1225日にNHKのスペシャルドラマ「坂の上の雲」最終回がありました。
私は原作を読んでいたこともあって第1部と第2部は見ませんでしたが、戦争シーンがあるということで第3部は見ました(実は戦争映画大好きです)
キャストは豪華だし、CGやロケやセットにすごい金はかけているし、ストーリー運びにも隙はないし、テレビドラマとしては最高級のできでしょう。とくに軍艦同士が大砲を撃ち合う海戦シーンは、今までの戦争映画にはない迫力です。
ところが、視聴率があまりよくありません。なぜよくないのだろうかということが話題になっています。
ちなみに視聴率は、
 
第1部   平均視聴率17.5%
第2部   平均視聴率13.5%
第3部 第10話:「旅順総攻撃」12.7%
11話:「203高地」11.0%
12話:「敵艦見ゆ」11.1%
13話:「日本海海戦」11.4%
 
めちゃくちゃ制作費をかけているのにこの数字は情けないものがあります。NHKもがっくりでしょう。
 
とはいえ、このような視聴率はある程度予想されていたことでもありました。というのは、明治もののドラマの視聴率は悪いと昔から決まっているのです。
ですから、民放は明治もののドラマはほとんど手がけません。
明治もののドラマをつくるのは、使命感があるのか、NHKぐらいです。江藤淳原作のドキュメンタリードラマ「明治の群像 海に火輪を」(10)もNHKです。
戦国もの、江戸もの、幕末もののドラマは数え切れないくらいつくられていますから、それと比べると明治ものの不人気は際立ちます。
 
ドラマだけではありません。小説の世界でも明治ものは人気がありません。
明治ものを書く作家といえば、私が思い出せるのは山田風太郎、横田順爾、海渡英祐、高橋義夫ぐらいです。いや、もう少しいると思いますが、ひじょうに少ないことは間違いありません。
司馬遼太郎にしても明治ものはずっと書いていませんでした(幕末から明治につながるものはありますが)。司馬は“男のロマン”を書く作家といわれていますが、明治に“男のロマン”を書くことはむずかしいのでしょう。
司馬が「坂の上の雲」を書いたのは、日露戦争を描きたかったからではないかと思いますが、松山を同郷とする秋山兄弟、正岡子規の視点から書くというのはいいアイデアだったでしょう。しかし、近代国家においては秋山兄弟にしても将棋の駒のような存在で、そこにあまりロマンはありません。
 
明治というと、“明治の気骨”などという言葉もあって、古きよき時代というイメージかもしれませんが、古きよき時代なら江戸時代に負けます。江戸時代には庶民がそれぞれ好き勝手に生きていました。しかし、明治になると誰もが学校に行き、規律を学ばされ、軍隊に行ったり、工場で働いたりするわけで、そこにおもしろみを見いだすのは困難です。
 
「明治は古きよき時代」というのはあくまで表面的なイメージで、
「明治はつまらない時代」というのが誰もが無意識に感じていることです。
 
「坂の上の雲」というタイトルは、近代国家になることは上昇していくことだということからきているのでしょう。
しかし、近代国家になるということは、実際は帝国主義戦争の泥沼へ落ちていくことだったのです。みんなそのことがわかっているので、明治ものは人気がないのでしょう。