11月24日、トルコの戦闘機がロシアの戦闘爆撃機を撃墜しましたが、日本ではトルコを非難する声はまったくといっていいほどありません。
もしロシアがトルコ軍機を撃墜していたら、ロシアを非難する声があふれたのではないでしょうか。
冷戦が終わって、ロシアは資本主義国になり、一応選挙の行われる民主主義国になったのですから、NATOなどいわゆる西側は思想的にロシアを敵視する理由はありません。
それでもウクライナ問題などを見ていると、いまだに東西冷戦を引きずっている気がします。
日本のマスコミもこぞって西側つまりトルコ寄りの報道をしています。
国際ジャーナリストの田中宇氏は西側に偏らない見方のできる人です。
そもそもロシア軍機がトルコ領空を侵犯したのか否かという問題があるのですが、これについて田中氏は「トルコの露軍機撃墜の背景」という記事を書いているので、そこから引用します。
トルコ政府が国連に報告した情報をウィキリークスが暴露したところによると、露軍機はトルコ領内に17秒間だけ侵入した。米国政府(ホワイトハウス)も、露軍機の領空侵犯は何秒間かの長さ(seconds)にすぎないと発表している。 (Russia's turkeyairspace violation lasted 17 seconds: WikiLeaks)
トルコとシリアの国境線は西部において蛇行しており、トルコの領土がシリア側に細長く突起状に入り込んでいる場所がある。露軍機はシリア北部を旋回中にこのトルコ領(幅3キロ)を2回突っ切り、合計で17秒の領空侵犯をした、というのがトルコ政府の主張のようだ。(The Russian Plane Made Two Ten Second Transits of TurkishTerritory)
領空侵犯は1秒でも違法行為だが、侵犯機を撃墜して良いのはそれが自国の直接の脅威になる場合だ。露軍機は最近、テロ組織を退治するシリア政府の地上軍を援護するため、毎日トルコ国境の近くを旋回していた。露軍機の飛行は、シリアでのテロ退治が目的であり、トルコを攻撃する意図がなかった。そのことはトルコ政府も熟知していた。それなのに、わずか17秒の領空通過を理由に、トルコ軍は露軍機を撃墜した。11月20日には、トルコ政府がロシア大使を呼び、国境近くを飛ばないでくれと苦情を言っていた。(Turkey summons Russia envoy over Syria bombing 'very close'to border)
(2012年にトルコ軍の戦闘機が短時間シリアを領空侵犯し、シリア軍に撃墜される事件があったが、その時トルコのエルドアン大統領は、短時間の侵犯は迎撃の理由にならないとシリア政府を非難した。当時のエルドアンは、今回とまったく逆のことを言っていた)(Erdogan in 2012: Brief Airspace Violations Can't Be Pretextfor Attack)
田中氏の「侵犯機を撃墜して良いのはそれが自国の直接の脅威になる場合だ」という主張はごく常識的なものです。
しかし、日本のマスコミはそういう主張をまったくしません。それをするとトルコを批判することになるからでしょう。
つまりいまだに“西側”に縛られているのです。
戦争反対、人命尊重という当たり前の観点からもトルコの行動は批判されるべきです。
それから、ロシア軍機から脱出した2人のパイロットがパラシュートで降下中に地上から銃撃され、1人が死亡しました。
これについて在日ロシア大使館の公式ツイッターアカウントが過激なツイートをしているというので、J-CASTニュースが記事にしています。
爆撃機撃墜めぐり「アメリカの報道官は頭大丈夫?」在日ロシア大使館がまたまた「らしからぬ」ツイート
「過激」なツイートでたびたび物議を醸す在日ロシア大使館の公式ツイッターアカウントが、トルコ軍がロシア軍の爆撃機を撃墜した問題をめぐり、また踏み込んだツイートを連発している。
「(アメリカの報道官は)頭大丈夫?」「トルコ大統領はISの権利を守っているのか?」など、公的機関の発信らしからぬ表現で怒りを表明。一部のネットユーザーから「口が悪いと信用失いますよ」とたしなめられるリプライが相次ぎ、ネット上の騒ぎになっている。
2015年11月24日、シリアとトルコの国境付近を飛行していたロシア軍の爆撃機を「領空を侵犯した」としてトルコ軍が撃墜。撃墜の際にパラシュートで脱出した乗員の1人が地上から銃撃されて死亡、救出に向かったヘリコプターも攻撃を受けた。これをうけ、ロシアがトルコとの軍事的な接触を中断するなど、両国の対立が深まっている。
トルコのエルドアン大統領は25日、イスタンブールで開かれた企業家との会合で「ただ、我々の安全と、同胞(トルクメン人)の権利を守っているだけだ」と主張。対するロシアも、ラブロフ外相が25日にロシア機は領空を侵犯していないと会見で強調し、「トルコ政府は事実上、過激派組織『イスラム国』(IS)の側に立った」とトルコ側を強く非難した。
そんな中、在日ロシア大使館のアカウントは26日、前出のエルドアン大統領発言について、「(守っているのは)シリアで活動しているいわゆるイスラム国(IS)やその他のテロ組織の同胞の権利ですか?」と疑問を呈した。
これで怒りが収まらなかったのか、トルコも参加する対ISの有志連合を主導するアメリカにも批判の矛先が向けられた。25日の会見でトルコ軍が脱出した乗員を銃撃したのは「正当防衛」と述べたアメリカのトナー国務省副報道官に対して、「丸腰のパイロットに対する非道な行為。頭大丈夫??」と責める言葉をつぶやいた。
こうしたツイートには、「口が悪いと信用失いますよ」「領空侵犯した時点で何もいえません」といったリプライが寄せられている。しかし、11月26日18時半現在、公式アカウントはこれに反応しておらず、自身のツイートも削除していない。発信しているのが誰なのかも不明だ。
(後略)
アメリカのトナー国務省副報道官に対して「頭大丈夫??」とツイートしたことが問題にされていますが、それよりも副報道官が脱出したパイロットを銃撃したことを「正当防衛」と述べたということのほうが大問題でしょう。ほんとうに述べていたら「頭大丈夫??」ぐらい言われて当然です(調べてみるとその発言は確認できなかったので、ロシア大使館の誤解の可能性もあります)。
いずれにせよ、パラシュートで降下する戦闘機のパイロットを下から銃撃するのは「ジュネーブ条約違反の戦争犯罪」であると田中宇氏も指摘しています。ジュネーブ条約を持ち出さずとも、それが犯罪的であることは容易にわかります。敵艦が沈んだとき海上に浮かぶ乗組員を銃撃するようなものだからです。
ロシア軍機のパイロットを銃撃したのは、トルコの正規軍ではなく、シリアにいる武装勢力のようです。
そのときの動画がありますが、撃ちながら笑い声も上がっています。
YOUTUBE パラシュートで降下中のパイロットを銃撃する
この武装勢力はトルコの支援を受けているのではないかと推測されますが、もし同じことをISがやったら、犯罪だ、残虐だと大合唱が起きているはずです。
在日ロシア大使館の公式ツイッターは、トルコ軍機はシリア領空に侵犯してロシア軍機を攻撃したとも主張しています。パイロットがシリア領土に降下したことを考えると、その可能性は大いにありそうですが、このこともマスコミはまったく問題にしていません。
欧米や日本のマスコミは、もともと人種差別とイスラム教差別で中東情勢を報道していましたが、ISへの空爆が始まってからはISを悪者に仕立て上げ、ロシアが介入してからはロシアを悪者に仕立て上げるので、中東情勢はますますわけのわからないことになっています。