石原慎太郎都知事は尖閣諸島を東京都が購入する計画があると発言しましたが、これはもちろん外交問題ではなく国内問題です。日本人の個人が所有している島を東京都が買う買わない、あるいは日本政府が買う買わないということですから。石原知事も「これで政府にほえづらかかせてやろう」と言っています。
ですから、中国政府は報道官が簡単なコメントを発表しただけですし、中国のマスコミも抑制的な報道のようです。
日経ビジネスオンラインにおけるジャーナリスト福島香織氏の記事から引用しておきます。
 
18日の外交部会見での報道官による公式発表は次の通りだ。
 「釣魚島および付属の島嶼は古来、中国固有の領土であり、中国の主権に議論の余地はない。日本側のいかなる一方的な挙動も、違法であり無効であり、これら島嶼が中国領土であるという事実は変えようがない。日本の一人の政治屋の無責任な言動は、中国の主権を侵害するだけでなく、中日関係の大局を損なう」
 
 フェニックステレビでは、東京在住の中国人学者、朱建栄・東洋学園大学教授が次のようにコメントしていた。
 「彼(石原)はなぜ米国でこの発表をしたのか。思うに、中国の台頭に対する米国の不安を利用し、米国を東海(東シナ海)問題に引き込んで中国をけん制する狙いだろう。…しかし、このような大きな買い物は、必ず都議会の審議を通過せねばならず、実際のところ、一方通行の思いで、米国はこの火中に飛び込むことはないだろう。…日本のいくつかの大新聞は、釣魚島の問題は国家的な問題であり、地方自治体の首脳がどうこういうべきではない、と言っている。日本のテレビコメンテーターたちも彼個人の国内的目的だと言っている。今年夏には消費税をめぐって国会は解散するかもしれない。こういう形で中国を刺激し、民主主義を利用し、日本主義を掲げ、民主党政権を攻撃している。しかし、彼のこういったやり方は、率直に言って、日本外交に不利益をもたらし、この点、多くの日本人が憂慮している…」
 
ところが、石原知事の発言をもって日本が中国に対して力強さを示したというふうに理解して喜んでいる人がけっこういます。なにかの勘違いでしょう。
尖閣諸島で中国漁船が日本の巡視艇に衝突した事件のときも、日本人は中国政府に抗議するよりも、ビデオを公開しない民主党政権批判に熱心でした。民主党政権を批判することがなにか外交的なことをしていると勘違いしていたのかもしれません。
日本人は外交問題についてもすっかり内向きです。
 
戦後の日本はずっと外交が苦手で、アメリカ追随でない独自の外交をしたのはわずかしかありません。
 
数少ない独自外交のひとつをしたのは田中角栄内閣です。田中内閣は日中国交回復を実現し、さらにオイルショック時にはエネルギー確保のために独自の資源外交を展開しました。これがアメリカの怒りを買い、田中角栄失脚につながったという説があります。
たまたま同じ日経ビジネスオンラインにそのことを書いた記事があったので張っておきます。
 
そんな米国主導の体制に田中は限界を感じ、自主外交で資源獲得に乗り出す。
 「川上から攻めろ」が角栄の口癖だった。選挙は企業や団体といった川下の組織に頼るのではなく、有権者一人ひとりという川上を狙え、と弟子の小沢一郎らに説いた。エネルギー資源の確保においても、世界の川上に照準を絞った。
  そこには、多国籍化した欧米の石油メジャーやユダヤ系の国際資源資本がどっしりと構えていた。かれらは帝国主義の時代から数百年に及ぶ植民地経営を通して、資源の探査と獲得、流通をコントロールするノウハウを蓄積している。
  欧米の富の源泉を握る者たちに、田中は各国政府首脳との膝詰談判を通じてアプローチしようとした。石油については、戦後賠償の利権が絡むインドネシア、北海油田を抱える英国、シベリアのチュメニ油田開発を望むソ連などに直接、掛け合った。田中の行動は、従来の秩序を重んじる米国をいたく刺激した。
 
 
田中角栄の弟子である小沢一郎氏は、「米軍のプレゼンスは第七艦隊だけで十分」との発言でわかるように、アメリカ依存がまったくない政治家です。中国は小沢氏が訪中したとき、きわめて厚遇しました。そのためかどうか、ずっと失脚の危機にありました。
 
鈴木宗男氏は議員時代、独自の対ソ外交を行い、北方領土の二島返還を実現直前のところまでもっていきました。当時、二島返還論は批判されましたが、対ソ外交がまったく停滞して北方領土返還がはるか遠のいてしまった現在、鈴木氏の外交を見直す人も多いでしょう。鈴木氏はすでに失脚しました。
 
鳩山由紀夫氏は普天間基地問題で、県外国外移設を追求し、最近ではイラン訪問で話題になるなど、独自の外交ができる人です。そのためにさんざん批判され、また力不足でもありましたが、目指した方向が正しかったことは明らかです。アメリカが軍事費を大幅に削減し、沖縄の部隊をグアムに移動させるというとき、辺野古に新しい滑走路を建設するという日米合意が正しいわけがありません。
 
政治家ではなく外務官僚ですが、田中均氏は小泉純一郎首相と金正日との日朝首脳会談をお膳立てした人です。この首脳会談は日本の独自外交として輝かしいものでしたが、田中氏は拉致問題を軽視したということで一部マスコミから大バッシングを受けました。官僚がマスコミからこれほどバッシングされたことはほかにないでしょう。
 
以上、名前を挙げた人は、いずれも独自の外交を行った人ですが、1人の例外もなくマスコミのバッシングを受けています。
しかし、こうした人がいなければ、日本の外交はまったく空虚なものになっていたでしょう。
 
ちなみに石原知事は、国内で発言しているだけで、外交をしているわけではありません。
 
日本の外務・防衛の官僚は、アメリカに追随することが省益と思っていますし、マスコミは官僚と一体となっています。マスコミだけ見ていると、どんな外交が正しいのかまったくわからなくなってしまいます。