最近の私たち夫婦の会話はこんな具合です。
 
「あそこのあれ、明日開店だって」
「そうか。そのうち行こうか」
「そうね」
 
「あそこのあれ」というのは、商店街の中で新規開店の工事中だったレストランのことです。前に夫婦の会話で出ていたので、「あそこのあれ」というだけで通じるわけです。
 
「あれ、もうなくなるよ」
「買ってあるわよ」
 
「あれ」というのはシャンプーのことです。風呂から出てきて言ったので、妻も想像がつくわけです。
 
長年連れ添った夫婦だから、いい加減な言葉でも以心伝心でわかり合えるのだというと聞こえがいいのですが、実際のところは、年を取ったせいか適切な言葉が出てこなくて、代名詞でごまかしているわけです。
ですから、通じないこともいっぱいあります。
 
「ちょっと、あれ取ってよ」
「あれじゃわからんよ」
 
「あの人から電話があったよ」
「あの人って誰よ」
 
実際は、しょっちゅうこんな会話が交わされているわけです。あまりにもこういうことが多いので、むしろおもしろがって言っているような状態です。
 
「ちょっと、そこにあれなかった?」
「あれってなに」
「あれっていえばあれよ」
「ここのそれじゃないの?」
「それじゃなくてあれよ」
 
年中こういう会話を交わしていると、きっと人類が言葉をしゃべり始めたころはこんな感じだったに違いないと思えてきました。
つまり人類が最初に口にした名詞は代名詞だったに違いありません。
しかし、代名詞だけでは通じないことが多くあり、「あそこ」では通じないので、「山」とか「川」とか「谷」とかの言葉をつくりだしたのでしょう。これが普通名詞です。
しかし、山といってもいくつもありますから、「大山」とか「北山」とか「笹山」とか名づけて区別します。これが固有名詞です。
 
つまり、名詞の発生の順序としては、
代名詞→普通名詞→固有名詞
という順になります。
 
ですから、代名詞というネーミングは間違っていることになります。代名詞ではなく「原始名詞」とでもいうべきです。
 
最初に普通名詞ができて、次に普通名詞に代わるものとして代名詞ができたなんていう説は、とても信じられないでしょう。
代名詞を「原始名詞」と名づけると、普通名詞は「一次派生名詞」、固有名詞は「二次派生名詞」と名づけることもできるはずです。
 
言語学ではこのことについてどう考えられているのでしょうか。
人類がこれほどの言語能力を持ったのはなぜかというのはもちろん大問題で、これについてはいろいろな説があります。あまりにもいろいろな説があって、珍説奇説が横行したために、一時フランスの言語学会で言語起源説の発表が禁止されたことがあるくらいです。ですから、名詞発生の順序についても、定説はないのではないかと想像されます。
 
私の名詞発生順序仮説も特許みたいにどこかに出願しておきたいものです。