連日なにかしらの発言をして世の中を騒がせている橋下徹大阪市長がまたまた妙な発言をしました。といっても、これを妙と思う人はほとんどいないかもしれません。むしろ“日本の常識”とされています。
しかし、「日本の常識は世界の非常識」という言葉もあります。これはその典型ではないでしょうか。
 
 
橋下市長、入れ墨職員「クビ無理なら消させよ」
大阪市の橋下徹市長が、市職員の入れ墨を禁止するルール作りを関係部局に指示した。
市の児童福祉施設の男性職員が子どもたちに入れ墨を見せ、2か月の停職処分を受けたが、市側の指導で長袖シャツで隠したまま職務を続けていることを問題視し、「入れ墨だけでクビにできないのなら、消させるルールを」と服務規律を厳格化する方針だ。
市の職員倫理規則に入れ墨の規定はないが、橋下市長は関係部局への指示の中で、「入れ墨をしたまま正規職員にとどまれる業界って、公務員以外にあるのか」としている。
 2012321529  読売新聞)
 
 
いうまでもなく、刺青を迫害・差別しているのは日本だけです。世界のどこの国でも、刺青はオシャレのひとつです――と書いたものの、念のために調べてみると、イスラム法では禁止されているようです。
ということで、「イスラム国は別にすれば、刺青を迫害・差別しているのは日本だけです」と言い換えます。
 
日本でも刺青はずっと認められた文化でした。刺青が迫害されるようになったのはごく最近のことです。
要するに、ヤクザは刺青をしている、ヤクザは刺青を見せることで相手を威嚇する、だから刺青は悪だ、という論理なのでしょう。
これは、どこかの犯罪者がナイフを使って人を威嚇したからナイフは悪い、という論理とほとんど同じです。
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ではなく、「ヤクザ憎けりゃ刺青まで憎い」というわけです。
 
ちなみに刺青の人を排除してもいいという法的根拠はありません。
鳥取県警本部の暴力団排除条例に関するサイトから引用しておきまます。
 
「意見の要旨と意見に対する警察本部の考え方について」
(意見の要旨)「公衆浴場等に入浴する刺青のある人を、条例で排除できないか」
(警察本部の考え方)「公衆浴場等への立ち入りを一律に禁止することは、人権上の問題もあることから、本条例には規定しておりません。
なお、今後とも公衆浴場等の暴力団の利用につきましては、施設の管理者等に対して、暴力団の排除を働きかけてまいります」
 
ここも妙な論理になっています。刺青の人を規制することは人権上の問題があるといいながら、公衆浴場等の管理者に対しては暴力団の排除を働きかけていくというのです。公衆浴場等の管理者にとっては人権上問題のある行為を強要されるわけで、まさに警察による“迷惑行為”です。
 
サウナなどにはたいてい「刺青の人の入場お断り」みたいな表示がありますが、これはやはり警察の指導によるものなのですね。しかし、入場を断る根拠がまったくありませんから、刺青の客から「なぜ入っていけないんだ」と抗議されたら、サウナの人も対応に苦慮することになってしまいます。
 
 
ということで、刺青の人を排除するのは差別にほかならないわけですが、こうした問題についてマスコミは警察に追随するしか能がありませんから、世の中全体がこれが差別であることに気づいていません。ですから、橋下市長が刺青についておかしな発言をしても、ほとんど人がおかしいと気づかないわけです。
 
ところで、児童福祉施設の男性職員は腕の刺青を見せて子どもを脅したそうで、それはよいことではありません。しかし、それは子ども脅す行為がよくないので、刺青が悪いわけではありません。刺青を消させたところで、その男性職員がたとえば拳骨を見せることで子どもを脅し続ければなんの意味もありません。
 
橋下市長は体罰肯定論者で、「口で言ってわからない年齢の子には痛みをもって反省させることが重要」と言ったことがあるそうです。男性職員の刺青を見せるという行為は、橋下市長の主張する物理的暴力よりはよほど洗練されたやり方です。むしろ橋下市長はこの男性職員のやり方に学ぶべきでしょう。