子育てに際して、子どもの「わがまま」に悩んでいる親は多いことと思いますが、そもそも「わがまま」とはなんでしょうか。視点を変えてみるとわかってくることもあるはずです。今回取り上げるのは介護にまつわる相談です。
 
「わがままな母に閉口」相談者 50歳女性
脳梗塞の後遺症でまひがある母を自宅で介護していました。しかし、あまりのわがままに家族がお手上げ状態となり、ホーム入居に踏み切りました。入居してからも母は文句ばかりで、2回ホームを移りました。もう家族がみるしかないのでしょうか。(「定年時代」平成2310月下旬号)
 
回答者は介護相談の専門家である中村寿美子さんです。中村さんはこう回答しています。
 
思うように動けない、気持ちがうまく伝わらないといったお母さまのもどかしい思いが、わがままとなって周囲を困らせているのでしょう。
ダメージを受けた脳の部位によって、運動機能に障害(まひ)が出たり感情のコントロールが難しくなるなど、症状はさまざまです。「手に負えないわがままは病気のせい」と理解できませんか。
 
相談の文章では運動機能のまひしか書いてありませんが、高次脳機能障害では感情のコントロールができにくくなる場合があります。だとしたら「わがまま」はまさに「病気の症状」ということになります。
「病気の症状」と認識したら、周りの人の対応も変わってくるはずです。お母さんの態度を叱責したり矯正しようとしたりすることもなくなるでしょう。
 
 
では、子どもの「わがまま」はどうでしょうか。
これは「病気の症状」ではありません。
では、なにかというと、「人間本来の姿」です。
ですから、叱責したり矯正しようとしたりしても、なかなかうまくいくものではありません。
そして、考えなければならないのは、親にも「人間本来の姿」があるはずだということです。
 
「人間本来の姿」というのはそれほどすばらしいものではありません。少しの「わがまま」が含まれています。
ですから、人間はつねにぶつかり合います。これは家族内でも国際社会でも同じです。
対等の人間であれば、勝ったり負けたりするうちに、ぶつかり合いを回避する知恵を身につけます。しかし、強者と弱者であれば、つねに強者が「わがまま」を通すことになります。
親と子の関係がそうです。親は子に対して圧倒的に強者ですから、自分の「わがまま」を通します。そして、子どもは自分が親になると、親のやり方を学習した上にさらに自分の「わがまま」をつけ加えます。それを何世代も繰り返しているうちに、親の「わがまま」がどんどん肥大してきたのです。「しつけ」や「教育」もその中で生まれました。
子どもを親にとって都合のいい存在にしようとすることが「しつけ」や「教育」なのです。
 
自分の子どもが「わがまま」に見えたときは、自分はもっと「わがまま」なのではないかとわが身を振り返ったほうがいいでしょう。
自分は「わがまま」でないけど生まれた子どもは「わがまま」だったというのは、理屈としてもおかしいですから。