村田基の逆転日記

進化倫理学の威力を試すブログ

2022年03月

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ウクライナのゼレンスキー大統領が3月23日、日本の国会でオンライン形式で演説をしました。
アメリカ議会での演説では真珠湾攻撃を取り上げたので、日本の国会ではヒロシマ、ナガサキや東京大空襲などに言及するのではないかという予想があり、私自身は、ソ連が日ソ中立条約を破ったことや日本兵捕虜のシベリア抑留などに言及するのではないかと予想しましたが、そういうのはありませんでした。
きわめて穏当な内容でした。
ゼレンスキー大統領にとって日本は「復興資金を出してくれるATM」というところかもしれません。

2014年、クリミア半島をロシアが併合しそうになっているとき、オランダのハーグでウクライナを支援するためカナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、イギリス、アメリカの7か国による会議が行われ、安倍首相は約1500億円の経済支援を表明しました。
NATOとロシアが角突き合わせているとき、NATO以外で唯一日本が参加して金を出すとは、日本外交の愚かさを見せつけられた気分でした。
ですから、ウクライナにとって日本はATMという認識であっておかしくありません。


ゼレンスキー大統領は演説の中で「ウクライナへの残忍な侵略のツナミ」という言葉を使いました。
ほかに「世界のほかの潜在的な侵略者」「地球上のすべての侵略者たち」とも言っています。
「侵略」がキーワードです。

ロシアがやっているのは「侵略戦争」で、ウクライナがやっているのは「防衛戦争」です。
これほどわかりやすいことはありません。ですから、世界からロシア非難とウクライナ支援の声が上がっています。

しかし、国際政治の世界では「侵略」と「防衛」というわかりやすい区分がありません。「集団的自衛権」があるからです。
プーチン大統領は今回の戦争を、ウクライナ東部にある「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」をウクライナの攻撃から守るための集団的自衛権の行使だと主張しています(「ネオナチとの戦い」だとも言っています)。

バイデン大統領はプーチン大統領のことを「侵略者」だけでなく「残忍な独裁者」や「戦争犯罪者」とも呼んで、問題をわかりにくくしています。
「侵略」と「防衛」というわかりやすい区分を使うと、アメリカにとって不都合なことがいっぱいあるからです。
安倍首相も「侵略の定義は定まっていない」と発言したことがあります。日本の戦争を侵略と認めたくなかったからです(安倍氏にロシアの行為は侵略ですかと聞いてみたいものです)。


今のところウクライナ軍は善戦しているようですが、その主な理由は、ウクライナにとっては防衛戦争で、ロシアにとっては侵略戦争だからです。
防衛戦争をする兵士は士気が上がりますが、侵略戦争をする兵士は士気が下がります。
これは動物の本能によって説明できます。

なわばりを持つ動物は、基本的には互いのなわばりを尊重して争わないようにしていますが、ときどき食料や異性を探して、ほかのなわばりに侵入することがあります。
そのとき、なわばり主が侵入者を発見すると、侵入者に猛然と襲いかかります。侵入者は自分のほうが強い場合でも、ほとんど闘わずに逃げ出します。

このときの動物の“心理”のメカニズムを、日高敏隆著『日高敏隆選集Ⅱ 動物にとって社会とはなにか』は次のように説明しています。

「他人の」なわばりに入りこんでいるな、と感じた個体(むしろ、ここは自分のなわばりでないなと感じている個体)は、あえて擬人化すればそのやましさのゆえに、なわばり所有者から攻撃されるとすぐ引きさがってしまう。そこではけっして組んずほぐれつの闘いなどおこらない。だが問題はこれですむほど単純ではない。なわばりの所有者は引きさがっていく侵入者を追いかけてゆく。しかし深追いは動物においても危険である。なぜなら、追跡が進む間に、両者の心理状態が刻々と変化していってしまうからだ。
動物の「闘志」は、なわばりの中心すなわち巣からの距離に反比例する。なわばりの境界近くまで侵入者を追いかけていった所有者には、もはや攻撃のはじめほどの闘志はわいてこない。闘志と同じくらい逃避の衝動が強くなっているのである。
この比例関係は、自分のなわばりに逃げこんだ動物についてもあてはまる。そこでこちらのほうは、自分の巣に近づくにつれて、闘志がみなぎってくるのである。
深追いしすぎて相手のなわばりに侵入した追跡者は、相手ががぜん反攻に転じると急いで後退して自分のなわばりへ逃げこむ。もし相手がそこまで深追いしてくると、事情が逆転する。こうしてしばしば一対の動物は、ふりこのようにふれながら、ついになわばりの境界線でとまることがある。

