密警察を組織して、反対者を逮捕、処刑しました。
暴政に怒った民衆は反政府デモを起こし、1944年、「グアテマラ革命」と呼ばれる政変が起きます。ウビコ大統領は辞任し、アメリカに亡命します。翌年の大統領選で大学教授のアレバロが当選し、民主的な政権ができ、労働者の待遇改善を進めますが、不利益を受けるユナイテッド・フルーツ社はアメリカ政府に介入を要請します。アメリカ国務省は同社に有利になるように労働法の改定を求めましたが、アレバロ大統領は拒否します。
次のアルベンス大統領はさらに民主的な政策を進め、ユナイテッド・フルーツ社に対して大企業として相応の税金を払うように求めました。それまで同社は独裁政権の高官を買収して税金をほとんど払っていなかったのです。さらにアルベンス大統領は農地改革を進めました。そのときユナイテッド・フルーツ社はグアテマラの国土の42%の土地を支配していました。政府は同社の土地を接収し、補償金を払いましたが、同社は補償金が異常に安いと怒ります。もっとも、政府としては同社がこれまで支払ってきた税金を基準に決めたというのが言い分です。
アメリカ政府はグアテマラ政府にユナイテッド・フルーツ社に対して巨額の補償金を払うように要求しますが、グアテマラ政府は拒否したため、アメリカ政府はグアテマラ政府の転覆を決意します。
このときのアメリカ国務長官はジョン・フォスター・ダレスで、その弟はCIA長官のアレン・ダレスでした。この兄弟はともにユナイテッド・フルーツ社の大株主で、兄は同社の顧問弁護士でもありました。
アメリカ政府はグアテマラ政府に対して共産主義政権だというレッテル張りをして国交断絶をし、CIAはグアテマラ人の傭兵を集め、元グアテマラ国軍のアルマス大佐の指揮下、グアテマラに侵攻させ、米軍は爆撃の支援をして、政権を転覆します。そして、アルマスは大統領になり、農地改革を中止して、農民に配られた土地を元の地主に戻したので、ユナイテッド・フルーツ社は土地を取り戻しました。
その後のグアテマラは悲惨でした。アルマス大統領は3年後に自分の護衛兵に暗殺され、以後はクーデターが続き、軍部の左派は農村部で活動するゲリラとなり、軍部の右派は政権を握り、反対派を暗殺する恐怖政治を行いました。政府と左派ゲリラの和平協定が調印された1996年までに約20万人の犠牲者が出たといわれます。


グアテマラは一例で、多くの国で似たようなことが行われてきました。
アメリカはその国の政治家や官僚を動かしてアメリカ政府やアメリカ企業に有利な政策を行わせます。当然、その反対の動きが出て、親米右派対反米左派が激しく対立するというのが中南米の政治です。
そして、アメリカはアメリカの利益になるなら、その国の民主主義を踏みにじって独裁政権を支援することも平気です。

今、バイデン政権は「民主主義国対権威主義国」ということを唱えて、民主主義国の旗頭のような顔をしていますが、これまでアメリカは多くの独裁国を支援してきたので、アメリカの言い分を真に受けるのは愚かです。

アメリカは、武力で政権を転覆させる試みはキューバでも行いましたし(失敗)、グレナダでは直接の武力侵攻も行いました。「アメリカの裏庭」ではなにをしてもいいという感覚です。
ロシアのウクライナ侵攻も「ロシアの裏庭」という感覚かもしれません。


中国は安い労働力を利用して安価な工業製品をアメリカに輸出することを主な原動力として経済発展してきました。
メキシコも安い労働力があり、地理的には中国よりも圧倒的に有利ですが、中国のように経済発展することはできませんでした。今でも貧困のために多くの不法移民がアメリカに脱出するので“トランプの壁”をつくられる始末です。
これは中国人とメキシコ人の国民性の違いでしょうか。
国民性もあるかもしれませんが、それよりもアメリカ人の人種差別意識のほうが大きいのではないかと思います。

たとえばプエルトリコは、アメリカの自治連邦区という位置づけになり、住民はアメリカ国籍を持ち、アメリカのパスポートを持てますが、アメリカ本土との経済格差はひじょうに大きく、本土に出稼ぎに出る人が多く、その仕送りが大きな収入源になっています。なぜプエルトリコはいつまでも貧しいのかと考えると、やはりアメリカ人(とくに白人)の差別意識のためではないでしょうか。

貧しい人が成功しようと思ったら自分で商売を始めることです。奴隷から解放された黒人にも商売を始める人がいました。しかし、黒人の商店は必ず白人のいやがらせ、破壊、放火にあい、つぶされました。今でも黒人経営の商店というのはごくわずかしかありません。
中国人や韓国人の商店はそのようないやがらせにはあわず、アメリカには中国人や韓国人経営の商店が多くあります(こうした店は暴動のとき黒人の略奪の対象になります)。

つまりアメリカ人の差別意識も微妙です。
日本や中国がアメリカに輸出することで経済成長できたのもその差別意識のおかげともいえます。


アメリカの外交は人種差別に大きく影響されているので、「人種差別外交」と見るべきです(国際ジャーナリストの田中宇氏は、アメリカは世界を多極化させるためにわざと自滅的な外交をやっているのだという説を唱えていますが、そうではなくて、単に人種差別外交をやっているために自滅的になるのです)。
中南米とアフリカは完全に見下されています。
カナダ、オーストラリア、ヨーロッパは対等に近い感じですが、同じヨーロッパでも東ヨーロッパは見下されています。
イスラム教の国も見下されています。というより敵意を持たれているといったほうがいいでしょう。湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争を見れば明らかです。


アメリカのアジアに対する態度は微妙です。
アメリカはずっと中国を経済的に利用してきましたが、最近はライバルと認定して、つぶしにかかっています。

そうすると、日本への態度はどうなのかということになります。
おそらく日本がバブル経済で「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などと浮かれていたころ、アメリカは態度を変えたと思われます。
以来、日本がずっと貧困化の道をたどってきたのは、“アメリカの見えざる手”にあやつられていたのではないでしょうか。
日本はずっと親米右派政権で、日本よりもアメリカの利益を優先する政策を行ってきましたが、日本人はそれがおかしいと気づきません。
今は経済再生のために投資しなければならないのに、アメリカに防衛費倍増を約束させられ、さらに転落することは確実です。

日本は犯罪がきわめて少ない国ですが、貧困化が進めば犯罪も増えます。
「ルフィ」が指示役だった連続強盗事件はまるで南米の犯罪みたいです。
これから日本はどんどん南米化の道を歩むことになるかもしれません。