吉野家のCMで、仲村トオル部長がケータイをいじっている部下に「食うときはちゃんと食え」と説教するやつがあります。これ、共感する人が多いでしょうね。丼が目の前に出されているのにまだケータイをいじってるやつ。横にいて、イラッとしてしまう気持ちはよくわかります。
しかし、ケータイを取り上げてパチンと閉じてまで食べさせるのはどうなのでしょうか。
いや、私は断言しますが、仲村部長は間違っています。
 
なぜ仲村部長は間違っているのか説明しましょう。
仲村部長と部下は仕事で外歩きをしているようですが、食事をするときはいわばプライベートタイムです。得意先といっしょに食事をしているなら、ケータイをいじるのは失礼ですから、仲村部長から注意されて当然です。しかし、あのCMの場面なら、どんな食べ方をしても誰にも失礼になりません。
そもそもあの部下は、きりのつくところまでケータイをいじってから、ちゃんと食おうと思っていたのです(たぶん)。一方的にケータイを閉じられるのはすごい不愉快です。
まあ、カッコいい仲村部長から注意されるのは、少しうれしかったりするかもしれませんが。
 
仲村部長は「食うときはちゃんと食え」のあと、「食うっていうのはそういうものだ」といいますが、これは理由がないといっているのと同じです。
ケータイを見ながらダラダラ食べているやつより、集中して食べているやつのほうに好感が持てるということは一般的にありますが、どんな食べ方をするかは個人の自由ですから、とりわけ会社の上司が注意とか命令とか強要をしてはいけません。
 
 
私は吉野家の牛丼は大好きです。なにしろ吉野家の株主ですので、半年ごとに300円の優待券が10枚届くので、その分食べています。
このところ吉野家の株価は低迷しています。一方、ライバルであるすき家のゼンショーはけっこう好調です。この違いはなんなのか。私は今回のCMを見てわかった気がしました。
吉野家は、牛丼は男がガッツリと食べるものだと思っているのです。
すき家は違います。女性でも入りやすい店づくりをして、牛丼のミニサイズもありますし、牛丼ライト(ご飯の代わりに豆腐と野菜が入っていて低カロリー)というのもあります。
すき家は、女性がケータイをいじりながらダラダラと食べるのもありだと思っている気がします。
吉野家は吉野家らしさで勝負するという考え方もありますが、それで業績が低迷してはだめでしょう。昔、ビール業界で生ビールブームというのがあり(瓶詰の生ビールのことです)、各社が生ビールを売り出す中で、キリンビールだけは「ビールはラガーだ」という価値観に固執して、シェアをへらしてしまいました。「牛丼は男らしくガッツリと」とか「ビールはラガーだ」とかいうのは、自分の価値観にこだわっているだけで、お客様のためにという商売の基本から外れている気がします。
 
あと、このCMには、最近の草食系男子に対する批判的な視線もあるような気がします。いろいろと問題の多いCMです。