人間は集団で狩りをするサルで、集団でなわばりを持ちます。そのなわばりが拡大したものが国家です。
ですから、ウクライナのなわばりに侵入したロシア兵はあまり闘志がなく、深く侵入するほど闘志がなくなります。
反対にウクライナ兵は、なわばりを守るために最初から闘志が盛んで、ロシア軍に押し込まれればますます闘志が高まります。

闘志があるのは兵士だけではありません。非戦闘員である国民も同じです。
つまり防衛戦争というのは、兵士と国民が一体となって戦われるものです。


ここが従来の戦争の常識と違うところです。
従来の戦争は戦闘員と非戦闘員が明確に区別されるものでした。制服や徽章などで外見からも区別されなければなりません。
これがはっきりと変わったのがベトナム戦争です。
南ベトナム解放民族戦線は農民と同じ服装でゲリラ戦をしました。
兵士と農民の区別がむずかしいからといって米軍が無差別に攻撃すると、民衆の反発が高まり、国際社会からも非難されます。
結局、ベトナム戦争は泥沼化して、アメリカ軍は敗退しました。

解放戦線と北ベトナムにはソ連や中国の支援もありましたが、世界最強のアメリカ軍が敗れたのは、アメリカがしたのは侵略戦争で、ベトナムがしたのは防衛戦争だったからです。

ベトナムからアメリカ軍が撤退した6年後、ソ連はアフガニスタンに侵攻しましたが、これも泥沼化し、10年後にソ連は敗退しました。
ソ連がアメリカと同じ失敗を繰り返したのは不思議です。

そして、9.11テロをきっかけに今度はアメリカがアフガニスタンに侵攻し、これは20年にわたって戦いを続けましたが、結局敗退しました。
今度はアメリカがソ連と同じ失敗を繰り返したわけです。

イラク戦争も、実質的にアメリカ軍の敗退です。

アフガニスタンでもイラクでも、武装勢力と民衆の区別が、銃を持っているか否かぐらいでしかつきません。銃を持たない自爆テロ犯の見分けはきわめて困難です。
侵略者の目には民衆すべてが敵に見え、しばしば無差別攻撃をして民衆の反感をさらに高めるということの繰り返しで自滅しました。


ウクライナ戦争においても、ウクライナ軍と民衆は一体化しています。
民衆は火炎瓶をつくって、実際にロシア軍の車両に投げつけている映像もありました。
ゼレンスキー大統領は、市民に銃を取って戦うように呼びかけました。

そして、「民間人が武器を使ってロシア兵を殺害しても罪に問わない」とする法案が可決されたというニュースがありました。

ウクライナのジャーナリストであるIllia Ponomarenko氏は3月10日、「新しい法案は、ウクライナに配備されたロシアの軍人を民間人が殺害することを公式に完全合法化します」というキャプション付きで、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が署名した法案のスクリーンショットを投稿しました。文書の日付は2022年3月3日となっており、Newsweekは法令の発効が「公布の翌日から」となっていると述べています。
法令の内容は、ウクライナに対して武力侵攻を行っている者に対して、ウクライナの民間人や滞在中の外国人が銃器を使用して排除したとしても、その刑事責任を問わないというもの。法令が有効なのは戒厳令が出されている間であり、その間は民間人も銃器の使用が許可されるものの、戒厳令が終了したら当局に銃器を引き渡す必要があるとのこと。
https://gigazine.net/news/20220311-ukraine-bill-legal-kill-russian-soldiers/

