よく政府に対する批判として、「成長戦略がない」ということが言われます。これは今の政権に対してだけでなく、ずっと前から言われてきました。しかし、成長戦略とは具体的にどんなものでしょうか。たとえば規制緩和、TPP参加、新エネルギーなど成長産業への投資といったことが言われているようですが、そんなことで経済成長が実現できるものでしょうか。
いや、たとえば規制緩和にしても、やればそれなりの効果はあるはずですし、やらないよりはやったほうがいいでしょう。しかし、「成長戦略」という言葉には、この長期停滞を抜け出してバラ色の成長が実現できるようなイメージがあります。よく「成長戦略がない」と言う人は財界人、エコノミスト、評論家、マスコミの偉い人などですが、こうした人たちは高い経済成長を求めているのでしょう。
 
しかし、私が思うに、国民のほとんどは高い経済成長など求めていないと思います。というか、実現不可能と思って、諦めていると思います。
とくに若い人は、生まれてからずっとデフレ経済の中で生きてきたわけで、高い経済成長というものをイメージすることもできないのではないでしょうか。
 
現在のデフレ経済、長期停滞は、経済政策の誤りによるもので、たとえば日銀が大胆な金融政策を打ち出せば成長できるのだと主張する人もいますが、日銀の人もそんなにバカではないので、できるものならやっているでしょう。
なお、今の日本は巨額の財政赤字のため財政出動の余地がなく、そのためもっぱら日銀に責任をおっかぶせる議論が行われるわけです。
 
さて、こうした経済停滞は日本だけのことかと思っていたら、いつのまにかアメリカもヨーロッパも同じ穴にはまり込んでいるようなのです。
アメリカは大きな財政赤字のために財政出動ができず、金融政策も出し尽くして、手詰まりに陥っています。ヨーロッパも多くの国が大きな財政赤字を抱え、ギリシャなどいくつかの国に債務不履行のおそれがあって、金融危機が再燃しつつあります。
「日本化japanificationまたは japanizationという言葉があって、アメリカもヨーロッパも日本のようになりつつあるのではないかといわれています。
もしそうなれば、先進国はみな経済停滞に陥るということになります。
 
実際どうなるかはわかりませんが、私はそうなってもいいと思っています。今の先進国の生活レベルは十分に豊かです。これ以上になる必要があるとも思えません。中国などの国が同じレベルの豊かさに追いついてくることを思うと、資源や環境の問題からしても、先進国がこれ以上成長することは逆に許されないことのように思えます。
 
日本人の多くもこれ以上の豊かさは求めていないのではないでしょうか。
ただ、失業は困りますし、格差社会のために貧しくなる人がいるのも困ります。そうした問題が解決されれば、別に経済成長する必要はないというのが大方の考えではないかと思われます。
 
経済成長しなくても失業や貧困のない社会をつくるという「成長しない戦略」が今求められているのではないでしょうか。
それが実現できれば、日本は先進国の手本になれるわけです。