名前がついて初めて実態が見えてくるということがあります。たとえば「ストーカー」がそうです。「ストーカー」という言葉がないときは、男につきまとわれて困っている女性はなかなか周りに理解してもらえませんでした。
最近のヒットは「ブラック企業(会社)」でしょう。この言葉ができてやっと、人を使い捨てにするひどい企業がいっぱいあるという現実が見えてきました。
「ブラック企業」という言葉がないときは、若い人が会社を辞めたいというと、たいてい「近ごろの若い者は辛抱が足りない」と説教されたものです。
 
ブラック企業の定義については「はてなキーワード」から引用しておきます。
 
従業員に対して、劣悪な環境での労働を強いる企業のこと。広義には入社を勧められない企業のこと。
1.労働法やその他の法令に抵触、またはその可能性があるグレーゾーンな条件での労働を、意図的・恣意的に従業員に強いる
2.関係諸法に抵触する可能性がある営業行為や従業員の健康面を無視した極端な長時間労働(サービス残業)・労災隠しを従業員に強いる
3.パワーハラスメントという暴力的強制を常套手段としながら本来の業務とは無関係な部分で非合理的負担を与える労働を従業員に強いる
コーポレートガバナンス(企業統治)の欠如やコンプライアンス(法令遵守)の軽視などが要因。従業員や元従業員とのトラブルだけでなく、近隣住民とのトラブルを抱えた企業が多い。
 
就職活動をしている人は、ブラック企業に引っかからないようにしなければなりません。とりわけ新卒で引っかかってしまっては悲劇です。
そこで、ブラック企業を外部から見分けることが重要になってきます。見分け方にはいろいろあるでしょうが、結局のところ決め手は離職率です。
上場企業については「四季報」で離職率がわかりますし、ある程度の大企業なら離職率について報道されたり噂があったりするでしょうが、小さい企業の場合はそうはいきません。そのため、たとえば求人広告を年中打っているなどで判断するしかないというのが現状です。
 
厚生労働省は雇用・離職について調査しており、事業所ごとの離職者の数も把握しているはずですから、これを公表してくれるといちばんいいわけです。しかし、厚生労働省はブラック企業に引っかかる若者よりもブラック企業を守りたいのか、公表しません。
厚生労働省に限らず、日本は企業に甘い風土なのかもしれません。
 
「教えて!goo」に「離職率の低い会社、業界の調べ方を教えてください」という質問がありました。「No.1」の回答は、「その会社の従業員数を、新規の募集人数で割ってみれば、それに近い値が求められる」というものです。「No.2」の回答は、企業の現役人事担当者からで、離職率を気にするのは意味がないと主張するものですが、この企業がかなりブラックなようで、上から目線の物言いには笑わせられます。とくに、甲子園の優勝常連校は、たくさん部員が入り、そのほとんどがやめていくが、それでとんでもない野球部だといえるか、というところは妙な説得力があります。
 
確かに離職率というのは業種によって違い、職種によっても違いますし、都会と地方によっても違います(都会は転職先が多いので離職率が高い)。ですから、単純に比較すると間違ってしまいます。また、ワーストランキングなどを発表すると、その企業は文句を言ってくるでしょう。
 
というような理由で厚生労働省は各企業の離職率を発表しないのだろうと思っていたら、たまたま読んでいた本で、介護業界ではすべての事業所の年間の離職者数が公表されていることがわかりました。従業員数も公表されていますから、簡単に離職率が計算できます。
つまり介護業界では各事業所の離職率が公表されているわけです。介護業界でできるならほかの業界でもできるはずです。
 
介護業界ですべての事業所の離職者数が公表されているということは、案外知られていないのではないでしょうか。
これは厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」といって、都道府県ごとにサイトがつくられています。しかし、これはあらゆる情報が網羅的に公表されていて、しかも役所用語と役所の都合による分類になっていて、利用者の利便を考えていないということで悪名高いサイトです。
たとえば東京都世田谷区だけで1400余りの事業所が載っていますし、サービスの種類は訪問介護、介護予防訪問介護、夜間対応型訪問介護、訪問看護、介護予防訪問看護……などと50種に分類されているので、なにをどうやって調べたらいいかわかりません。
 
とにかく離職率がわかるということを証明するために、有料老人ホーム業界で比較的大手の「株式会社ベストライフ」を東京都で検索し、いちばん上に表示されたところの事業所のサイトを紹介します。これはあくまで一例ということで、この事業所を選んだことにとくに意味はありません。
 
「ベストライフ南東京」
(直接表示ができないので、トップページから「ベストライフ」をキーワードに検索してください)
 
わけのわからないことがずらずらと羅列されていますが、「3.事業所において介護サービスに従事する従業者に関する事項」のいちばん上のところに常勤と非常勤の従業員数が書かれていますので、合計すれば従業員数がわかります。そして、その少し下のほうの「従業者の当該報告に係る介護サービスの業務に従事した経験年数等」の「前年度1年間の退職者数」に年間の離職者数が書かれています(平成22年度は計7名ということになります)
 
これまで厚生労働省が各企業の離職率を公表しなかったのは、企業にもプライバシーがあるとか(もちろんありません)、公表されると誤解を招くとか、事業活動がしにくくなるとか、そんなことが理由にされていたのでしょうが、介護業界で公表されているとなると、ほかの業界で公表しない理由はないことになります。「アリの一穴」という言葉がありますが、介護業界での公表は「アリの一穴」になるはずです(とりあえず介護業界に就職したい人は役立ててください)
 
世の中は、上の立場ほど有利で、下の立場ほど不利にできています。企業と労働者を比較すれば、企業が上で、労働者が下ということになります。その中でブラック企業がのさばってきたのです。
 
金融業界では返済滞納者の情報をブラックリストとして共有していますし、不動産業界でも家賃滞納者のブラックリストをつくろうという動きがあります。個人はこのようにブラックリストにされてしまいますが、企業はブラックであってもブラックリストにされないわけです。
ブラック企業リストこそ世の中に必要なものです。