2、3年前、アメリカでは犯罪がふえ続け、「成人の100人に1人が刑務所の中にいる」というニュースがありました。そのとき私は、「このまま犯罪がふえ続ければ、アメリカ人は受刑者と看守の2種類の人間しかいなくなるだろう」というギャグを思いつきました。
 
アメリカの裁判は、被告が起訴事実を認めるとすぐに判決が下されますし、スリーストライク法(3度目の有罪で終身刑になる)みたいに厳罰化が進んでいるようです。それにしても、100人に1人が受刑者というのはかなり異常で、街の中にも元受刑者がいっぱいいるということになります。
 
犯罪対策として、ゲーティッド・シティー(ゲーティッド・コミュニティ)というのがつくられています。ゲーティッド・シティーというのは、塀で囲まれた町で、出入りがチェックされ、厳重な防犯体制がとられているところです。もちろん住むのは富裕層です。
リーマン・ショック以来の不況によって、最近はゲーティッド・シティーの建設は進んでいないかもしれません。しかし、アメリカでこのところ連日行われている経済格差に反対するデモが11日、マンハッタンの高級住宅地にまで及んだということです。これがきっかけになってまたゲーティッド・シティーに住みたいと思う人がふえるかもしれません。
 
アメリカ人が受刑者と看守だけになってしまうということはありませんが、アメリカ人は刑務所の塀の中に住む人と、ゲーティッド・シティーの塀の中に住む人と、その中間地帯に住む人の3種類に分かれ、刑務所とゲーティッド・シティーの人口がどんどんふえていき、中間地帯の人口はどんどん減少していくということになりそうです。
 
それにしても、ゲーティッド・シティーに住む人は、そこが安全だと思って住んでいるわけです。つまり彼らは、犯罪が起こる理由を知っているのです。
ゲーティッド・シティーに住む人はみんな豊かです。豊かな人は少々のものを盗んでもあまり意味がありませんし、盗みがバレたときに失うものが多いので、まず盗みをすることはありません。一方、貧しい人は、少しのお金でも大きな価値があり、盗みがバレて刑務所に入ることになってもそれまでの劣悪な生活とそれほど違いがないので、容易に盗みに走ってしまいます。
ですから、豊かな人ばかりのゲーティッド・シティーでは、窃盗や強盗はまずないと想像できるのです(愛憎のもつれなどによる犯罪は普通にあるでしょうが)
 
貧困が犯罪の大きな原因であることはまぎれもない事実です。ですから、昔の社会主義者は貧困をなくし、十分な福祉を行えば、犯罪はなくなると考えていました。完全になくなると考えるのは間違いですが、それでも9割ぐらいの犯罪は貧困対策と福祉の充実でなくすことができるのではないでしょうか。
 
しかし、社会主義思想が消滅するととともに、こうした犯罪についての考え方も消滅してしまったようです。
今では、犯罪の原因は犯罪者の心の問題に帰結するとされ、犯罪対策といえば“割れ窓理論”(小さな犯罪を徹底的に取り締まることで犯罪全般をへらせるという理論)ぐらいしかないのが実情です。暴力団対策というのは、対策の名にも値しないものです。
 
警察司法関係者は頭こそいいはずですが、犯罪対策についてはまったく無能です。