このように市民の武装を公然と認めると、今度はロシア軍に市民を攻撃する口実を与えることになります。
とはいえ、ロシア軍が無差別に市民を攻撃すると、やはりロシア軍が非難されるので、ロシア軍は苦しいところです。


ロシア側は、ウクライナは“人間の盾”を使っていると非難しています。

人間の盾というのは、「戦争や紛争において、敵が攻撃目標とする施設の内部や周囲に民間人を配置するなどして、攻撃を牽制すること」と説明されます。
だいたいは捕虜や人質を盾にするというイメージでしょう。
そういうことは行われていないはずです。

しかし、ウクライナ軍は都市を防衛拠点としていて、そこに住民がいます。
その住民は、ロシア軍から見れば人間の盾になります。都市を攻撃すれば住民に被害が出るのは確実だからです。
今のところロシア軍は主要都市を占領していません。
意図せざる人間の盾があるからかもしれません。

ウクライナ側のやり方に対しては、住民のいる都市を防衛拠点にするなという批判もあります。
あらかじめすべての住民を避難させるべきで、それができないならその都市に関して「無防備都市宣言」をするべきだというのです(ハーグ陸戦条約やジュネーブ条約に規定があります)。
つまり戦わずしてその都市を敵に明け渡すわけです。
第二次世界大戦のとき、ドイツ軍の侵攻を受けたフランス政府はパリに関して無防備都市宣言を行い、パリを戦火から守りました。

しかし、都市というのは防衛拠点に最適です。
独ソ戦においてはソ連軍はスターリングラードやレニングラードを防衛拠点にし、ドイツ軍は攻めきれなくて、結局ここが戦局の転換点になりました。
ただし、住民のいる都市での市街戦は悲惨です。

ロシアはウクライナ東南部の港湾都市マリウポリに対して降伏するように勧告しましたが、ウクライナ側は拒否しました。
どうやら徹底抗戦するようです。

そうするとロシア側の判断もむずかしくなります。本格的に攻撃すれば、スターリングラードやレニングラードの悲劇を逆の立場から演じることになり、国際的な非難を浴びます。


ともかく、ウクライナでは軍と市民が一体となって戦っています。
戦闘員と非戦闘員を厳密に区別するべきという戦時国際法は、騎士や傭兵だけが戦争を担った伝統の上に、列強が植民地獲得戦争をするときに現地の武装勢力と民衆の区別がつかなくて困るという必要性から生まれたものです。
国民国家が総力戦をする時代には合わなくなっています。


ロシア軍の総兵力は約90万人、ウクライナ軍は約26万人です。
軍事費については、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、2020年のロシアは約617億ドル(約7兆970億円)で、約59億ドル(約6780億円)のウクライナとは10倍以上の差があります。

それでもロシア軍が苦戦し、ウクライナ軍が善戦しているのは、侵略戦争と防衛戦争の違いからです。

これはある意味、天下分け目の戦いです。
ウクライナが勝利すれば、今後ロシアやアメリカのような侵略戦争をしようという国はまず出てこないでしょうから、世界は平和になります。



近代兵器を使った大規模な戦争も、所詮は動物のなわばり争いが発展したものです。
高度な文明も、人間の動物としての本能を土台として築かれています。
文明と本能の関係については「道徳観のコペルニクス的転回」で論じています。

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2月24日にロシアがウクライナに侵攻してから3週間ほどたちますが、ウクライナ軍はけっこう善戦しているようです。
善戦の理由のひとつに携行式対戦車ミサイルと携行式対空ミサイルの効果が挙げられています。
とくに対戦車ミサイル「ジャベリン」がロシアの戦車や装甲車を多数破壊しているそうです。

歩兵が一人で敵戦車を破壊することができれば、“コストパフォーマンス”は最高です。
こういう有効な兵器が出てくると、戦車の価値も見直されるでしょう。

自衛隊も同じようなものを装備しているのかと思って調べると、「01式軽対戦車誘導弾」という国産品があり、2001年から制式採用されています。
赤外線誘導方式ということですから、ジャベリンと基本的に同じです。


