村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

2017年04月

北朝鮮情勢は、見る角度によってぜんぜん違って見えます。
たとえばロシアから見れば、金正恩よりもトランプのほうが危険だと、ニューズウィーク日本版の記事が書いています。
 
半島危機:プーチン静観は、北朝鮮よりトランプのほうが危ないから
 
ロシアにしてみれば、北朝鮮の核が自分のところに向けられるとは思っていないのでしょう。
 
その点では中国も同じで、北朝鮮の核を脅威とは感じていないはずです。
考えてみれば、北朝鮮のICBM開発を脅威に感じるのはアメリカだけです。
トランプ大統領は中国が北朝鮮に圧力をかけてくれるのを期待しているようですが、中国が本気でやるとは思えません。表向き制裁しているふりをするというのがこれまででしたし、今回も同じでしょう。
 
韓国もまた北朝鮮に対してあまり危機感がないようです。安倍首相が朝鮮半島からの難民流入の可能性に言及すると、韓国外務省の報道官は「仮想の状況を前提にした言及は誤解を招き、平和と安定に否定的な影響を及ぼしかねず自制すべきだ」と不快感を示し、大統領選の各陣営も「日本が危機感をあおっている」と批判しました。
ソウルは北朝鮮の長距離砲の射程内にあり、戦争になれば「火の海」になるとも言われます。それでいて危機感がないのは、北朝鮮と同胞意識があるからでしょう。同胞がソウルを「火の海」にするわけがないと思っているのです。
 
 
では、日本はどうかというと、安倍政権とマスコミはやたら危機感をあおっています。
アメリカと日本を一体と見なしているからです。
 
しかし、日本は韓国のような同胞意識を持つことはできないとしても、拉致問題さえ棚上げにすれば、ロシアや中国と同じ立場に立つことはできるはずです。
そして、日本がロシアや中国と同じ立場に立てば、北朝鮮の核を脅威に思うこともなくなります。
 
主権国家が自衛のために軍備を持つことは当然の権利です。
北朝鮮が核を搭載したICBMを持つことは止められません。
しかし、そうなっても、核保有国の中国とロシアに北朝鮮が加わっただけの話です。
 
冷戦思考から脱却すれば、北朝鮮の核は決して脅威になりません。
逆に、トランプ政権が軍事力で北朝鮮の核武装を阻止しようとするなら、トランプ政権のほうこそが脅威です。

このごろテレビのワイドショーは北朝鮮情勢のことばかりですが、見ていると、コメンテーターはトランプ政権になにか戦略があるという前提で、トランプ大統領や政府高官の言葉をいちいち真に受けたり、その意図を“忖度”したりしています。
しかし、トランプ大統領がカール・ビンソン空母打撃群を朝鮮半島近海に派遣すると表明し、シリアのアサド政権軍をトマホークで攻撃した直後だっただけに世界に緊張が走りましたが、実際はカール・ビンソンはインド洋に行って演習をしていたことが判明し、世界中があきれました。このことはホワイトハウスの報道官も把握していなくて、トランプ政権の内情がいかにひどいかがわかります(トランプ大統領と軍や共和党主流派との対立があると想像されます)
 
トランプ大統領やペンス副大統領は「すべての選択肢がテーブルの上にある」と繰り返していますが、これは「なにも決まっていない」という意味です。
ということは、戦争はないということでもあります。戦争をするには準備が必要だからです。
 
しかし、日本人はアメリカとかトランプ大統領を高く評価しているので、トランプ政権になんの戦略もないということが理解できていないようです。
 
 
一方、北朝鮮は日本人と対照的に、アメリカをあなどったかのような激しい言葉を連発しています。
私はこれを単なる強がりと思っていましたが、最近考えが変わってきました。北朝鮮はアメリカと戦争しても負けないという自信を持っているのかもしれません。
 
故金日成主席の誕生日を記念して行われた公演において、北朝鮮のICBMがアメリカに落下し都市が炎に包まれるという動画が公開され、それを見た金正恩氏や軍関係者や観衆が喜んでいる様子が北朝鮮国営の朝鮮中央通信社(KCNA)で放映されました。

 


 
これを見ると、対外的に強がっているわけではなく、ほんとうにアメリカとの戦争に自信を持っているのではないかという気がします。
 
北朝鮮軍は戦車も戦闘機もまともに機能していないということが言われていましたが、それは昔のことのようです。朝日新聞によると、「選択と集中」が行われています。
 
 
北朝鮮は経済が崩壊した1990年代から、航空機や戦車などの通常兵器の整備を事実上、断念。商業施設など警備が手薄な「ソフトターゲット」を標的にするなど、圧倒的な戦力を誇る敵の防御の弱い部分などを狙う「非対称戦」の準備に力を注いできた。
 
