どうやら私たちは放射能と長いつきあいをしなくてはいけないようです。
そこで問題になるのが、放射能はどの程度恐れるのが正しいのかということですが、この判断がなかなかむずかしい。というのは、私たちはすでに放射能についてさまざまな偏見を持ってしまっているからです。私は放射能の専門家ではありませんが、自分なりの観点から「放射能の恐怖」についての偏った認識について書いてみたいと思います。
 
ひとついえるのは、わたしたちは政治的立場によって「放射能の恐怖」の感じ方が大きく違うということです。単純にいえば、左翼的な人は「放射能の恐怖」がひじょうに強いのです。
なぜそんなことになるのか。理由は三つあります。
 
まずひとつは、冷戦構造下で左翼はすなわち反米でしたから、反米感情をあおるために左翼はヒロシマ・ナガサキ、第五福竜丸の悲劇を強調してきました。そのとき「放射能の恐怖」もいっしょに強調してきたのです。人を動かすとき恐怖心をあおるのはいちばん手っ取り早い方法だからです。
 
ふたつ目は、左翼は基本的にエコロジストでもあるので、反原発の立場です(右翼は国家単位でものを考えるので地球環境問題は苦手です)。反原発を主張するとき、手っ取り早いやり方として原発事故の恐ろしさ、放射能飛散の恐ろしさを強調することが行われてきました。
 
三つ目は、左翼は原発労働者の被ばくの危険性をつねに強調してきました。なぜ左翼が被ばくの危険性を強調してきたかというと、被ばくを伴う作業をするのは主に下請け労働者だからです。「危険な作業に従事させられる下請け労働者」という左翼の好きな、というか左翼の訴えたい構図を強調するためにも、被ばくの危険性がより強調されたのです。
 
このように左翼は放射能の恐怖を強調することで自分の主張を通そうとしてきたのですが、これはうそやごまかしというわけではありません。レントゲン検査ですら多少なりとも発がんリスクを高めるわけですから、その恐怖には一定の正当性があります。その結果、左翼自身、誰よりも放射能を恐れる人間になったのです。
原発で作業員を雇うときは、最初に徹底的に放射能や放射線は怖くないという洗脳教育をするそうですが(少なくとも左翼はそのように主張してきました)、左翼は自分で自分に「放射能は怖い」という洗脳教育をしてきたのです。
 
私は今は左翼ではありませんが、若いころから長く左翼的な考え方をしてきましたから、そのへんの事情はよくわかります。
たとえば、左翼はプルトニウムを混ぜたMOX燃料の危険性をあらかじめ知っています。だから、福島第一の三号機でMOX燃料が使われているという小さい新聞記事にも当然注目します(これはテレビではまったくといっていいほど触れられません)。そして、広瀬隆さんの情報発信もキャッチします。そうして恐怖心をますます増幅させてしまうのです。
 
今の私は少し考え方が変わってきています。
たとえば、広島は戦後すぐに復興してずっと多くの人が住んでいますし、ひどいケロイドを負って今まで長生きしている人もいます。当時の原爆と今の原発ではウランの量がまったく違うので、比較してはいけないのですが、少なくとも広島の放射能はそれほどのものではなかったといえます。
また、現在福島第一で作業に当たっている人たちは、別に鎖につながれて働いているわけではありません。自分の意志で働いているのです。とすると、労働者の被ばくの問題も、これまで思っていたのとは違うようです。そもそも東芝、日立、関電工の社員を下請け労働者と呼ぶのはかなり語弊があります。
また、プルトニウムの毒性について、CSテレビで「一万倍の毒性だという説がある」といっている人がいてびっくりしました(朝日ニュースターの愛川欽也さんの番組です)。これはさすがに間違いだと思いましたが、間違いなりの“根拠”があるのではないかと調べてみると、どうやらプルトニウムから発生する放射能は半減期が長く、中には一万年以上のものもあるということが“根拠”になっているようです。
私でもこれが間違いであることはわかります。半減期が長いということは、時間当たりに発生する放射線の量が少ないということであり、人体にはむしろ無害です。半減期が人間の寿命と重なるぐらいのものが有害なのです。
 
こうして今では私の考えも変わってきたのですが、頭ではわかっても体がついてこないというか、今も腹の底に恐怖心がわだかまっています。長年かけて形成された恐怖心は消すのにもそれなりの時間がかかるようです。
 
 
ここで話が変わるようですが、菅総理の心理状態について考えてみます。
市民運動出身の菅さんは、社会主義や共産主義の左翼とは違いますが、左翼的な人間といっても間違いないでしょう。反原発運動からの情報も相当得ているはずで、放射能への恐怖心も人一倍強いと思います。
一時、菅総理は引きこもり状態だとか、うつろな表情でマウスを動かしてるだけだとかいう週刊誌報道があって、その報道の真偽のほどはわかりませんが、私は自分自身と照らし合わせてもありそうなことだと思いました。
今でこそ原発事故は小康状態にありますが、一時はかなり危機的な状態で、放射能の大量放出もあるのではないかと私は思っていました。当然、精神状態は最悪です。
ちょうどそのころ、私と同年代の知人が救急車で運ばれるという出来事がありました。酒と睡眠薬の飲みすぎだったようです。彼もまた私と同じような価値観で生きてきた人間で、見舞いに行って話を聞くと、原発や震災の報道を見ていて気がめいったということでした。
菅総理もそうした精神状態だったかもしれません。
これは一国の指導者としてはひじょうに困ったことです。
しかし、私は菅総理の左翼バイアスのかかった過剰な「放射能の恐怖」こそが日本を救ったのではないかと考えています。
(つづく)