戦車はもともと第一次世界大戦のときにヨーロッパで生まれたもので、ヨーロッパの平原や北アフリカや中東の砂漠ではきわめて有効な兵器です。
しかし、朝鮮戦争やベトナム戦争ではそれほど活躍しませんでした。
山地やジャングルでは戦車は使えません。

そうすると、日本で戦車は有効なのかということになります。
日本は山地が多く、平地には住宅が建ち並んでいます。
陸自は戦車の演習を富士の裾野や北海道でやっていますが、そういうところでしか使えないのではないでしょうか。
司馬遼太郎は戦時中は戦車兵で、戦争末期には関東にいましたが、上官に「敵が上陸してくると道路には避難民があふれると思いますが、どうすればいいですか」と聞くと、上官は「轢いていけ」と言ったそうです。

ですから、日本には昔から「戦車不要論」があって、必要か不要かでずっと議論が行われてきました。
検索してみると、戦車必要論者は決まって「軍事の専門家で戦車不要論の人はいない」ということを論拠にしています。
しかし、軍事の専門家はたいてい利権まみれの人ですから、説得力はありません。

ウクライナでの携行式対戦車ミサイルの威力を見ると、戦車不要論に拍車がかかります。
戦車を保有する代わりに携行式対戦車ミサイルを大量に保有したほうが効果的で、安上がりです。
日本の地形だと、物陰から容易に敵を狙い撃ちできるので、ウクライナよりもさらに有効でしょう。


日本に敵が上陸してくることを考えているのは、もしかして私ぐらいかもしれません。
中国軍にもロシア軍にもそんな戦力はないからです。
それに、日本に攻めてくる理由もありません。

戦争を始めるにはなんらかの理由が必要です。
ロシアは一方的にウクライナに攻め入ったようですが、ロシアにもそれなりの理由があります。
国際紛争解決が専門の伊勢崎賢治東京外大教授はこのように指摘しています。

今回、ロシアはウクライナからの独立を主張する「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」(ウクライナ東部の武装勢力が14年にウクライナから「独立」を宣言した政権。ロシアは22年2月に国家として承認し、同盟を結んだ)の要請に応じ、ウクライナの攻撃からこれらの政権を守るために武力を行使した、と言っている。つまり侵略ではなく、国連憲章が認めた集団的自衛権の行使だ、という主張です。
https://mainichi.jp/articles/20220304/k00/00m/040/254000c

ウクライナがロシアの同盟国を攻撃しているので、同盟国を守るためにロシアはウクライナに侵攻したという理屈です。
ロシアの主張はまったく自分勝手ですが、ただ、ウクライナにおけるロシア系住民が迫害されてきたのも事実です。ですから、ロシア国民にも今回の戦争を支持する声が一定程度あります。
国と国が陸続きだと、国境線と民族、言語が食い違って、そこに侵略を正当化する理屈が生まれます。

しかし、日本は島国ですから、ロシアにしても中国にしても、日本を侵略することを正当化する理屈はつくりようがありません。
なんの理由もなく侵略すれば、国際的非難を浴びるだけです。

ですから、日本がウクライナのように侵略される可能性はまったくありません。
日本国民もそのことはわかっています。
いや、国民だけでなく自衛隊もわかっているようです。

自衛隊は自分たちが戦争することを想定していないのではないでしょうか。
それは自衛官募集のポスターを見ればわかります。

自衛官募集のポスターというと、昔は制服姿の若い男女が凛々しい表情で空を見つめているといったものでしたが、今はほとんどがかわいいアニメのキャラクターが出てくるポスターになっています。
それは「自衛隊のポスター」で画像検索した結果を見ればわかります。

自衛隊(防衛省)はこうしたアニメキャラのポスターを推奨しているようです。
「自衛官募集」のホームページの「“チホン”のポスター」には、人気のポスターとしてアニメキャラのポスターをいくつも紹介しています。

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こういうポスターを見て自衛官になろうという人が果たして戦力になるのか疑問です。
また、こういうポスターで人を募集しようという自衛隊も本気で戦争を考えているのか疑問です。

