橋下徹大阪市長率いる「大阪維新の会」の国政進出がこれからの政治の焦点になると思いますが、「ピーターの法則」と多くのデータから判断すると、国政進出は失敗に終わると結論せざるをえません。
 
「ピーターの法則」というのは、教育学者ローレンス・J・ピーターが提唱した法則で、能力主義の階層社会では、無能な人間はそのポストにとどまり、有能な人間は出世していずれ無能レベルに達するので、すべてのポストは無能な人間で埋め尽くされるという法則です。
もちろん上のポストほど能力を必要とするという前提があります。
この法則は学術的な説ではなく、ほとんど冗談のようなものです。人間の学習能力や、古い人間は引退して新しい人間が入ってくるということを無視しています。ただ、会社の上司の無能ぶりや、どこかの窓口で対応を受けた係員の無能ぶりをしょっちゅう罵倒しているような人にとってはありがたい法則です。
 
しかし、ピーターの法則が冗談であるにしても、有能な人間が昇進して仕事がむずかしくなると無能になってしまうということは確実にあります。
そして、少なくとも日本の国政と地方政治の関係においては、明らかにピーターの法則が適用できるように思われます。
つまり、地方政治で有能だった政治家が国政に進出するとみんな無能になってしまうのです。
 
その例を挙げる前に、逆の例を挙げてみましょう。こちらのほうがわかりやすいからです。
 
石原慎太郎都知事は、もともと国政にいて環境庁長官、運輸大臣を歴任し、自民党内で小さな派閥を率いる立場になり、次は総理総裁を狙うというところで無能レベルに達しました。自分でも限界を悟ったのでしょう、衆院本会議場で日本を「去勢された宦官のような国家」と罵倒して政治家を引退しました。しかし、その4年後、東京都知事に当選、それからは存在感を発揮して、次の都知事選では史上最高の得票率で再選されるなど、人気も得ました。つまり都知事というのは国政の要職よりはうんとポストが軽く、石原氏の能力でも余裕でこなせて、それがリーダーシップがあると見なされて人気のもとになったのでしょう。
 
河村たかし名古屋市長も、衆議院議員を5期務めましたが、民主党総裁選に出馬しようとしても推薦人を集められないことが何度も繰り返され、明らかに頭打ちとなりました。しかし、名古屋市長に転じてからは独自の政策を掲げて人気となっています。
 
中田宏氏は衆議院議員を3期務めたあと横浜市長に転じ、行政改革の手腕が評価されてなんなく再選されました。そのあとはどういう事情か市長を辞任しましたが、最近出版された「政治家の殺し方」(幻冬舎)という本が話題になっています。
 
以上の人たちの業績については評価が分かれるかと思いますが、少なくとも国政の経験があることで首長のポストを余裕をもってこなせて、そのために大胆な政策を打ち出せたりして、それが人気につながっているということは言えるでしょう。
あと、国会議員から知事に転じた人として、達増拓也岩手県知事、森田健作千葉県知事、松沢成文元神奈川県知事などがいますが、ある程度の評価は得ているのではないでしょうか。
つまり、国会議員から自治体の首長に転じると、国政では無能レベルだった人も有能レベルに復活するのです。
 
 
では、自治体の首長から国政に転じた人はどうでしょうか。
 
岩國哲人氏は、メリルリンチ日本法人の社長を務めるなどしたあと出雲市長に当選し、その行政手腕が大いに評価されましたが、国政に転じたあとはあまり活躍することもなく、すでに政界を引退しています。
 
片山義博氏は鳥取県知事を2期務め、改革派知事の代表格でしたが、菅内閣で民間人閣僚として総務大臣に就任し、地方行政を改革するには最適のポストと思われましたが、目立った成果を出すことはできませんでした。
また、増田寛也氏も岩手県知事時代は改革派知事として評価されていましたが、やはり総務大臣に就任したときは目立った成果は出せませんでした。
 
田中康夫氏は長野県知事として脱ダム宣言やガラス張り知事室などで注目されましたが、国政に転じてからは、現在新党日本代表ですが、小党ということもあって目立った活躍はありません。
 
北川正恭氏は、衆議院議員を4期務めたあと三重県知事に転じ、やはり改革派知事として大いに評価されました。知事を2期で辞任したため国政復帰が期待されましたが、「マニフェスト」という言葉を政界に定着させるなどの功績はあったものの、なぜか国政には復帰しませんでした。
 
つまり、自治体の首長として活躍した人は、国政に転じるとほとんど活躍できないのです。
アメリカでは知事として評価された人が大統領になるというケースがいくらでもありますが、日本の事情はまったく違います。どうやら地方自治と国政のレベルが大きく違っているのでしょう。そのためピーターの法則が発動して、自治体の首長として有能だった人も国政では無能レベルに達してしまうのです。
 
 
以上の例からすると、橋下徹大阪市長の国政進出もうまくいきそうもありません。
もちろん過去がだめだったから今後もだめだとはいえませんし、橋下市長のキャラクターはかなり強力です。
しかし、今まで橋下市長がやってきたのは地方公務員バッシングです。それによって人気を得てきたのです。
国政に転じると、国家公務員バッシングをしなければなりません。期待されているのはそれだからです。外交などはどうせ未知数です。
国家公務員の給料を引き下げ、さらには高級官僚に向かって、「官舎にいるなら民間並みの家賃を払え。払わないなら官舎を出ていけ」などと言って喝采を受けるというのが橋下流ですが、そんなことになりそうになれば、官僚はその前につぶしにかかるでしょう。今までの歴史がそうでした。
 
昭和初期に軍官僚の支配が確立されてからずっと日本は官僚支配の国でした。
これをくつがえすには相当な戦略が必要です。
橋下市長のキャラクターに頼るようではとうてい不可能です。