北朝鮮のいわゆるミサイル発射騒動がいまだに尾を引いて、政府発表が遅れたのは政府の対応がまずかったからではないかといった議論が続いています。
私は北朝鮮のミサイル問題には最初からほとんど興味がなかったので、現在行われている議論にも興味が持てません。なぜ興味がないかというと、もちろんたいした問題ではないと思うからです。
 
国民が飢えているのにミサイルの開発をする北朝鮮はまったく愚かですが、日本にとってのとりあえずの問題は、ミサイルが弾道をそれて日本に落下して被害が生じるのではないかということでした。
もちろんこのいわゆるミサイルには、人工衛星が積まれているはずです。核弾頭や通常弾頭や生物化学兵器が搭載されているかもしれないと主張する人はいませんでした。
一応打ち上げは海上コースです。方向がそれる可能性はありますが、人がいるところに落ちる可能性は相当低いでしょう。2009年にやはりテポドン発射騒動というのがあり、日本は東京に迎撃ミサイルを配備したりしましたが、このときは日本上空を通るコースでしたから、事情が違います。
2011年にドイツの人工衛星が落下するというので少し騒ぎになったことがありましたが、それに近いでしょう(今回のミサイルのほうが大きいですし、燃料を積んでいるという違いはありますが)。つまり、沖縄の誰かの頭上に落ちてくる可能性はあっても、その確率は圧倒的に低いので、誰も対応なんかしていられないというのが実際でした。
 
ところが、日本政府は沖縄一帯と首都圏にPAC-3を配備し、イージス艦3隻を出動させました。万全を期すということでしょうが、弾道をそれたミサイルを撃ち落とせる可能性は低いですし、撃ち落としても破片が落ちてくると被害がかえって大きくなる可能性もあります。
日本の大騒ぎは韓国からも奇異の目で見られるほどでした。
 
マスコミは大げさな迎撃体制を批判しろと言いたいところですが、私がこうして書いているのも、なんの被害もないことがわかってからです。「こんな大げさな迎撃体制は税金のむだ使いだ。責任者出てこい」などと勢いよく批判して、万一、落下してきたミサイルで人が死んだりすると、逆にこちらが批判されることになるかもしれないと思って、今まで書かなかったわけです。ですから、マスコミが批判しにくい事情もわかります。
 
そこで、代わって右翼、保守派、タカ派を批判したいと思います。彼らの対応がこの大騒ぎを生みだしたからです。
 
戦争嫌いの人、軍事的知識のない人がミサイルが落ちてくるかもしれないと思って大騒ぎするのはある意味しかたがありません。しかし、日本では多少は軍事的知識のあるはずの右翼やタカ派が大騒ぎしているのです。むしろ一般国民のほうが冷静でした。
 
もちろんミサイルが落下して被害が生じる可能性はあります。しかし、そんなささいなことは気にするなと国民をなだめるのがタカ派の果たすべき役割です。
なぜなら、この程度のことで大騒ぎしていては、実際の戦争になって何百発のミサイルが日本の都市を狙っているということになれば、大パニックになって戦争などおぼつかないからです。
「皮を切らせて肉を切る。肉を切らせて骨を断つ」というのが戦いの要諦です。自分は無傷でいようとすると、戦いはできません。
 
もっとも、日本人は昔から同じ間違いを犯してきました。
真珠湾攻撃後、日本軍が優勢に展開しているさ中の1942418日、ドゥリットル中佐率いる爆撃隊が東京、名古屋、神戸など日本の主要都市を爆撃しました。その被害は大したものではありませんでしたが、日本人はパニックを起こし、2度と爆撃されないためにとミッドウェー作戦を行い、さらにソロモン諸島の戦いに航空兵力を注ぎ込み、敗勢に陥ってしまったのです。
 
日本は日清、日露から支那事変にいたるまで、本土を攻撃されたことがありません。そのこともあってパニックになってしまったのです。
いや、国民はそれほどのことはありませんでしたが、軍の上層部は2度と爆撃されることがあってはいけないと考えたのです。そのためにのちに絶対国防圏なるものも策定しています。
しかし、ほんとうに戦争に勝とうと思えば、むしろ敵を深く引き込んで、有利な態勢で戦わなければならないはずです。
当時、ソ連にしても中国にしても、国土の主要部分を占領されても戦い続け、結局勝利しています。
 
日本の右翼は、あの戦争を正当化することにやけに熱心で、そのためかほとんど戦争の反省をしてきませんでした。そのツケがこんなところに出てきています。
 
「日本を狙っているわけでもないミサイルなんかでガタガタ騒ぐな」という右翼を見てみたいものです。