日本は島国である上に、外国から侵略される理由もないので、この上なく安全です。
自衛隊もそれに適応しているのでしょう。

私は戦車だけでなく空母いずもも弾道ミサイル防衛システムも必要ないのではないかと思います。
敵が上陸してきたときに撃退するか食い止めるだけの戦力があれば十分です。
それがどの程度の戦力かはウクライナ軍の戦いぶりから判断できます。
現在の自衛隊は海外派遣仕様になっているのです。


日本は2015年に安倍政権が解釈改憲により集団的自衛権行使容認に踏み切りました。
安倍元首相は「台湾有事は日本有事」と発言しているので、日本が中国と台湾の戦争に介入するということがあるかもしれません。
そうなると、外国から侵略される理由ができてしまいます。

他国の戦争に首を突っ込むほど愚かなことはありません。

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戦争に“大本営発表”はつきものです。

ウクライナのゼレンスキー大統領は3月3日の動画において、ロシア兵9000人近くを殺害したと主張しました。
一方、ロシア国防省は2日、ロシア軍で498人の死者が出ていると発表しました。
極端な数字の違いがあるのは、双方が“大本営発表”をしているからです。
中立的な情報を探してみましたが、見当たりません。
ただ、次の記事が参考になるかもしれません。

429対156…侵攻7日目「ロシアの被害がウクライナより多い」
開戦7日目を迎えるウクライナ・ロシア戦争でロシアの被害がはるかに多いという集計結果が出てきた。

民間軍事専門サイトのオリックスによると、2日現在の武器・車両・装備などロシア軍の物的被害は429台と集計された。一方、ウクライナ軍は156台だった。

オリックスはソーシャルメディアなどに出てきた写真を集計してこのような数値を出した。破壊の程度で破壊と損傷に分け、装備を遺棄したか敵が奪い取ったかも区別した。
(後略)
https://news.yahoo.co.jp/articles/87d367a0af587e5c61473e028baf254d68e4c7e7

ロシア軍の損害が多いといってもウクライナ軍の3倍ぐらいです。
ゼレンスキー大統領の言うロシア兵9000人殺害は、どう見ても過大です。


ウクライナ非常事態庁は、ロシアの攻撃により民間人2000人以上が死亡したと発表しています。
日本のテレビも、市街地や政府庁舎にミサイルが着弾するシーンや破壊された建物を繰り返し映して、民間の被害を強調しています。
ブリンケン米国務長官も6日、CNNの番組において、ロシア軍がウクライナの民間人を意図的に攻撃しているとの「極めて信頼できる報告」を米国が確認していると述べました。

ところが、国連人権高等弁務官事務所が3月2日に発表したところによると、情報収集が遅れているので実数はこれより多いという但し書きつきですが、ロシアがウクライナに侵攻を開始した2月24日から今月1日までに子ども15人を含む民間人227人が死亡、525人が負傷したということです。
その2日前の国連のグリフィス人道問題担当事務次長・緊急援助調整官の発表では、民間人の死傷者406人、うち死者は106人だったということです。

国連の発表が実態に近いのではないでしょうか。

ウクライナもロシアも“大本営発表”をしていますが、日本のメディアは中立ではなく、ウクライナ側に立って報道しています。
ゼレンスキー大統領を「英雄」のように持ち上げる報道も目立ちます。
戦争が始まるまでウクライナの世論調査で彼の支持率は20%程度だったのですが。


この戦争はロシアのウクライナに対する一方的な侵攻で始まったので、ロシアが悪いことは明らかです。
「ロシア=悪玉」となると、そこから自動的に「ウクライナ=善玉」というふうに考える人がいます。
さらに、冷戦時代の思考を引きずって、最初からアメリカやNATO側に立って考える人もいます。日本のメディアは完全にそうです。

そういうことから、「ウクライナ=善玉、ロシア=悪玉」の報道一色になっています。

これは愚かなやり方です。
戦争当事者の一方に肩入れすると、戦争の火に油を注ぐことになりかねません。



「善悪ではなく戦争反対の立場からロシアを非難しているのだ」という人もいるでしょう。
「戦争反対」の声を上げるのは正しいことです。
しかし、「戦争反対」の声を上げるべきはウクライナ問題だけではありません。