具体的になにをしているかというと、核兵器と生物化学兵器、ミサイル、長距離砲、特殊部隊に力を集中しているのです。
また、軍の迎撃体制も「全土を細分化し、それぞれに通信や食糧、医療、戦闘など最低限の機能を持たせ、国土が寸断されても独自に抗戦できるシステムを作り上げている」ということです。
 
これではアメリカに戦争という選択肢はないのではないかと思われます。
 
また、北朝鮮には朝鮮戦争のときにアメリカ軍の進撃を阻止したという実績があります(中国軍の力もありましたが)。これが現在の自信につながっているのではないかと思われます。
 
一方、日本はアメリカに屈しました。以来、アメリカに頭が上がりません。
そのため、日本と北朝鮮ではアメリカに対する態度がまったく違ってしまい、日本人は北朝鮮のアメリカに対する態度が理解できないのではないかと思われます。
 
 
日本人の中には、アメリカに負けたトラウマから逃れるために戦前の日本に回帰しようという人たちがいて、憲法改正や教育勅語復活を画策していますが、アメリカに対してはなにも言えません。
敗戦の体験はいまだに日本人の心を支配しているようです。
日本人は北朝鮮からアメリカに対する態度を学んだほうがいいかもしれません。

自民党の有村治子議員は参議院内閣委員会で、中国国旗の下に日の丸が配置されたNHKのニュース映像を取り上げ、日の丸を外国旗の下に配置するのはあってはならないことと主張しました。
しかし、その映像は、自衛隊機のスクランブル発進が急増しているという特集の中のもので、上に中国軍機、下に自衛隊機を並べ、その背景に国旗をあしらったものです。スクランブル発進ということを考えれば、自衛隊機と日の丸が下に位置するのは当然です。
 
ところが、産経新聞がこのことを「NHKが日の丸を中国国旗の下に 岸信夫外務副大臣『あってはならない』」との見出しで記事にし、ネット右翼が騒ぎました。しかし、岸外務副大臣は国旗掲揚についての一般的なマナーを述べただけで、ニュース映像について述べたわけではありません。
 
外務副大臣、NHK映像の国旗配置に言及せず 産経が見出しで誤導
 
ニュース映像で日の丸が中国旗の上になっていようが下になっていようが、どうでもいいことですが、右翼にとってはそうではありません。ごまかしをしてまでも問題にしたいようです。
右翼は国旗国歌に異常に執着します。卒業式・入学式での国旗国歌の強制にも熱心です。
 
 
ただ、国旗国歌の強制に反対する人は、よく「内面の自由」ということを反対理由に挙げますが、私はこれがどうも納得いきません。
 
ウィキペディアの「内面の自由」の項目によると、「内面の自由とは、自由権のうち、他者に影響を及ぼさず、行為となって現れないものを指す」とあり、それはさらに「思想・良心の自由」「学問の自由」「信教の自由」に分けられるそうです。
 
江戸時代、幕府は人々に踏み絵を踏ませてキリシタンを識別しました。幕府の役人は「絵を汚すことは気にするな。踏んでもなにも起きないから、遠慮せずに踏め」というように言ったでしょう。つまり反宗教あるいは合理主義の発想です。
しかし、キリシタンにとっては、キリストの絵を踏むことには「けがす」というような精神的な問題が生じます。もし当時そういうものがあればですが、「内面の自由」や「信教の自由」を主張して踏むのを拒否したいところです。
 
つまり踏み絵をめぐっては、踏み絵を踏ませるほうが合理主義で、踏まないために「内面の自由」を主張するほうが宗教です。
 
 
国旗国歌の強制は、外見的には踏み絵を踏ませることに似ていますが、実際は反対で、国旗国歌を強制するほうが宗教で、強制に反対するほうが合理主義です。
 
第一次近衛内閣が1937年から始めた「国民精神総動員」運動において、集会のときは「国旗掲揚、国歌斉唱、宮城遥拝」をすることが奨励されました。現在、右翼は「宮城遥拝」を除外し、「国旗掲揚、国歌斉唱」だけにしているわけですが、実質は同じようなもので、国家神道といえます。
少なくとも国旗国歌を崇拝するのは合理主義ではありません。
公立学校の中に非合理なものを持ち込むことは許されませんし、反対するのは当然です。
 
ところが、国旗国歌の強制に反対する人の中に「内面の自由」を持ち出す人がいるので、混乱します。
 
日の丸は軍国主義や侵略の象徴だからどうしても拒否したいという人などが「内面の自由」を持ち出すのでしょうが、そういう人は日の丸以外のデザインになれば、その国旗を崇めるのでしょうか。
 
