2月13日、「大阪維新の会」が骨格となる政策「船中八策」を発表しましたが、これは網羅的な政策ですから、ひとつひとつを論評してもあまり意味はないでしょう。「維新の会」は政策の優先順位も発表してほしいものです。
 
それよりも、2月12日の朝日新聞に載っていた橋下徹大阪市長のインタビュー記事のほうが論評するに値します。はっきりいって突っ込みどころ満載です。ということは、今まで誰も橋下氏に突っ込まなかったのでしょう。ちゃんと突っ込んであげないと本人のためにもなりません。
政策論としては恐ろしく低レベルです。こんな議論が行われているのは日本の知的レベルが低いからだといいたいところですが、アメリカはもっとレベルが低いです。大統領予備選を見ていると、保守派の主張は、「小さい政府」を別にすれば、「家族の価値」「中絶禁止」「同性婚禁止」と、日本人からすれば議論する価値もないようなことばかりです。
 
 
橋下氏はインタビューにおいて「努力」を強調します。「今の日本人の生活レベルは世界でみたら、五つ星ホテル級のラグジュアリー(贅沢)なものです」と言ったあと、「努力」という言葉を連発します。
 
「東アジア、東南アジアの若者は日本の若者と同じような教育レベル、労働力になってきました。そのような状況で、日本人がラグジュアリーな生活を享受しようとするなら『国民総努力』が必要です。競争で勝たないと無理です」
 
「付加価値の創出は、努力がすべてだと僕は思っています」
 
「何歳で努力から解放されるかは制度設計次第で、役人にはじいてもらわないと具体的には言えません。常識的には60歳あたりでしょう」
 
「では、日本の生活のレベルを落としますか? 東南アジアレベルにしますか? 今の日本を維持しようと思えば、そりゃ努力をしないといけないですよ」
 
普通は政策論議をするときに「努力」という言葉も概念も持ち込みません。ですから、橋下氏のように「努力」という言葉を持ち出す人が出てくると、新聞記者や学者はとまどってなにも言えなくなります。
かといって、「努力」を否定することもできません。自分たちも日ごろから若い人たちに「努力」のたいせつさを説いているからです。
 
それにしても朝日新聞の記者なら、「国民総努力」と言われたときには、「なるほど、『進め一億火の玉だ』の精神ですね」ぐらい皮肉を言ってほしいものです(言ったとしても、記事に載ることではないですが)
 
しかし、橋下氏が言っているのはなにも特別なことではありません。ネットの掲示板やテレビの討論番組などでは当たり前に言われていることです。日本の学者や知識人はそうした議論を放置してきました。というか、批判することができなかったのでしょう。ですから、橋下氏がそうした議論を政策として次々に現実化していくと、あたふたするしかなくなってしまうのです。
 
ネットの掲示板やテレビの討論番組などで当たり前に言われていることというのは、ひと言でいえば「道徳」です。橋下氏もただ「道徳」を語っているにすぎません。
冷戦が終結し、マルクス主義が廃棄処分されてから、大きな思想というのはなくなってしまいました。そういう状況で議論をしていると、より道徳的な主張のほうが優位になっていきます。たとえば、犯罪者は厳罰に処するべきだ、凶悪犯は死刑にするべきだ、怠け者に福祉はいらない、それは自己責任だ、などの結論へと導かれるのです。
 
私はこれを「道徳の暴走」といい、また「道徳原理主義」ともいっています。
橋下氏の思想は「道徳原理主義」そのものです。それに競争の要素を強調すると「新自由主義」になり、それに生物学的根拠を持ち出すと「社会ダーウィン主義」になります。
 
マルクス主義なきあと、学者、知識人の思想的怠慢がこうした状況を招いてしまったのです(「怠慢」というのも道徳的な言葉です。道徳的な言葉は人を非難するときに便利です)
 
ですから、この状況を変えるには道徳そのものを批判する思想が必要です。このブログを読んで勉強してください。
とりあえず今は、橋下氏へどう突っ込むかを書いておきましょう。
 
「努力すれば競争に勝てるのですか。負けたときはどうしますか」
「努力すれば誰でもイチロー選手のようにヒットを打つことができるのですか」
「東南アジアの若者に負けないためという理由で努力する気になりますか」
 
橋下氏は「いったんは格差が生じるかもしれません。でも、所得の再配分もしっかりやります」とも言っています。
これには「所得の再配分がしっかり行われるなら、それを見越して努力しない人間が出てくるんじゃないですか」と突っ込んであげましょう。どう考えても「所得の再配分がしっかり行われる社会」と「競争社会」は矛盾しています。
 
ところで、アメリカの保守派が主張する「家族の価値」「中絶禁止」「同性婚禁止」もアメリカ式道徳です。道徳原理主義は世界をおおっています。