テレビがウクライナの都市にミサイルが着弾して爆発するシーンを映しているのを見ると、私はイラク戦争のときのバクダッドの光景を思い出します。
当時、CNNなどの取材陣がバクダッドのホテルにいて、アメリカの巡航ミサイルや空爆によるすさまじい爆発シーンをテレビは映し出していました。
当時のラムズフェルド国防長官はこれを「衝撃と恐怖作戦」と得意げに名づけていました。

アメリカはイラクにかいらい政権を樹立し、サダム・フセイン大統領をとらえて死刑にしました。
当時の小泉純一郎首相はいち早く「アメリカ支持」を表明しました。そして、のちにイラクのサマワに自衛隊を派遣しました。
日本人にはアメリカに反対する人もいましたが、日本全体としてはアメリカ支持と見なされてもしかたありませんでした。
世界の多くの国もそういう感じでした。

イラク戦争は、国連による根拠なしにアメリカが単独で始めた戦争です。今回のロシアによるウクライナ侵攻と基本的に同じです。
アメリカはイラクが大量破壊兵器を隠し持っているということを理由に戦争を始めましたが、結局大量破壊兵器はありませんでした。アメリカは開戦の理由にするために情報を捏造していたことが明らかになりました。

トランプ前大統領は、中国は新型コロナウイルスで世界に損害を与えたとして巨額の損害賠償を要求すると息巻いていましたが、ウイルスは自然界のものです。
アメリカがイラクに損害を与えたのは人為で、しかも故意ですから、こちらは巨額の損害賠償を要求されて当然です。
しかし、アメリカは損害賠償はもちろん、とくに謝罪もしていません。

アフガニスタン戦争もアメリカが単独で始めて、かいらい政権を樹立したということではイラク戦争と同じです。
NATO諸国の多くはイラクとアフガニスタンに軍を派遣して、アメリカの占領に協力しました。


プーチン大統領はイラク戦争とアフガニスタン戦争と同じことをしただけです。
アメリカが許されているなら自分も許されると考えたのでしょう。
ロシアのメディアはウクライナがひそかに核兵器開発をしているとか、放射性物質を拡散するいわゆる「汚い爆弾」を製造していると主張していますが、開戦理由を捏造するのも真似しているのかもしれません。

それから、プーチン大統領はNATOがどんどん東方に拡大してくるのを見て、自分もサダム・フセインと同じ運命をたどるのではないかという恐怖を感じて、それもウクライナ侵攻の動機になったかもしれません。

今、ロシアを非難している人たちが、アフガン戦争とイラク戦争のときも同じくらいの熱量でアメリカ非難をしていれば、今回のロシアによるウクライナ侵攻はなかったかもしれません。

「ロシアの戦争には反対し、アメリカの戦争には賛成か容認をする」というダブルスタンダードが世界を不安定にし、戦争の原因をつくっているのです。



今後のベストシナリオを想定すると、ウクライナの抵抗で戦争が長引き、ロシアは人的、経済的な痛手をこうむり、国民の反戦、反プーチンの声が高まり、プーチンの側近が離反し、ロシア軍兵士が第一次世界大戦のときのように反乱を起こし、ロシア軍が撤退して戦争が終わるというものです。
こうなれば世界の人たちは戦争が不利益しか生まないということを理解して、今後戦争をしなくなるに違いありません(ほんとうはアメリカがアフガンとイラクで失敗したのを見てそうなるはずでしたが、プーチンだけは理解していなかったのです)。

しかし、今は間違った動きもあります。国際パラリンピック委員会や国際スケート連盟がロシア人選手の出場禁止を決めました。これに対してロシアのパラリンピック選手が「ロシア敵視だ」と反発し、フィギュアスケート金メダリストであるエフゲニー・プルシェンコ氏は「人種差別をやめろ」と主張しました。
悪いのはプーチン氏であってロシア国民ではありません。
こんなやり方ではロシア国民がプーチン氏のもとで結束してしまいます。

ロシア国民に対しては、ともに戦争反対に立ち上がるように呼びかけるのが正しいやり方です。

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私はロシアのウクライナ侵攻はありえないと思っていたので、いざ本格侵攻が始まったときにはびっくりしました。
世界のほとんどの人がそうだったでしょう。なにしろウクライナ国民も、国外脱出も食料の買いだめもしていなかったのですから。