国旗国歌の崇拝は宗教的行為ですから、それに反対するのに「内面の自由」を持ち出す必要はなく、合理主義だけで十分です。

いわゆる共謀罪について、「市民運動が萎縮する」という反対理由を言う人がいます。
しかし、こういう言い方では、「萎縮しなければいい」とか「萎縮するほうが悪い」と反論されてしまいます。
普通に、「共謀罪ができると、市民運動を弾圧する道具になる」とか「警察が市民を脅迫する可能性がある」と言えばいいのです。
 
「萎縮」というのは心の中の現象ですから、共謀罪という社会問題を論じるときに持ち出すことではありません。
これは森友学園問題で「忖度」という言葉が出てくるのと似ています。
 
森友学園問題では、官僚が国有地を不当な安値で払下げた背後には誰か悪者がいるはずです。それは当然、安倍夫妻と考えられ、さらに松井大阪府知事、日本会議につながる政治家といったところですが、財務省が記録隠しをしていることもあって、マスコミは悪者を特定しません。そのため「忖度」が悪者の代わりに出てきたのです。
 
共謀罪においても、こんなおかしな法律をつくろうとする悪者がいるわけです。
ところが、マスコミはもちろん反対する立場の人も、悪者を特定しません。そのために「萎縮」という言葉が出てくるのです。
 
では、共謀罪をつくろうとする悪者は誰かというと、直接には法務官僚であり、その背後にいる警察・検察・裁判所です。
一応警察を代表と見なしておきますが、警察は犯罪対策よりも自身の権限の拡大を目指して共謀罪をつくろうとしています。
その背後には、犯罪とテロの減少があります。これについてはこのブログでも書いたことがあります。
 
若者の犯罪離れ?
 
テロはへっているという事実
 
犯罪とテロがへると、警察は予算をへらされるのが当然です。それを避けるために警察は、犯罪の厳罰化を進め、時効の延長をし、さらに少年法適用年齢の引き下げを目指しています。
そして、それに加えて犯罪のカテゴリーを拡大しようというのが共謀罪です。
 
どんな役所も予算と権限を拡大しようというのが本能で、もちろん警察も例外ではありません。
 
今の時代、誰もが悪者探しをしていて、悪者が発見されると、ネットではすぐに炎上騒ぎになります。
共謀罪というトンデモ法律をつくり出した連中は炎上して当然です。
 

トランプ大統領は4月16日、ツイッターで「北朝鮮問題でわれわれと協力している中国を為替操作国とどうして呼べようか」と述べました。
私はこれを読んだとき、アメリカは水面下で中国と話をつけていて、北朝鮮に核放棄を迫る戦略ができているのかと思いました。
だとすれば、表面の動きだけ見て論じてきたのは無意味です。
 
しかし、経済問題と安全保障問題をからめて取引することは、現実ではあるにしても、公言するべきことではありません。
改めて考えてみると、アメリカ財務省は14日公表した外国為替報告書で中国を為替操作国に認定することを見送ったのでした。トランプ大統領は選挙中に「大統領に就任した初日に中国を為替操作国に認定する」と公約していましたから、明白な公約違反です。トランプ大統領もさすがにバツが悪くて、少しでも正当化するために北朝鮮を持ち出したのだと想像できます。
 
トランプ大統領の発想はつねに「自分ファースト」です。自分がよく思われるためにはなんでも言うのです。
 
また、トランプ大統領は4月6日、北朝鮮への対応について「すべての選択肢がテーブルの上にある」と語りました。
シリア政府軍に対する攻撃直後のことでもあり、これは軍事的攻撃で北朝鮮の体制を崩壊させるという意味ではないかと、急に緊張が高まりました。
しかし、これは単に北朝鮮問題について「イロハから勉強している」というぐらいの意味だったようです。
ワシントン・ポストは14日、トランプ政権が北朝鮮政策について、体制転換を目指すのではなく、核・ミサイル開発を放棄させるために「最大限の圧力」をかける方針を決めたと報じました。
 
