経済学の入門書を読むと、たいてい「一物一価の法則」というのが書いてありますが、果たしてこれは「法則」というほどのことでしょうか。これは「当たり前」というべきです。初歩の段階で「一物一価の法則」を学んでしまうと、そのあとのことが頭に入りにくくなってしまいます。
経済学でだいじなのはむしろ「価格変動の法則」でしょう。同じ物でも場所と時間で価格が変動するということを理解すれば、「一物一価の当たり前」はどうでもよくなります。
 
価格変動といえば、需要と供給の法則ということになりますが、需要にせよ供給にせよ抽象的な概念です。そもそも需要とはどうして発生するのでしょうか。こういうことは具体的なことから説明してほしいものです。
 
人間が生きていくにはまず空気が必要ですが、空気はどこにでもあります。水もそれほど苦労せずに手に入ります。問題は食糧です。食糧がないと生きていけませんが、食糧を手に入れるのは簡単なことではありません。
これはどんな動物でも同じです。動物の最大の関心事は食糧を得ることです(次に子孫を残すことです)。食糧を得られないために死んでいく個体はつねに少なからずいます。
 
ですから、人間もつねに食糧を得るために必死であるわけですが、もともと人間は自分の食べるものを自分で得ていて、つまり自給自足の生活をしていたわけで、そうすると市場もありませんし、需要と供給も、価格変動もありません。
しかし、あるとき物々交換が始まりました。こうして市場ができ、経済学が存在する理由ができたわけですが、物々交換はどうして始まったのでしょうか。
物々交換は、双方ともに得だと思うことで成立するのですが、どうして物を交換することで双方が得をするのでしょうか。
これは人間の生理的欲求の性質によります。この生理的欲求は生物学的に規定されています。
 
山の民は主に獣の肉を食べて暮らし、海の民は主に魚を食べて暮らしていますが、いつも同じものを食べていると飽きてきて、別のものを食べたくなります。別のものを食べるとおいしく感じます。これは人間の生まれついての性質で、生物学的に規定されています。そうしてさまざまな栄養素を取り込むことができるわけです。
つまり、山の民はたまに魚を食べると獣の肉よりもおいしく感じ、海の民はたまに獣の肉を食べると魚よりもおいしく感じます。双方がまずいものをおいしいものと交換したと思うから、物々交換が成立するのです。
 
これはあくまで人間が生物学的存在だからです。このことを無視して物々交換の発生を説明することはできないと思います。
 
しかし、経済学の本には、人間の生理的欲求だとか、本能だとか、生物学的要素だとかはめったに書かれていません。たいていは、いきなり市場における価格決定のことから書かれています。
 
経済学の入門書は、人間がほかの動物と同じように暮らしていたところから書き出すと、とてもわかりやすくなると思います。