大津市の中2男子生徒自殺事件についての騒ぎがますます拡大していますが、よくもまあ的外れの議論ばっかりできるものだと感心してしまいます。
誰もが肝心のことに触れようとしないのです。
これは「現代のタブー」ないしは「人類最後のタブー」というべきものでしょうか。
 
「週刊新潮」は「『いじめ自殺』加害生徒たちの家庭環境」というタイトルの記事で「母がPTA会長」「父が京大医学部卒」といったことを書いています。さすがに「週刊新潮」は読者のニーズに応えています。しかし、コンビニで立ち読みしてみましたが、私が知りたい肝心のことは1行も書いてありませんでした。
 
そもそもは中2男子生徒が自殺し、イジメが原因であるとして親がイジメたとされる同級生3人と保護者、市を相手に損害賠償を求めて提訴したことが始まりです。市側は最初、イジメはなかったとしていましたが、のちにイジメは認めたもののイジメと自殺の因果関係を否定して、争う姿勢を見せました。これに対して、イジメ隠蔽であるとして市側を批判する声が高くなり、越直美市長は「イジメがあったから亡くなったと思っている」と因果関係を認め、「和解したい」と述べました。しかし、教育長の考えは違うようで、混乱しています。
 
自殺との因果関係判断できぬ 大津市教育長主張変えず
 
 大津市で昨年10月、中学2年の男子生徒=当時(13)=が飛び降り自殺し、いじめとの関連が指摘されている問題で、越直美市長が因果関係はあるとして訴訟での和解の意向を示したことに対し、澤村憲次教育長は11日、「いじめと自殺との因果関係は判断できない」と述べ、従来の市教委の主張が変わっていないことを強調した。市と市教委の認識のずれが、あらためて浮き彫りになった。
 
■市長との認識のずれ浮き彫りに
 
 越市長の意向について、澤村教育長は「(和解の意向は)直接聞いていない」とし、「市長がそう判断したと受け止めるしかない」と繰り返した。因果関係が判断できない理由は「他にもいろんな要素が考えられる」としたが、具体的な内容は明かさなかった。
 (後略)
20120711 1600分】
 
市長と教育長の考えが食い違っているのはもちろんいけませんが、越市長の考えにはおかしなところがあります。イジメと自殺の因果関係を認めたのはいいのですが、因果関係というのは「ある・なし」みたいにデジタルなものではないのに、まるで100%認めてしまっているようだからです。
イジメと自殺の因果関係というのは、「全面的にある」と「全面的にない」を両極端として、実際には「少しある」「中程度にある」「かなりある」のようにグラデーションとして分布する中のどこかになります。これは当たり前のことですが、どのマスコミもわざとか無意識にか、このことをごまかしています。
そういう意味では、「他にもいろんな要素が考えられる」と語った澤村憲次教育長のほうが、この点については正しい認識を持っていることになります。「具体的な内容は明かさなかった」というところも意味深です。
 
当然のことですが、人間はつねに総合的に判断して行動しています。昼飯になにを食べるかということにしても、総合的に判断して決めます。自殺するときも同じです。あらゆることを考えた末、まったく希望がないと判断したときに自殺するのです。
 
この事件の場合は、中2男子生徒です。この年齢の子どもは、家庭と学校が生活の場のすべてといっても過言ではありません。家庭と学校では、睡眠時間を含めると家庭ですごす時間のほうが圧倒的に多いはずですし、家族関係の重要さもいうまでもありません。
ですから、この年齢の子どもが自殺したら、家庭環境と学校環境の両面から自殺の原因を探らなければなりません。
常識的にいって、家庭環境に問題がなければ、学校環境に問題があっても、自殺することはないと思います。というか、まともな親なら子どもの様子を見て対処しますから、自殺にまでいたらせるということはありえないと思います。
 
自殺にまでいたったということは、家庭環境もまともでなかったと推測できます。つまり、校内イジメと家庭内イジメの両方に自殺の原因があったという可能性があるのです。
 
交通事故では「過失相殺」という考え方があります。子どもの自殺の原因を校内イジメに求めた民事訴訟も、この過失相殺という考え方によって判決がくだされる必要があります。たとえば判決文は、「校内でイジメがあったのは事実だが、家族関係の問題も自殺の大きな原因となったと推測できるので、よって損害賠償額は……」というふうになるべきです(ほんとうは親が学校を訴えるというのがおかしいのです。自殺した子どもの“真の代理人”が親と学校の双方を訴えるというのが正しい訴訟のあり方です)
 
では、自殺した男子生徒の家庭環境がどうだったのかということですが、これについては、私の知る限りまったく報道がありません。テレビに祖父が出てきて(顔は見せずに)語っているのを見たぐらいです。近所の人があの親子関係はどうだったとかいう証言をすることもありません。イジメた生徒の家庭環境は「週刊新潮」などが報道しているのですから、自殺した生徒の家庭環境について報道がないのはあまりにも偏った報道です。
最低限、自殺した子どもの親は、自殺の前に子どもの態度になにか異常を感じていたか、学校でのイジメを把握していたかどうかなどを明らかにしなければならないと思います。これは同様の事件を防止するためにもぜひ必要なことです(父親は担任に会ってお金のことを相談したということですが、具体的にどんな相談をしたかも語ってほしいものです)
 
なぜこのように偏った報道になるのかというと、報道する側の多くの人も家庭に子どもがいて、なんらかの問題をかかえているからでしょう。つまり、その問題はあばきたくないのです。
 
子どもが自殺したとき、家庭と学校の両方に問題があるに違いないという当たり前の認識を、とりわけマスコミは持つ必要があります。
 
 
ところで、滋賀県警は11日夜、自殺した生徒が通っていた中学校と大津市教育委員会に家宅捜索に入ったということです。イジメやイジメ隠蔽を刑事事件として立件する可能性があります。
これは当然やるべきことです。しかし、それだけで終わらせず、自殺した生徒の家庭も対象にして、生徒が親から虐待されていたのではないかも捜査するべきです。
 
私は「自殺した子どもの“真の代理人”」という言葉を使いました。これは今のところ神のようなものと思ってもらっていいですが、将来的には公的機関として設立されるものだと思っています。ですから、今の警察も「自殺した子どもの“真の代理人”」として捜査し、真相を明らかにすることはできます。