トランプ大統領の言うことを真に受けるのは愚かなことです。このことはしだいに広く認識されてきています。
 
トランプは悪性の人格障害!?米で精神科医らが解任求める
 
この記事によると、トランプ大統領の人格障害を理由に解任を求める署名運動に3万人を越える精神医療の専門家が署名しているということです。
記事の一部を引用します。
 
 
 トランプ大統領は就任後も選挙戦中と同様、根拠のない発言を繰り返している。たとえば、就任式の参加者数がオバマ前大統領の時より少なかったと報じたマスコミを「嘘つきだ!」と非難し、「過去最大規模の人出だった」と主張した。CNNテレビなどが流した両者の就任式の映像を比べればトランプ氏の方が少ないことは明らかなのに、また、就任式当日のワシントンの地下鉄の乗降者数でもトランプ氏の方が少なかったことが報道されたにもかかわらず、トランプ氏は主張を変えなかった。
 選挙結果にしても、トランプ氏は選挙人数で民主党のヒラリー・クリントン候補を上回ったが、総得票数ではクリントン氏より約300万票少なかった。この事実を受け入れられなかったのか、トランプ氏は何の根拠も示さずに「得票数で負けたのは300万~500万人の不法移民が不正に投票したからだ」などと突拍子もないことを言い出した。
 ジョンズ・ホプキンス医科大学での精神療法を含め、35年以上の実績と経験を持つジョン・ガートナー精神科医はトランプ氏の一連の言動をこう分析する。
「自分はベストで偉大だと思い込む誇大妄想の傾向が強いので、そこそこの勝利では我慢できないのだと思います。普通なら、“選挙に勝って大統領になったのだから十分だ”と考えるだろうが、彼の場合は“選挙人数でも得票数でも勝っていた”と主張しないと気がすまないのでしょう。就任式の参加者数でも同じことが言えます。トランプ氏は自分に都合の悪い現実を受け入れることができない。本当に危険なのは、彼が事実をねじ曲げ、自分の空想と一致するような“もう1つの事実”(嘘)を作り上げてしまうことです」
 トランプ氏は選挙戦中からずっと事実と異なる発言(嘘)を繰り返してきたが、目的を遂げるためなら平気で嘘をつき、それに対して自責の念を感じることも謝罪することもないというのが多くの専門家の意見だ。実際「トランプ氏の選挙戦中の発言のうち、77%は嘘だった」(『ポリティファクト』)との調査結果もある。
 そして、ロシアによる米大統領選介入にトランプ陣営が関わっていたのではないかとするFBI調査で追い詰められる中、トランプ氏は国民やメディアの関心をそらそうとしたのか、新たな暴言を吐いた。34日の朝、「なんということだ。オバマが投票日直前、トランプタワーを盗聴していたことがわかった。何も見つからなかったが、これはマッカーシズム(赤狩り)だ」とツイッターでつぶやいた。さらにこの後、「神聖な選挙戦の最中、私の電話を盗聴するとはオバマはどこまで落ちたのか。ニクソンのウォーターゲートと同じ悪い奴だ」などと立て続けに3回書き込みをした。
 結局、トランプ大統領からは何の証拠も示されず、FBIのジェームズ・コミー長官は「盗聴は起きていません」と議会で証言し、「トランプ大統領が言う盗聴を裏づける証拠はない」と明言した。
 
 
日本はこれまでずっとアメリカ依存でやってきて、安倍政権による切れ目のない安保法制でますます依存は深まっています。
しかし、トランプ政権に依存するわけにはいきません。
これは日本にとってアメリカから自立するチャンスです。
しかし、安倍政権ではこのチャンスも生かせそうにありませんが。
 

米軍の原子力空母カール・ビンソンが朝鮮半島に派遣され、軍事的な緊張が高まっています。
 
北朝鮮はなにをするかわからない国というイメージがあります。今回も「超強硬対応」をするなどと言っています。
しかし、北朝鮮が目指すのはあくまで自己防衛です。軍事力にも限りがあり、本格的な戦争になれば体制が崩壊してしまいます。
 
むしろなにをするかわからないのはトランプ大統領です。
 
トランプ大統領は唐突にシリアのアサド政権の空軍基地をトマホークで攻撃しました。これはアメリカ国内ではわりと評判がいいようで、ヒラリー・クリントン氏も支持を表明しています。
トランプ大統領は内政ではなにひとつ成果を出していません。外交も、二国間交渉などはまだ先の話です。支持率も下がり続けています。
そうした中、軍事で初めて成功体験をしたわけです。
 
4月13日にはアメリカ軍はアフガニスタンで、通常兵器で最大の破壊力があるとされる「大規模爆風爆弾」なるものを実戦で初めて使用しました。
トランプ大統領は軍事に自分の生きる道を見出したのかもしれません。
 
 
常識的には朝鮮半島で軍事衝突はありえません。ソウルは北朝鮮の長距離砲とロケット砲の射程範囲にあり、生物化学兵器も使用されると見られるので、北朝鮮が本格的に攻撃すると、ソウルは甚大な被害を受けます。これが北朝鮮にとっての抑止力になっているのです。
 
しかし、トランプ大統領は差別主義者ですから、韓国民の命を考慮するとは限りません。メキシコ国境に壁を築くと言っているのも、壁の向こうの人間などどうでもいいと思っているからです。
 
 
朝鮮半島の軍事衝突によって被害を受けるのは韓国、北朝鮮、中国、日本です。
トランプ大統領を止める立場にあるのは、同盟国である韓国と日本です。しかし、韓国は政治的空白期にあります。
日本はどうでしょうか。
報道によると、トランプ大統領は4月上旬の安倍首相との電話会談で、「事前に日本に相談する」と言っていたそうです。
相談があったとき、安倍首相がトランプ大統領を止められるかどうかが問題です。
 

