試写会で映画「アーティスト」を観ました。第85回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞など5部門を受賞した話題作です。4月7日から全国公開。
 
監督・脚本 ミシェル・アザナヴィシウス
出演 ジャン・デュジャルダン
   ベレニス・ベジョ
 
フランス映画がアカデミー賞を取るというのも珍しいのですが、この映画はなにしろ白黒映画でかつサイレント映画です。今どきそんな映画があっていいのかと思いますし、正直、観るのをためらう気持ちもありました。相当の忍耐力と想像力が必要になるのではないかと思ったからです。
しかし、実際に観ると、そんなことはありません。最初のうちこそ、多少のとまどいはあります。ときどき字幕が入るとはいえ、セリフを頭の中で補って観ていかなければならないからです。しかし、物語の設定が頭に入ってしまうと、ストーリーそのものは単純ですから、セリフがなくても気になりません。
ちなみにサイレント映画とはいえ、BGMはずっと流れています。また、少しですが音声の入る部分もあります(ここはあまり説明するわけにもいきません)
 
主人公のジョージ・ヴァレンティンはサイレント映画のスター男優です。しかし、そこにトーキーの時代がやってきます。主人公は時代の変化についていけません。トーキーなんか子どもだましだ、サイレント映画こそ芸術だといって(「アーティスト」という題名はここからきています)、自分でサイレント映画を製作します。もちろんその映画は大コケします。そこに世界恐慌の引き金となる「暗黒の木曜日」の株価大暴落があり、主人公はおちぶれていきます。
一方、新進女優のペピー・ミラーはトーキーの時代に乗って人気女優になっていきます。
この2人の人物が対照的に描かれ、そこに2人のラブロマンスもからんでくるというストーリーです。
 
私は、時代の変化についていけない主人公に共感してしまいました。私もこの年になると、時代の変化についていけないと感じることが多々あるからです。
時代の変化についていけない人間はどうしても男に多いような気がします。女は男よりも柔軟にできていると思います。
ヴァレンティンはペピー・ミラーに「サイレント映画の俳優は演技が大げさだからだめだ」ということを言われてしまいます。しかし、長年そのやり方でやってきた人間はなかなか変われないわけです。その悲哀がうまく描かれています。
 
若い人はあまりその部分には共感しないかもしれません。そういう人は2人のラブロマンスの映画と思って楽しむのでしょう。
 
この映画は、サイレント時代の俳優を描いた映画ですが、この映画そのものが当時のサイレント映画のようにつくられています。ですから、メタフィクションとでもいうのか、一種の二重構造になっています。
たとえば、映画に出てくる犬というのは実に巧みな演技をします。もちろんそれは、いちばんいい演技をしたシーンをつなぎ合わせて映画をつくるからです。
この映画にも犬が出てくるのですが、この犬がまさに「映画の中の犬」のように巧みな演技をするので笑ってしまいます。
 
ミシェル・アザナヴィシウス監督はスパイもののパロディ映画を撮ったことのある人で、この映画もサイレント映画のパロディということなのでしょう。
 
アカデミー作品賞を最後までこの映画と争ったとされるのが「ヒューゴの不思議な発明」です。「ヒューゴの不思議な発明」もサイレント映画の時代を描いた映画で、不思議な暗合です。
サイレント映画には世界恐慌以前の“古きよき時代”が描かれているので、リーマンショックや欧州債務危機に翻弄されている私たちは引きつけられるのかもしれません。