特定秘密保護法案が11月26日、衆院本会議で可決され、参院に送付されました。
今になって反対運動が盛り上がっていますが、手遅れかもしれません。
私はもちろん特定秘密保護法案に反対です。これまでこのブログで取り上げなかったのは、「特定秘密保護法案はけしからん」というような当たり前のことを書いてもしょうがないからです。
ただ、ここにくると、いろいろと書きたいことも出てきました。
根本的なことをいえば、民主党政権から自民党政権に変わったのがよくなかったのです。民主党政権をささえるか、少なくとも自民党に大勝させなければ、こんなことにはなりません。
しかも民主党のイメージダウンがはなはだしいので、自民党政権はかなり長期にわたって続きそうです。そのため、特定秘密保護法案に反対の声が強くても自民党は平気です。
ですから、民主党政権の失敗を正しく総括して、再び政権交代の可能性があるようにすることが根本的な対策です。
民主党政権の失敗を分析するのは簡単にはできませんが、象徴的なことをひとつ取り上げてみます。
復興予算を復興以外のところに流用していたことが問題になったことがありました。これは民主党政権下のことだったので、これも民主党政権のイメージダウンになりました。
実際のところは、災害復興特別予算を復興以外のところに流用するのは、これまでもずっと行われてきたのです。民主党政権下で初めて明らかになったにすぎません。
そして、民主党政権下で初めて明らかになったのには理由があります。私はそれを朝日新聞の記事で読みました。朝日新聞のサイトでは公開期間をすぎていましたが、検索してみると、あるブログにその記事が紹介されていました。
孫引きになりますが、一部を引用します。
復興予算流用 透明化したから失態見えた 三輪さち子記者 2012年11月3日
これは数少ない政権交代の意義だ。
流用問題が明るみに出たのは、民主党政権が導入した「行政事業レビュー」の過程で情報が公開されていたからだ。きっかけとなった報道も国会審議も、もととなる情報は誰でも見られる。民主党が無駄遣いをなくすためにつくった仕組みで、自らの失態をさらしたことになる。
行政事業レビューとは、省庁が自らの事業を評価する仕組みで、予算編成の概算要求前におこなう。どんな団体にお金が流れたか、目標に対して成果は何%だったかなど、省庁のホームページで公開する。行政刷新会議の事業仕分けで取り上げるのはごく一部の事業だが、これは国の約5千事業すべてが対象になる。自己点検を透明化し、無駄遣いを防ぐ狙いだ。
取材した当時、私には意義が感じられなかった。役所が自分たちで仕分けをして、本当にチェックしたと言えるのか疑問だった。復興予算の流用が問題になって初めて、予算の中身を透明化する重大さに気づかされた。
つまり、民主党政権が情報公開のルールをつくったので、役所が復興予算を勝手に流用するという実態が初めて見えたのです。
ですから、復興予算の流用が明らかになったことについては、民主党政権はみずからの成果として誇ることもできたのではないかと思います。少なくとも、流用については謝罪する一方で情報公開の成果を誇るというやり方はできたはずです。
民主党政権はつくづく下手だったと思います。
「行政事業レビュー」は安倍政権のもとでも続けられています。
内閣官房「行政事業レビュー」
5000を超える国のすべての事業について、事業の内容や資金の流れがウェブ上で公開されているというのは、考えてみれば画期的なことです。たとえば防衛省の「戦車」の項目を見ると、「120mm戦車砲砲座付き」の値段まで書いてあります。
しかし、「行政事業レビュー」のことも、それがウェブ上ですべて公開されていることも知らない人が多いのではないでしょうか。
特定秘密保護法案が成立すると「行政事業レビュー」にどう影響するのかわかりませんが、官僚がこうした情報公開の流れに逆行するためにつくったのが特定秘密保護法案であることは間違いないでしょう。
そもそもは、日本は「スパイ天国」であるというプロパガンダのもとでスパイ防止法案が提出されましたが、廃案となりました。そして、民主党政権下で尖閣諸島での中国漁船と海上保安庁の巡視船の衝突ビデオが流出したとき、それを理由に今回の特定秘密保護法案のようなものが画策されました。そして、今回はアメリカとの情報共有を理由にして特定秘密保護法案が提出されたというわけです。