アメリカがシリアの空軍施設をトマホークで攻撃したのは、アサド政権が化学兵器を使用したというのが理由です。
朝日新聞は化学兵器で被害にあった民間人の様子をやけに詳しく報道していますが、こういう報道を見ると、逆にあやしく思えてきます。アメリカが戦争を始めるときに謀略はつきもので、メディアもあやつられている可能性があるからです。
 
アサド政権が化学兵器を使ったのが事実だとしても、それがそれほどの“悪”かという問題があります。
大量破壊兵器とされるものには、核兵器と生物化学兵器の2種類があります。生物化学兵器は国際条約で禁止されていますが、核兵器は禁止されていません。核兵器禁止条約案が国連に提出されていますが、アメリカや日本が反対していて、採択のめどが立っていません。
 
化学兵器は容易につくれて大量殺人が可能なことから「貧者の核兵器」とも言われます。先進国は自分たちだけ核兵器を持って、途上国が「貧者の核兵器」を持つのは許さないわけです。
アメリカはアサド政権が化学兵器を使ったのはけしからんと言いながら、自分は核兵器を先に使う権利があると主張しています。
 
 
そもそも国際法というのは先進国に有利にできています。
 
残酷な兵器ということで最初に禁止が議論されたのはダムダム弾です。
ダムダム弾というのは、銃弾の先端に鉛を露出させたもので、体内で銃弾が砕けてダメージを大きくする効果があります。インドのダムダム兵工廠でつくられたのでこの名前があるそうです。最初はイギリス軍が植民地の反乱を鎮圧するために使いましたが、すぐに反乱軍も使うようになります。銃弾の先端に刻みを入れるだけでダムダム弾になるからです。

これは不必要な苦痛を与えるということで、1899年に採択されたハーグ陸戦条約で禁止されました。殺傷力の強い兵器はいっぱいあるのに、なぜこんな原始的なものが禁止されたかというと、これもまた“貧者の兵器”であるからです。
イギリスなど先進国の軍隊は機関銃や大砲などがありますが、植民地の反乱軍にはライフル銃ぐらいしかありません。ダムダム弾の禁止は先進国に有利です。
 
私の父親は元海軍士官で、やたら戦史に詳しい人でした。私は父親から「イギリス軍はダムダム弾に苦しめられたので禁止兵器にした」という話を聞いたことがあります。今回、ネットで調べてみると、「不必要な苦痛を与えるので禁止された」という記述があるだけで、先進国と後進国の関係に言及したものは見つかりませんでしたが、ダムダム弾禁止が先進国に有利な規定であることはまぎれもない事実です。
 
なお、ハーグ陸戦条約には、捕虜としての扱いを受けるには、遠くからでもわかりやすい特殊徽章をつけていなければならない(つまり実質軍服を着ていなければならない)という規定があり、必然的にゲリラやレジスタンスなどは除外されます。これも先進国に有利な規定です。
 
日本のメディアなどは、アサド政権が化学兵器を使用したと鬼の首を取ったように騒いでいます。しかし、シリア人権監視団によると、2011年3月から2016年9月までの内戦による死者の数は約30万人になり、今回のアサド政権軍による化学兵器攻撃による死者は100人程度です。
また、アメリカはハイテク兵器を駆使して多数の戦闘員と民間人を殺していて、ドローンを使った攻撃のように、自分は絶対安全地帯にいて敵だけ殺すということも行われています。これは非難されなくて、化学兵器攻撃だけ非難されるのは果たして公平でしょうか。
 
化学兵器使用は国際法違反だと非難されていますが、今の国際法こそがテロや内戦を生む元凶かもしれません。

アメリカはシリアのアサド政権が化学兵器を使用したとして4月6日、シリアの空軍基地を59発の巡航ミサイルで攻撃しました。
 
トランプ大統領のやることは支離滅裂です。
これまでトランプ大統領はIS殲滅を目指すと言ってきました。アサド政権を攻撃して政権が弱体化すれば、ISが息を吹き返してしまいます。
そう思ったら、時事通信の記事にこんなことが書かれていました。
 
 これに対して米国防当局者はロイター通信に、アサド政権への攻撃は「一度限り」と強調。あくまで化学兵器使用への「報復」と位置付け、長期的な軍事介入ではないとの認識を示した。ティラーソン氏も、これまでのシリア政策には変更がないと指摘しており、軍事作戦に続いて直ちにアサド氏排除に動くわけでないと示唆した。
 
