高齢者世帯がふえています。厚生労働省の「2010年国民生活基礎調査(概況)」によると、高齢者のみか、これに18歳未満の子供を加えた「高齢者世帯」が10年時点で1020万7千世帯(推計)と、初めて1千万を突破。全世帯(約4864万)の21%を占めるまでになったということです。
これは、最初から子どものいない高齢者世帯がふえたということも少しはあるでしょうが、それよりも、子どもがいても同居しないケースがふえていると見たほうがいいでしょう。
同居しない理由は、子どもが都会で働いていて、親は慣れた田舎に住み続けたいということももちろんありますが、親と子の関係がうまくいっていないからということも相当数あるものと想像されます。その典型的な例が次の人生相談です。
 
 
「娘が反発 音信不通に」読売新聞「人生案内」20111110
80代、無職男性。娘2人は結婚していて、妻と2人暮らしです。ちょっとしたいざこざで、娘たちと連絡がとれなくなりました。
  先日、大学3年になる孫娘が鼻歌を歌いながら食事をしていたので、それを注意しました。小遣いをあげても孫が「ありがとう」の言葉を返さないことがあり、その時も注意しました。
  すると、娘2人が私たち親に対し、「今まで嫌みを言われてきても反抗せずに従ってきたが、もう限界だ。親だから何を言っても許されると思っているのか」と反発してきました。さらに「親に感謝もしているが、お互いに助け合う関係はもう無理だと思っている」と言うのです。
  娘たちは、今後は電話もメールもできないと伝えてきており、現在、こちらから電話しても留守番電話になったままで、返事はありません。
  私たち夫婦には、残された人生もあまりありません。親娘が断絶した状態で死を迎えるとなれば、葬儀の喪主は誰がやってくれるのかとか、後々の年忌法要はどうなるのかなど、心配になります。ご指導をお願いします。(茨城・H男)
 
 
この人生相談の回答者は作家の出久根達郎さんです。
出久根さんは親子の問題について親の味方をすることが多いのですが、今回は、「娘さんにしてみれば、長い間のうっぷんが一度に爆発したのでしょう」と書き、この際言辞を改めて、子どもに従いなさいと結論づけています。
私の考えもこの回答と同じです。おそらく多くの方もそうではないでしょうか。
私がこの人生相談を紹介したのは、回答よりも、この相談者の文章から学べるものが多いと思ったからです。
 
親娘が断絶した原因は、孫娘が食事中鼻歌を歌っていたのを注意したことと、孫にお小遣いを上げたとき「ありがとう」の言葉がないので注意したことのふたつしか書いてありませんが、もちろんそれまでにいろんなことがたまっていたのでしょう。このふたつは最後のきっかけにすぎません。娘さん2人が同じ行動をとっているのですから、相談者の態度に問題があることは明らかです。
しかし、相談者はこんな事態になっても、娘はなぜそんな態度に出たのかということを考えようとしません。孫娘の態度を注意したときも、孫娘はどんな気持ちになるだろうかということを考えません。今、相談者が心配なのは、葬儀の喪主のことと年忌法要のことだけです(奥さんの気持ちも考えていないようです)
色が見えない色盲というのがありますが、相談者は人の心が見えない色盲のような人なのでしょう。自分の言動で人が不愉快になったり怒ったりしていても、なにも感じないのです。娘さんはさぞ不快な思いをしてきたことでしょう。
 
相談者は年を取ったせいで弱気になっているようです。そのため事態を冷静に記述しているので、こちらにも事情がよくわかります。もし相談者が元気であれば、たとえばこんなふうに書くかもしれません。
 
「娘は孫娘を甘やかし、しつけに無頓着です。これでは世の中に出たときに孫娘自身が困ることになると思い、私が食事のマナーについて注意したり、お小遣いを渡したときには「ありがとう」と言うようになどと注意してきました。しかし、娘はそれが気に入らないようで、親娘の縁を切るという態度に出てきました。私の娘に対する教育が間違っていたといえばそれまでですが、娘の態度を改めさせるためにはどうすればいいでしょうか」
 
こんなふうに書いてあれば、娘さんのほうが悪くて、相談者が正しいと判断してしまう人も出てくるかもしれません。
この文章は「しつけ」ということを軸にして書いています。それだけで意味が逆転してくるのです。
 
相談者もずっと2人の娘さんの「しつけ」をやってきたのでしょう。そして、自分のやっていることは正しいと思って、娘さんの気持ちを考えることもなかったのでしょう。
 
相談者は生まれつき人の気持ちがわからない人ではないはずです。家庭の中に道徳を持ち込み、子どもをしつけようとしたことで、子どもの気持ちを無視する態度が身についてしまったのです
 
「家庭の中に道徳を持ち込むな」というが私の持論です。今回の人生相談を見ると、そのことがよくわかるのではないでしょうか。
家庭に道徳を持ち込むから、子どもを不愉快にする言動が生じるのです。道徳がなければ、おのずと明るい会話のある家庭が築けます。
 
そうして親子関係がよくなれば、親子の同居がふえ、高齢者世帯も少なくなるのではないかと私は思っています。