トランプ大統領は6月にホワイトハウスで安倍晋三首相と会談した際「真珠湾攻撃を忘れないぞ」と前置きした上で、通商問題の協議を始めたということです。
相手の後ろめたいところをつくのは交渉術のひとつです。昔の中国は日本企業と交渉するとき、南京事件を初めとする日本軍の残虐行為を持ち出して交渉を有利に運ぼうとしたといわれますが、トランプ大統領のやり方もそれと同じです。
アメリカファーストのトランプ大統領と安倍首相が通商問題で対立するのは当然です。
ところが、菅官房長官は「指摘のような事実はない」と否定していますし、「官邸は火消しに必死」という報道もあります。
「トランプ大統領とタフに交渉する安倍首相」をアピールすればいいのに、そういう発想はないようです。
それにしても、トランプ大統領に「真珠湾」を持ち出されたとき、安倍首相はなんと反応したでしょうか。
当時、日本軍は宣戦布告をした直後に真珠湾攻撃を開始する予定でしたが、外務省のミスによりアメリカ政府への通告が遅れ、結果的に“だまし討ち”になってしまいました。
ところが、日本の右翼は、あの戦争は自存自衛の戦争だったとか、アジア解放の戦争だったとか言って、ひたすら日本を正当化しています。宣戦布告の遅れについても同じです。
「外務省の事務方のミスで、日本は悪くない」という「秘書がやった」的弁解、さらに「アメリカは暗号を解読して攻撃を知っていた」とか「アメリカやコミンテルンの謀略で日本は戦争に引き込まれた」とか主張して、だまし討ちではなかったということにしようとします。
ですから、日本の右翼はだまし討ちについてアメリカに謝ったことがありません(左翼はもともと日本の戦争は悪という立場です)。
右翼の親玉たる安倍首相も同じです。
安倍首相にはアメリカに謝るいい機会がありました。
安倍首相は2015年4月にアメリカ議会上下両院合同演説会で演説し、「自らの行いが、アジア諸国民に苦しみを与えた事実から目をそむけてはならない」とアジアへの罪は認めましたが、アメリカとの戦争に関しては「真珠湾、バターン・コレヒドール、珊瑚海、メモリアルに刻まれた戦場の名が心をよぎり、私はアメリカの若者の、失われた夢、未来を思いました。歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なものです。私は深い悔悟を胸に、しばしその場に立って、黙祷を捧げました」と感傷的な言葉を並べただけで、日本の罪は認めていません。
2016年12月にはオバマ大統領とともに真珠湾を訪れ、演説をしましたが、だまし討ちについての謝罪はありませんでした。
もっとも、だまし討ちを謝罪するだけでは不十分です。「先制攻撃」についても謝罪しなければなりません。真珠湾の先制攻撃により日米の戦争は、日本の侵略戦争、アメリカの防衛戦争ということになりました。
もちろん私が言いたいのは、日本は謝るべきところは謝って、それからアメリカに対して主張するべきところは主張せよということです。
安倍首相に限らず日本政府がアメリカに謝罪しないので、日本人はアメリカに対してずっと後ろめたい思いをいだいています。
それはアメリカにとって好都合なことですから、アメリカも日本に謝罪を迫るこことはなかったのでしょう。
ところが、トランプ大統領はなにも考えずに「真珠湾」を持ち出してきます。
ということは、日本人にとっても日米関係を考え直すチャンスです。
ところが、安倍政権はトランプ発言を否定しています。いつまでも偽りの日米関係を続けたいようです。
安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を言っていますが、いくら憲法改正をしても、日米関係が変わらない限り戦後レジームは終わりません。