一回限りの攻撃ではトランプ大統領のパフォーマンスということになってしまいます。
 
トランプ大統領はなにを考えているのでしょうか。トランプ大統領の今回の攻撃についての声明を読んでみました。
 
 
シリア攻撃を命じたトランプ米大統領の声明全文
米国民の皆さん、シリアの独裁者であるアサド大統領は4日、罪のない市民に対し、恐ろしい化学兵器を使用して攻撃を行った。致死率の高い神経ガスを使い、無力な男性や女性、そして子どもたちの命を奪った。
あまりに大勢の人に対する、緩やかで残忍な死を招いた。残酷なことに、美しい赤ちゃんたちもこのような非常に野蛮な攻撃によって殺された。神の子は誰一人としてそのような恐怖に遭ってはならない。
今夜、私は化学兵器を使用した攻撃の拠点となったシリアの飛行場に対し、軍事攻撃を命じた。化学兵器の拡散・使用を阻止し抑止することは、米国にとって不可欠な国家安全保障上の利益の一部である。シリアが禁止されている化学兵器を使用し、化学兵器禁止条約に違反し、国連安全保障理事会の要請を無視したことに議論の余地はない。
アサド政権の行動を変えようとする長年の試みはすべて失敗、それも劇的な失敗に終わった。その結果、難民危機は悪化し続け、地域も不安定化し続けており、米国と同盟諸国に脅威を与えている。
今夜、私はすべての文明国に対し、シリアにおける大量虐殺に終止符を打つため、そしてあらゆる種類のテロを根絶するため、共に手を取ろうと呼びかけた。
非常に困難な世界に直面し、われわれは神の英知を求めている。けがを負った人々が助かるように、また、亡くなった人たちの魂のために祈りをささげよう。そして米国が正義のために立ち上がる限り、最終的に平和と調和が勝利することを祈ろう。
それでは皆さん、神のご加護が米国と全世界にあらんことを。ありがとう。
 
 
気持ちの悪い文章です。
赤ん坊が殺されたことを攻撃の理由に挙げています。
「神」という言葉が3度も出てきます。「正義」という言葉も出てきます。
 
トランプ大統領は「アメリカファースト」ということを言っていて、アメリカさえよければいいという考え方には賛成できませんが、国益という目標があるなら、「保護主義はアメリカ自身の利益になりませんよ」というように議論することが可能です。しかし、神や正義を持ち出されたら、もはや議論はできません。
 
この声明文を読むと、トランプ大統領になにかの戦略があるとは思えません。
要するに「化学兵器を使った悪いアサドを俺がこらしめてやる」ということで、ハリウッド映画のヒーロー気取りと思えます。
 
中には「決断が早い」と称賛する声や、「北朝鮮へのメッセージだ」という声もありますが、いつものツイッターと同じで衝動的な反応でしょう。
 
4月8日の新聞各紙は社説でアメリカのシリア攻撃を取り上げています。私は朝日、読売、毎日、産経、日経、東京の社説を読んでみましたが、トランプ大統領が神や正義を持ち出したことに言及した社説はひとつもありませんでした。
 
新聞社説一覧 (2017/04/08)
 
日本のメディアは、アメリカ大統領が宗教心と正義のヒーロー気取りで衝動的に行動しているという現実を見たくないのでしょう。
 
安倍首相も同じです。
安倍首相は「化学兵器の拡散と使用は絶対に許さないとの米政府の決意を日本政府は支持する」と語りました。「決意を支持」して、「行動を理解」するというように、表現に工夫したそうです。
 
しかし、トランプ大統領は証拠もなしに「オバマ大統領に電話を盗聴された」と言うような愚かで狂信的な人間です。今回のシリア攻撃もそれと同じようなもので、日本政府が支持したり理解したりする価値のあるものではありません。
 
安倍首相も日本のメディアも、トランプ大統領が愚かで狂信的な人間であるという現実を早く受け入れなければなりません。

1月から召喚されていた長嶺安政駐韓大使が4月4日、ソウルの日本大使館に帰任しました。
そもそもなぜ駐韓大使が召喚されたかというと、釜山の日本総領事館前に慰安婦像が設置されたことに抗議するためでした。
当時は朴槿恵大統領がスキャンダルの渦中で、アメリカが政権移行期でしたから、その隙を機敏についたもので、日本のネトウヨは日本外交が韓国に一泡ふかせたと歓喜しました。
 
しかし、3か月たった今、慰安婦像は撤去されず、韓国の対日感情はさらに悪化し、大統領選の主要候補者はこぞって日韓合意の破棄を公約に掲げています。
 
慰安婦問題について日本政府のやることはすべて裏目です。カリフォルニア州グレンデール市に立つ慰安婦像を現地の日本人が撤去を求めた訴訟について、日本政府は上訴が認められるべきだとする意見書をアメリカの最高裁に提出していましたが、3月27日に最高裁は原告の上訴を却下しました。
 
そもそも慰安婦像を撤去したところで、国益に資するところはなにもありません。慰安婦像を撤去したがっている人は、心にやましいものがあるから見ると不愉快になるのです。一般の人にとっては、慰安婦像などどうでもいいことです。
 
