イギリスのブレア元首相がイラク戦争で謝罪したという報道がありましたが、よく読むと、判断にミスがあったことを謝罪しただけで、戦争そのものはむしろ正当化しているのでした。
■ブレア英元首相がイラク戦争で謝罪、イスラム国台頭の「一因」
[ロンドン 25日 ロイター] - 英国のブレア元首相は25日に放映された米CNNとのインタビューで、在任中の2003年に始まったイラク戦争が過激派組織「イスラム国」の台頭につながったと認め、戦争に踏み切る際の計画にミスがあったと謝罪した。
同戦争がイスラム国台頭の主な原因だと思うかとの問いに、ブレア氏は「いくらかの真実」があるとコメント。当時のフセイン政権を倒した米主導の有志国が現在の状況と無関係だとは言えないと認めた。
専門家らは、米国が旧イラク軍の解体を決めたことで、国内の治安に空白が生まれ、それが後にイスラム国誕生につながったとしている。
ブレア氏は、参戦前の計画や情報や戦後への準備において誤りがあったとして謝罪の意を示したが、フセイン政権を倒したことは正しかったと主張した。
当時、ブッシュ政権は大量破壊兵器があるという嘘の情報を意図的に採用し、戦争の理由としました。ブレア氏はだまされたのは自分のミスだとして謝罪したのでしょうが、本音では自分はだまされた被害者だという意識もありそうです(小泉元首相も同じような心境でしょう)。
さらに、フセイン政権を倒したのは正しかったと主張しています。別の報道では、「サダム(フセイン元大統領)の排除については謝罪し難い。2015年の現代から見ても、彼がいるよりはいない方がいい」と言っています。
しかし、この主張は「民族自決権」をまったく無視しています。独裁政権より民主政権のほうがいいとしても、それはイラク国民がみずから選ぶことで、他国が戦争で押しつけることではありません。
「民族自決権」というのは個人でいえば「自己決定権」ということです。親がむりやり子どもを医者にするとか、一流大学に入れようとするとかは、子どもの「自己決定権」を侵害する行為ですが、ブレア氏はそういう親と同じようにイラクに民主主義を押しつけたことを正当化しています。
しかし、そういうやり方はうまくいきません。イラクは一応民主主義政権になったとはいえ、アメリカの傀儡政権みたいなもので、国民の支持はあまりありません。アメリカ軍が訓練した政府軍はイスラム国との戦争になると高性能の兵器を放り出して逃げてしまい、イラクで戦闘力があるのはシーア派民兵組織やクルド人部隊です。
アフガニスタンも一応民主主義政権ができていますが、いつまでたっても安定しません。
ところで、日本はアメリカから民主主義を押しつけられてうまくいっているようですが、もともとどこの植民地にもならずに自力で帝国憲法と帝国議会をつくって民主主義を取り入れた国です。この、自力で獲得したということがだいじなのだと思います。
今、イスラム諸国の民族自決権を尊重すると、イスラム国やタリバンみたいな過激な勢力が政権を取る可能性がありますが、アメリカやイギリスはそれを受け入れる度量を持たなければなりません。
最初は過激な政権でも、時間がたてばだんだんと穏健化・世俗化していくとしたものです。それに、フセイン政権を初め世界の独裁政権の多くは、アメリカがつくったり育てたりしたということも忘れてはいけません。
ブレア氏が平気で民族自決権を無視した主張をするのは、イスラム教徒やアラブ人に対する差別意識があるからです。
愚かなアラブ人やイスラム教徒は自分のこともまともに決められないので、私たち白人キリスト教徒が決めてやらなければならない、というわけです。
こうした差別意識は欧米に広く存在するので、ブレア氏の発言もとくに批判されていないようです。
日本人も欧米式の価値観に染まっているので、ブレア氏の発言を批判する人はほとんどいません。