人生相談を見ていると、本人の努力では解決不能ではないかと思われる相談があります。それでも、回答者はなんかの回答をしなければなりませんが、「横やり人生相談」では自由に回答できるのが強みです。次の相談も、相談者よりもむしろ家族の態度に問題のあるケースです。
 朝日新聞「悩みのるつぼ」
借金で迷惑かけた私です  
 30代半ばの既婚女性です。6歳、3歳と、男の子と女の子がひとりずついます。独身時代からの勤めを今も続けています。
 私にはどうやら浪費癖があるようで、独身時代から給料などはきれいに使い切ってしまっていました。
 ギャンブルにはまったり、他の男性に貢いだりすることこそありませんが、結婚後も、夫に使い道を報告することもないまま、買い物を続けました。そして気がついたら、数百万円も使ってしまっていました。
 カードローンやクレジットの返済は、夫の両親にお願いして払ってもらいました。
 夫はかなり怒りました。
 実家にお願いせざるを得なかったので、今後は感謝をしながら正しい人生を歩んでいかなければならないと思っています。でも、私には何ひとつ、取りえがありません。
 整理整頓も、料理も子育ても、妻としても、たいして何もできないのです。せっぱつまっても、できないのです。これだけは誰にも負けることがないというものもなければ、大好きなことも特にありません。
 このままでは親子関係も、夫婦関係もどんどん悪くなる一方です。こんな年になって、こんな悩みは恥ずかしくてしかたないのですが、自分で悩んでいても何の答えも出ません。
 何か助言をいただければ幸いです。
 
これに対して回答者の評論家岡田斗司夫さんの回答を要約してみるとこんな具合です。
問題の出発点は、「私には取り柄がない」という認識です。そのため浪費に走る。浪費の借金で評判が落ちる。評判を取り返すには取り柄が必要だ。だが、私には取り柄がない――という無限リピートに陥っています。これを脱出するには、キャラを変えることです。今まで目指した「カッコいい私」は諦めて、「おバカだけど頑張る=愛される私」を目指しましょう。そのためには、今まで浪費していたけど今は浪費していない金額を家族に報告し、夫にほめてもらいましょう。ほめられること、評価されることがあなたには必要です。もし夫がほめてくれなかったら、僕にメールしてください。僕がほめてあげますから。
 
私もだいたい同じような認識ですが、ただ、最後の部分には同意できません。夫がほめてくれたらいいのですが、まずほめてくれないでしょう。岡田斗司夫さんにメールを送ってほめてもらうというのも、現実にはありえないでしょう。とすると、この回答では問題を解決できないことになります。
 相談者は、自己評価が低く、「私には取り柄がない」という認識を持っているのはその通りでしょう(買物依存症の原因はたいていそれです)。その上、借金を夫の実家に肩代わりしてもらい、夫からは怒られ、さらに自己評価が下がってしまいました。こんな状態で、夫との関係を改善することができるとは思えません。それどころか、低い自己評価を忘れるために、また浪費に走ってしまう可能性があります。
 
おそらく誰でも、相談者が悪いからこの問題が生じたのだと考えるでしょう。そして、問題を解決する責任は相談者自身にあると考えるでしょう。
私もまた、確かに相談者が悪いからこの問題が生じたのだと考えますが、それに加えて、夫や夫の両親のやり方が悪いために、問題がさらにこじれてしまったのだと考えます。
ですから、責任はむしろ夫と夫の両親のほうが大きいくらいだと考えます。
では、夫と夫の両親のどこが悪かったのでしょうか。
 
妻に数百万円の借金があると発覚したとき、夫と夫の両親は離婚も考えたかもしれません。しかし、子どももいるし、世間体もあるし、ここはお金を出して解決しようと最終的に判断したのでしょう。
お金を出すと決めた以上、正しいお金の出し方があります。それはきっぱりと、気持ちよく出すということです。
ところが、両親はお金を出すときに、いろいろ恩着せがましいことをいったのでしょう。そのため相談者は「今後は感謝をしながら正しい人生を歩んでいかなければならないと考えています」と書いています。この文章にはぜんぜん感謝の気持ちがありません。感謝の気持ちがあれば、「夫の両親にとても感謝しています」と書くはずです。
「夫はかなり怒りました」と書いてあるから、そうなのでしょう。まずいことをしたと思っているときに怒られると、ますます落ち込みます。
つまり、夫と夫の両親は、よってたかって相談者の自己評価を下げるようなことをしているのです。これでは問題が解決しないばかりか、さらに深刻化することが予想されますし、現に相談者の自己評価は最低レベルになり、人生相談に救いを求めています。
 
では、どうすればよかったのでしょう。
両親は「ちっとも気にしなくていいよ。お互い家族じゃないか」とでもいってぽんとお金を出せばよかったのです。そして夫は、「お前の気持ちをわかってやれなかった俺も悪かった。これからはこんなに借金がふくらむ前にいってくれ」といえばよかったのです。
こうすれば、相談者は家族に感謝し、家族のために立ち直ろうという気になったでしょう。
実に単純な理屈です。
 
しかし、現実には、夫と夫の両親の対応のまずさを指摘する人はほとんどなく(私ぐらい?)、相談者を批判する人が圧倒的でしょう。
この世の価値観はあべこべなのです。
 
ところで、相談者はどうしてこんなに低い自己評価を持つにいたったのでしょうか。相談者は2人の子どもを育てながら独身時代からの勤めを続けているということですから、世間的には高く評価されてもいいはずです。なんの手がかりもありませんが、おそらくは育った家庭で評価されなかったのでしょう。
そして、夫や夫の両親も評価してくれる人ではなかったわけです。
こういう不幸から脱出するのは容易なことではありませんが、正しい認識を持つことはその第一歩です。