 
慰安婦問題にせよ南京事件にせよ、戦前の日本のことです。右翼や保守勢力がこだわるのは戦前の日本で、戦後の日本ではありません。
 
その象徴が教育勅語です。
森友学園問題で教育勅語がクローズアップされましたが、教育勅語は戦後否定されています。また、象徴天皇制とも相容れません。
教育勅語を肯定するということは、戦後日本を否定するということです。
 
戦後日本を否定するという思想的立場があるのはわかりますが、問題はそれが「愛国」とされてきたことです。
戦前日本を愛しても戦後日本を愛さないのでは「愛国」とはいえません。
戦後日本に依拠する立場からは、それはむしろ「反日」です。
日本の右翼や保守勢力や自称愛国者は、実はみな「反日」だったのです。
 
ですから、右翼の靖国参拝やら南京虐殺否定論やらが対外的に発信されると、必ず国益を損ねてきました。慰安婦問題も同じです。
 
これから右翼や保守や自称愛国者やらはすべて「反日」と呼ぶべきです。
 

森友学園問題で「忖度(そんたく)」という言葉が注目を集めています。
あまり日常では使わない言葉ですが、意味は「他人の心をおしはかること」と単純です。
 
もとはといえば、安倍首相や昭恵夫人を免責するために、「付き人や財務省の官僚などが勝手に忖度してやった」というふうにこの言葉が使われたのでしょう。
しかし、昭恵夫人の付き人の谷査恵子さんなどを悪者にするのも具合が悪いので、代わりに「忖度」という言葉を悪者にするという流れになったのではないかと思われます。
 
しかし、言葉を悪者にするというのはおかしな話です。
そういう意味では、松井大阪府知事が「忖度にも、悪い忖度といい忖度がある」と言ったのも理解できます。
しかし、人間のすることにはすべてよいことと悪いことがあり、たとえば殺人にも、正義のヒーローが悪人を殺すという「よい殺人」があり、義賊が金持ちから盗んで貧しい人に施すという「よい盗み」もあります。ですから、「悪い忖度といい忖度がある」というのはなにも言っていないのと同じです。
 
「忖度」という言葉が問題になるのは、森友学園に関する議論が迷走しているからです。
なぜ迷走しているかというと、財務省や官邸が資料を隠しているからです。
森友学園への国有地払下げが成約したのは昨年6月で、しかも10年の分割払いですから、記録を捨てるなんていうことがあるはずありません。
現に、籠池理事長が証人喚問の場で谷査恵子さんからのフアックスを持ち出すと、官邸はすかさず同じものを出してきました。
 
官邸や財務省が隠し通すつもりでも、個人で持っている人はいるはずです。
記録が出てきて真実が明らかになれば、「忖度」についての議論もなくなります。
 
 
いわゆる共謀法についてのキーワードは「一般人」です。
 
政府は「一般人は対象外」ということを繰り返し言っています。
自民党も共謀罪を説明した冊子に「一般の方々は処罰対象にはなりません」と書いています。
 
しかし、一般人と非一般人をどうやって区別するのでしょうか。
共謀罪に限らずなにかの法律に一般人と非一般人を区別する基準が書いてあるわけではありません。
当然、「私は一般人です」という証明はできません。
 
ですから、「一般人は対象外」というのはまったく無意味な言葉です。
こういう無意味な言葉を持ち出すということは、それだけで共謀罪がインチキな法律だとわかります。
 
 
森友学園問題で話題になった教育勅語ですが、安倍内閣は3月31日、「憲法や教育基本法等に反しないような形で教材として用いることまでは否定されることではない」との答弁書を閣議決定しました。
 
教育勅語については、「いいことも書いてある」と言って肯定する人がけっこういます。
そういう人に対して、「じゃあ悪いことも書いてあると思うんですね。それはどこですか」と一度聞いてみたいものです。
おそらく答えられないでしょう。そういう人はとにかく教育勅語を肯定したいだけで、教育勅語の中身をろくに知らないからです。
 
教育勅語は文語で、しかもむずかしい言葉が使われているので、原文を読んでもよくわかりません。
たいていの人は現代語訳を通して理解しているはずです。
その現代語訳が問題です。
 
一般に流通しているのが「国民道徳協会」訳というもので、これは明治神宮のホームページにも載っています。
それによると、「一旦緩󠄁󠄁アレハ義勇󠄁󠄁ニ奉シ以テ天壤無窮󠄁ノ皇運󠄁ヲ扶翼󠄂スヘシ」というところは、「非常事態の発生の場合は、真心を捧げて、国の平和と安全に奉仕しなければなりません」となっています。「天皇」や「皇室」という言葉がありませんし、「義勇」が「真心」に変わっています。
 