アメリカだけはかなり早い段階からキエフを攻撃するような本格侵攻があると言い続けていました。
侵攻計画はプーチン大統領とロシア軍の上層部ぐらいしか知らないはずですから、CIAはそこまで食い込んでいたのです。
そして、プーチン大統領は情報がアメリカに筒抜けになっていることを知りながら、当初の計画通りに侵攻したのです。

これはひじょうに奇妙なことです。
なにがあったのか考えてみました。
おそらくロシアは早い段階でアメリカに対して「われわれはウクライナに侵攻することを考えている。そのときアメリカはどうするのか」と打診したのです。
バイデン大統領は「武力介入もありうる」と言ったでしょう。プーチン大統領は「だったら第三次世界大戦になる」と言ったかもしれません。
つまりお互いの腹のさぐりあいがあったのです。

アメリカはもちろん第三次世界大戦は避けたいし、アフガニスタンとイラクで失敗したので国民の厭戦気分が高まっているという事情もありました。
プーチン大統領はアメリカの軍事介入はないと判断して、計画通りに侵攻しました。

このように考えると、アメリカだけがロシアの侵攻を早くから正確に予想していたことが説明できます。


それにしても、プーチン大統領のウクライナ侵攻の判断は異常です。
健康状態や精神状態を懸念する声もあります。

プーチン大統領は2000年に大統領に就任してから、途中首相だった時期もありますが、22年間にわたって権力者の座に居続けています。側近はイエスマンばかりになり、不都合な情報は上がってこなくなっているのでしょう。
「権力は人を酔わせる。酒に酔った者はいつかさめるが、権力に酔った者は、さめることを知らない」という言葉もあります。

習近平氏も2012年に国家主席の座についてすでに10年です。最近は独裁ぶりに磨きがかかってきました。いずれプーチン氏みたいになるかもしれません。
トランプ前大統領も、もし2期目があったら、そうとうおかしくなっていた気がします。
軍事大国の指導者が異常になることほどおそろしいことはありません。


ともかく、軍事大国同士が第三次世界大戦を避けるために「密約」をするということはありえます。
アメリカが日本のために戦ってくれるとは限りません。

外務省のホームページには、安保条約について「第5条は、米国の対日防衛義務を定めており、安保条約の中核的な規定である」と解説されていますが、実際の第5条には「義務」という言葉はありません。
第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」という文言がありますが、合衆国憲法では宣戦布告の権限は議会にあります。大統領が議会に諮らずに参戦することもできますが、参戦したくないときは議会に諮って否決されるという筋書きもありえます。

アメリカは日本を助けないかもしれないので、米軍なしで日本の防衛は大丈夫かということになります。

ところが、そういう議論は行われていません。
代わりに「憲法九条で国は守れるのか」というような議論が行われています。
これは憲法論であって防衛論ではありません。

また、安倍晋三元首相は、米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)」について議論すべきだと語りました。
これも防衛論というよりも核論議です。


今議論するべきは「日本はウクライナみたいなことにならないのか」ということです。
具体的には、中国軍が日本海側のどこかに上陸してきて、自衛隊を撃破し、中国のかいらい政権を樹立するというようなことにならないのかということです。
もちろん米軍が助けてくれるなら、そういうことにはなりません。
米軍の助けがなかったとしたらどうかということです。

これは重要な問題です。
ところが、こういう議論は昔からほとんど行われたことがありません。

防衛省ホームページの「中国情勢(東シナ海・太平洋・日本海)」という項目を見ると、中国は国防費を年々増加させ、東シナ海での活動を活発にし、太平洋へも進出し、日本海における海上戦力と航空戦力を拡大させていると書かれていますが、日本に上陸する戦力についての言及はありません。
なぜなら中国軍にそんな戦力はないからです。

