草津白根山が噴火して自衛隊員1人が亡くなったとき、「自衛隊員8人が円陣を組んで噴石から民間人を守った」というデマが拡散したということを前回の記事で書きました。
デマは論外として、こういう美談が拡散しやすいのは理解できます。自衛隊員には、いざ戦争になったら命がけで戦ってもらわねばなりませんから、自衛隊員の死は美化したくなるのです。
そして、産経新聞も同じような美談のデマを拡散させました。個人がSNSで拡散させたのと違って、全国紙がやったのです。
しかも、これは自衛隊員でなくて米軍兵士に関するものです。
【沖縄2紙が報じないニュース】
危険顧みず日本人救出し意識不明の米海兵隊員 元米軍属判決の陰で勇敢な行動スルー
12月1日早朝、沖縄県沖縄市内で車6台による多重事故が発生した。死者は出なかったが、クラッシュした車から日本人を救助した在沖縄の米海兵隊曹長が不運にも後続車にはねられ、意識不明の重体となった。「誰も置き去りにしない」。そんな米海兵隊の規範を、危険を顧みずに貫いた隊員の勇敢な行動。県内外の心ある人々から称賛や早期回復を願う声がわき上がっている。ところが「米軍=悪」なる思想に凝り固まる沖縄メディアは冷淡を決め込み、その真実に触れようとはしないようだ。
(中略)
しかしトルヒーヨさんはなぜ、路上で後続車にはねられるという二次事故に見舞われたのか。地元2紙の記事のどこにも書かれていない。
実はトルヒーヨさんは、自身の車から飛び出し「横転車両の50代男性運転手」を車から脱出させた後、後方から走ってきた「米軍キャンプ・ハンセン所属の男性二等軍曹」の車にはねられたのだ。50代男性運転手は日本人である。
沖縄自動車道といえば、時速100キロ前後の猛スピードで車が走る高速道路だ。路上に降り立つことが、どれだけ危険だったか。トルヒーヨさんは、自身を犠牲にしてまで日本人の命を救った。男性運転手が幸いにも軽傷で済んだのも、トルヒーヨさんの勇気ある行動があったからだ。
(後略)
海兵隊兵士が日本人の命を救ってみずからは意識不明の重体になったという、まさに自己犠牲の美談です。
これに対して琉球新報が反論の記事を書きました。
産経報道「米兵が救助」米軍が否定 昨年12月沖縄自動車道多重事故
昨年12月1日に沖縄自動車道を走行中の米海兵隊曹長の男性が、意識不明の重体となった人身事故で、産経新聞が「曹長は日本人運転手を救出した後に事故に遭った」という内容の記事を掲載し、救出を報じない沖縄メディアを「報道機関を名乗る資格はない」などと批判した。しかし、米海兵隊は29日までに「(曹長は)救助行為はしていない」と本紙取材に回答し、県警も「救助の事実は確認されていない」としている。産経記事の内容は米軍から否定された格好だ。県警交通機動隊によると、産経新聞は事故後一度も同隊に取材していないという。産経新聞は事実確認が不十分なまま、誤った情報に基づいて沖縄メディアを批判した可能性が高い。産経新聞の高木桂一那覇支局長は「当時のしかるべき取材で得た情報に基づいて書いた」と答えた。
(後略)
産経新聞もまったく根拠のない話を書いたわけではなくて、海兵隊のツイッターが最初に誤った情報を流したことと、この海兵隊曹長の奥さんがフェイスブックで「夫は日本人の命を救って事故にあった」と主張して治療費の寄付を募っていることに影響されたものと思われますが、海兵隊にも県警にも裏取りをせずに記事を書いたとは新聞社にあるまじきことで、悪質なフェイクニュースと批判されて当然です。
しかも、この“美談”は自衛隊員ではなくて米軍兵士です。日本の新聞社がなぜ米軍兵士の“美談”を捏造するのでしょう。
このデマ記事は産経新聞読者にひじょうに気に入られたようで、その後も関連記事が書かれ、昨年12月にフェイスブックで拡散された記事ベスト5に3本も入っています。
フェイスブック編 「あなたは真のヒーロー」邦人救出で重体の米海兵隊員に祈りのメッセージ
12月にフェイスブックで拡散された回数が多い記事ランキングです。
1位:【沖縄2紙が報じない】危険顧みず日本人救出し意識不明の米海兵隊員 元米軍属判決の陰で勇敢な行動スルー(12月9日掲載)
2位:高須克弥院長「日本の未来に役立つ財産だ。皇室にお返しするぜ」 昭和天皇独白録を落札(12月7日掲載)
3位:「あなたは真のヒーローです」…邦人救出で重体の米海兵隊員に祈りのメッセージ 沖縄県民有志ら50人(12月10日掲載)
4位:フェイクニュース「NHKも」 バノン米元首席戦略官、会見で名指し批判(12月17日掲載)
5位:「あきらめないで…」沖縄・佐喜真淳宜野湾市長も日本人救助後重体となった米海兵隊員に感謝のメッセージ(12月17日掲載)
産経新聞の読者は典型的な日本の保守派でしょう。
今、ヘリコプター事故などで基地周辺の日本人の命が脅かされているときに、米軍兵士を大げさにヒーロー扱いする産経新聞と、その記事を喜ぶ保守派は、保守でも右翼でもなくて売国と呼ぶべきです。