「国民道徳協会」訳というのは、佐々木盛雄という元自民党議員が70年代ごろにつくったもので、国民に受け入れられやすいように天皇に関する部分や戦争に関する部分をごまかしているのです。
 
私は「教育勅語の欠陥とはなにか」という記事を書くときに、この訳のおかしいことに気づきましたが、あまり権威のない訳を引用するわけにいかないので、結局この訳を採用しました。
 
しかし、その後、ちゃんと権威のある訳が荻上チキ氏の主宰する「シノドス」というサイトに載っていました。この訳は1940年に文部省図書局でつくられたものです。
 
《教育勅語》には何が書かれているのか?
辻田真佐憲×荻上チキ
 
この訳は4月1日の朝日新聞にも載っていました。今後はこの訳が教育勅語の現代語訳の定番になると思われます。
 
これまで「教育勅語にはいいことも書いてある」と主張してきた人は、インチキな「国民道徳協会」訳しか知らなかったはずです。
まともな訳を読むと、教育勅語は天皇制と不可分なものであり、現代に復活させることが不可能なことがわかります。
 
ふたつの訳を掲げておきます。
 
 
【教育勅語の口語文訳】
 私は、私達の祖先が、遠大な理想のもとに、道義国家の実現をめざして、日本の国をおはじめになったものと信じます。そして、国民は忠孝両全の道を全うして、全国民が心を合わせて努力した結果、今日に至るまで、見事な成果をあげて参りましたことは、もとより日本のすぐれた国柄の賜物といわねばなりませんが、私は教育の根本もまた、道義立国の達成にあると信じます。
 
 国民の皆さんは、子は親に孝養を尽くし、兄弟・姉妹は互いに力を合わせて助け合い、夫婦は仲睦まじく解け合い、友人は胸襟を開いて信じ合い、そして自分の言動を慎み、全ての人々に愛の手を差し伸べ、学問を怠らず、職業に専念し、知識を養い、人格を磨き、さらに進んで、社会公共のために貢献し、また、法律や、秩序を守ることは勿論のこと、非常事態の発生の場合は、真心を捧げて、国の平和と安全に奉仕しなければなりません。そして、これらのことは、善良な国民としての当然の努めであるばかりでなく、また、私達の祖先が、今日まで身をもって示し残された伝統的美風を、さらにいっそう明らかにすることでもあります。
 
 このような国民の歩むべき道は、祖先の教訓として、私達子孫の守らなければならないところであると共に、この教えは、昔も今も変わらぬ正しい道であり、また日本ばかりでなく、外国で行っても、間違いのない道でありますから、私もまた国民の皆さんと共に、祖父の教えを胸に抱いて、立派な日本人となるように、心から念願するものであります。
 
~国民道徳協会訳文による~
 
 
■文部省図書局による教育勅語の「全文通釈」
 朕(ちん)がおもふに、わが御祖先の方々が国をお肇(はじ)めになったことは極めて広遠であり、徳をお立てになったことは極めて深く厚くあらせられ、又(また)、わが臣民はよく忠にはげみよく孝をつくし、国中のすべての者が皆心を一つにして代々美風をつくりあげて来た。これはわが国柄の精髄であって、教育の基づくところもまた実にこゝにある。汝(なんじ)臣民は、父母に孝行をつくし、兄弟姉妹仲よくし、夫婦互(たがい)に睦(むつ)び合ひ、朋友(ほうゆう)互に信義を以(もっ)て交(まじわ)り、へりくだって気随気儘(きずいきまま)の振舞(ふるまい)をせず、人々に対して慈愛を及(およぼ)すやうにし、学問を修め業務を習って知識才能を養ひ、善良有為の人物となり、進んで公共の利益を広め世のためになる仕事をおこし、常に皇室典範並びに憲法を始め諸々の法令を尊重遵守(じゅんしゅ)し、万一危急の大事が起(おこ)ったならば、大儀に基づいて勇気をふるひ一身を捧げて皇室国家の為(ため)につくせ。かくして神勅のまにまに天地と共に窮(きわま)りなき宝祚(あまつひつぎ)の御栄をたすけ奉れ。かやうにすることは、たゞに朕に対して忠良な臣民であるばかりでなく、それがとりもなほさず、汝らの祖先ののこした美風をはっきりあらはすことになる。
 ここに示した道は、実に我が御祖先のおのこしになった御訓であって、皇祖皇宗の子孫たる者及び臣民たる者が共にしたがひ守るべきところである。この道は古今を貫(つら)ぬいて永久に間違がなく、又我が国はもとより外国でとり用ひても正しい道である。朕は汝臣民と一緒にこの道を大切に守って、皆この道を体得実践することを切に望む。(出典=文部省「聖訓ノ述義ニ関スル協議会報告」1940年2月。田中壮一郎監修、教育基本法研究会編著「逐条解説 改正教育基本法」から)
 

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