自民党政権下でも民主党政権下でも画策されてきたということは、結局のところ官僚が必要とする法律だということでしょう。
そして、自民党は官僚依存の政党ですから、今回衆議院を通過するところまできたというわけです。
このように考えると、特定秘密保護法案に反対する人たちの言い分には少しずれたところがあります。
たとえば、「メディアが捜査対象になる」とか「一般市民も捜査対象になる」といったことが反対理由に挙げられますが、たいていの人は自分が警察の捜査対象になるとは思っていないので、そういう人には訴える効果がありません。
また、「治安維持法と同じだ」とか「戦前の暗い時代に逆戻りだ」とかもいいますが、これは論理に飛躍があります。
というのは、特定秘密保護法を推進している人たちは、「戦前に逆戻りさせよう」と思ってやっているわけではないからです。自分たちにとってつごうの悪いことを隠したいと思ってやっているだけです(それが結果的に戦前に逆戻りすることになる可能性はありますが)。
それに、多くの一般の人も「こんなことで戦前に戻ることはないだろう」と思っているでしょう。
要するに「不都合なことを隠したい官僚」という敵にターゲットを絞っていないので、反対の論理に説得力がないのです。
その点、橋下徹大阪市長のほうが明快です。
「都合の悪いもの隠す」橋下氏、特定秘密30年後公開は「最低限必要」
産経新聞 11月19日(火)14時23分配信
国の機密を漏らした公務員らの罰則を強化する特定秘密保護法案をめぐり、日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長は19日、政府が秘密を指定できる期間を最長30年とし、範囲を防衛関連に限定するなどの維新の主張について「情報は原則公開だということを考えれば、最低限必要だ」と述べた。市役所で記者団の取材に答えた。
橋下氏は特定秘密指定の妥当性をチェックする第三者機関の設置も主張した上で、「行政機関がきちんと秘密を取り扱うような組織ではない。都合の悪いものを隠すのは人間のさがで、特に権力機構になればそういう動機は強まる」と指摘した。
また、自民党の村上誠一郎議員や、みんなの党の造反議員も主張は明快です。
「拙速」「官僚統制強化」4議員造反 秘密保護法案
2013年11月26日23時37分
26日の特定秘密保護法案の衆院採決で自民党の村上誠一郎氏が退席した。与党と修正協議し賛成に回ったみんなの党からも反対・退席する議員が出た。
村上氏は記者団に「米国には第三者監視機関があるのに、日本はない。一番ひどいのは(秘密の指定期間が)最長60年。俺たちが生きている間に正しいかどうかも判断できない。問題がいっぱいある。政治家として法案に自信がもてない」と語った。
みんなで修正協議を担当した井出庸生、林宙紀の両氏は起立採決で着席して反対した。採決後の記者会見で井出氏は「政府が国民に足かせをつけるような法案。こうした法律は最小限であるべきで極めて慎重な運用が求められる」と反対の理由を述べた。林氏も「結局、官僚統制強化法。みんなの党是に逆行する。党内議論がまったく尽くされていない」と語った。
みんなの江田憲司前幹事長は採決前に「強行採決に抗議して退席します」と手書きの紙を党幹部に手渡して退席した。記者団に「法案が少しでも官僚支配を助長するような恐れがあるなら、懸念を払拭(ふっしょく)するのが我が党の責務だ。ギリギリの決断で退席がベストだと判断した」と語った。
マスコミは官僚依存なので、官僚批判をほとんどしません。また、左翼は国家権力全般は批判しても官僚批判はあまりしません。そのため反対理由が妙に被害者意識に訴えるものになったり、戦前回帰という大げさなものになったりするのでしょう。
民主党政権は脱官僚依存を目指して失敗しましたが、結局のところ、官僚と戦わない限りなにごとも前に進みません。
私としては、特定秘密保護法案が通ると行政のミスやムダが隠され、行政改革や公務員制度改革ができなくなるということを訴えたほうが効果的ではないかと思います。