中国軍は台湾に上陸して占領する戦力もありません。ただ、このまま軍拡を続けていくと、2025年ごろにはそれが可能になるという説があります。
そのことから最近「台湾有事」ということが言われるようになりました。しかし、侵攻する能力があることと、実際に侵攻することとは別です。「台湾有事」というのはなにかのプロパガンダでしょう。

グローバル・ファイヤーパワーによる世界の軍事力ランキングで、日本は5位、台湾は22位です。
日本の面積は台湾の約10倍で、人口は約5倍です。
日本が中国軍に占領されて中国の支配下になるということはまったく考えられません。

ただ、日本が中国のミサイル攻撃を受けたり空爆されたりということはありえます。
航空戦力の比較はむずかしいので、空爆の可能性はどの程度かよくわかりませんが、ミサイル攻撃を防ぐことは困難です。通常弾頭ならたいしたことはありませんが、核弾頭なら悲惨なことになります。
しかし、冷静に考えれば、中国が日本をミサイル攻撃してもなにも利益はなく、国際的非難を浴びるという不利益があるだけです(日本が敵基地攻撃能力などを持つと話は違ってきます)。
北朝鮮によるミサイル攻撃にしても同じです。

このように具体的に考えると、米軍の助けがなくても、日本がウクライナのようになるということはまったくありえないことがわかります。
これは島国であることのありがたさです。
かりに尖閣諸島を巡って日中の武力衝突が起きても、それだけで終わるでしょう。


そうすると、日米安保条約は必要ないのではないかということになります。
自衛隊の戦力で十分に国は守れます。
むしろ世界5位の軍事力は過剰ではないかと思われます。
しかし、日本の適正な防衛力はどの程度かという議論はありません。

なぜ日本にはまともな防衛論議が存在しないのでしょうか。
それは自衛隊の歴史を見ればわかります。


自衛隊の前身の警察予備隊は1950年、マッカーサーの要請により創設されました。朝鮮戦争で在日米軍が手薄になったのを補うためで、共産革命を防ぐ治安維持が目的でした。
自衛隊になってからは国防も目的となりました。
しかし、安保条約があり、駐留米軍がいるので、自衛隊がなくても国は守れます。
では、なんのための自衛隊かというと、たとえば朝鮮半島で戦争があったときに米軍を助けるためです。
つまり自衛隊創設の最大の目的は米軍を助けることでした。

自衛隊はソ連の侵略を想定して北海道で演習していましたが、「国防」らしいことはそれぐらいです(ソ連が北海道に攻めてくることもあまり考えられません)。
自衛隊を巡る論議はつねに「国防」ではなく「海外派兵」に関することでした。

ホルムズ海峡防衛とかマラッカ海峡防衛とかシーレーン防衛とかもよく議論されましたが、これもいわば海外派兵です。
湾岸戦争のときはアメリカから「ショー・ザ・フラッグ」と言われ、イラク戦争のときは「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」と言われ、結局、湾岸戦争では金だけ出し、イラク戦争のときはサマワに自衛隊を派遣しました。
アフガン戦争のときは、自衛隊はインド洋で米軍などへの給油活動をしました。
2011年にはジブチ共和国に初の海外基地を設け、現在、自衛隊員約400人が駐留しています。
2015年に新安保法制が成立したとき、当時の安倍晋三首相は朝鮮半島有事のときに日本の民間人が乗った米艦を自衛隊が護衛するというケースを例に挙げて、新安保法制の必要性を訴えました。
近ごろ議論されている敵基地攻撃能力も国防とは違います。


自衛隊の目的は、第一が米軍を助けることで、第二が国防です。
第一と第二は逆かもしれませんが、いずれにしても、米軍を助けるという目的をごまかしているので、日本ではまともな防衛論議が存在しないのです。
国防に限定すれば、安保条約は必要ないばかりか、自衛隊はすでに過剰な戦力を持っています。

ところが、日本人はあまりにもアメリカへの依存心が強いので、自衛隊だけで国を守ろうという気持ちになれないようです。
世界を見渡せば、ほとんどの国は日本よりも低い軍事力しかなく、核の傘にも入っていませんが、それでもちゃんとやっています。

ロシア・ウクライナ戦争をきっかけに、まともな防衛論議が起きてほしいものです。

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