子どもが自殺したら、親はどんな育て方をしていたのだろうということを誰だって真っ先に考えるはずです。ところが、そのいちばん肝心なところがすっぽりと抜け落ちたまま議論がどんどん先行しているのですから、まったく異常事態というしかありません。
自殺した子どもの家庭環境をなぜ報道しないのかと前回のエントリーで書きましたが、ようやく報道がありました。
 
 
大津自殺少年 祖父母から金盗み「悪い友と交際ない」と手紙
 
 滋賀県大津市で昨年10月、当時中学2年生だったAくん(享年13)は、14階建ての自宅マンションの最上階から飛び降りて、自ら命を絶った。その直後、Aくんの自殺について、学校が全校生徒に実施したアンケートでいじめが発覚した。
 
 しかし、大津市教育委員会は「いじめと自殺との因果関係は判断できない」と主張し、昨年11月に調査を打ち切っていた…。
 
 卓球部に所属していたAくんは、後輩の面倒見もよく、クラスでもムードメーカーだったという。祖母の作った卵焼きが大好物で、祖父母思いの優しい子でもあった。
 
「おばあちゃんは体調が悪くて、ほとんど寝たきりの生活なんですが、Aくんは、“おばあちゃん、つかまりや。男やから、強いんやで”といって、トイレにも連れて行ってあげて。服を脱いだり着たりするのまで手伝ってあげていたそうです」(Aくん一家の知人)
 
 だが、昨年の夏休みが終わったころから、突然、Aくんは仲良しグループの生徒たちからいじめられるようになり、やがて金銭も要求されるようになっていったという。初めは、自分の口座からお金を引き出し、いじめた生徒たちに渡していた。額は12万円以上にも及ぶ。
 
 それを不審に思った父親は、学校の担任教諭に2回にわたって相談した。だが、結局、その理由はわからず、Aくんを問い詰めても、「ゲームに使った」というのみだった。
 
 次第にAくんの口座も底がつき、今度は、祖父母の家からお金を盗んで渡していたという。
 
「お父さんはAくんを頭ごなしに怒ってね。“お金を何に使ったんや?”って。Aくんはただ泣くばかりだったそうですよ」(前出・知人)
 
 盗んだ理由を決して語ろうとはしない息子に対して、父親は祖父母宛てに謝罪の手紙を書かせたという。そこにはこんな文章が書かれていた。
 
<おじいちゃん、おばあちゃん、お金を盗ってごめんなさい。僕は悪い友達とは付き合っていません>
 
「もし、いじめのことを明かしたら、いじめっ子たちに何をされるかわからない、そんな恐怖もあったでしょうが、おじいちゃんおばあちゃんに心配かけたくないという思いから、そんな文面になったんでしょうね。Aくんの思いもですが、それを書かせることになってしまったお父さんの気持ちを考えると切なくて、切なくて…。いまにして思えば、お金がなくなったのは“いじめのサイン”。あの時に気づいて、もっといろいろ動いておけばと、お父さんは後悔してもしきれず、いまも自分を責めているんです」(前出・知人)
 
※女性セブン2012726日号
 
 
だいたい想像の通りです。学校でイジメられていることを父親は理解していなかったのです。逆に、お金を持ち出すのはなにか悪いことに使っているのだろうと決めつけて、子どもを責めていたというわけです。
謝罪文の中に「僕は悪い友達とは付き合っていません」とあるのが一見不可解ですが、想像するに、子どもは父親に「悪い友だちにお金をゆすられてるんだ」と本当のことを話したのに、父親は「人のせいにするな」と言って信じなかったために書かされたものでしょう。
また、『学校側は、9月に父親から男子生徒の金遣いについて2回にわたり相談を受けたが、父親が「息子には言わないでほしい」と話したため、調査しなかった』という報道がありましたが、それも納得がいきます。
それにしても、父親が子どもに隠れて担任と会っているというのは、子どもにとっては不気味なことです(そういうことは察せられるものです)
 
ともかく、子どもにとっては、学校では同級生にイジメられ、家では父親に責められるということで、どこにも救いがなく、それで自殺したのでしょう。
ですから、子どもの自殺には、学校でのイジメと、家庭内での問題と、ふたつの理由があったということになります。
 
これは当たり前の認識ですが、マスコミや世論は圧倒的に学校でのイジメだけを自殺の理由としているようです。これはあまりにも異常なことといわねばなりません。
 
この点に関しては、沢村憲次教育長は一貫してイジメ以外の自殺原因を示唆していて、ゆるぎません。自殺した少年の父親に問題があることを認識しているからでしょう。
 
 
大津いじめ自殺:因果関係断定できぬ、教育長認識変わらず
毎日新聞 20120712日 2234分(最終更新 0713日 0305分)
 
 大津市教委の沢村憲次教育長は12日、報道陣の取材に応じ、男子生徒の自殺原因について「さまざまな要因が考えられる。私どもの認識そのものは変化していない」と語った。この日午前の会見では「いじめが要因の一つ」と発言していたが、改めて真意を問われ、いじめと自殺との因果関係は断定できないとする従来の姿勢を示した。
 
 また自殺した生徒が生前、「泣きながら担任に電話をしてきた」とする在校生アンケートの回答について、「電話内容の詳細はプライバシーの問題があり言えないが、家庭内のことと聞いている」とした。
 
 警察による強制捜査については、「背景には学校内でのいじめもある」としながらも、「亡くなったお子さんが家庭内でどんな環境に置かれていたのか、家庭内で何が起きていたのかということも、背景調査で明らかになるのではないか」と述べ、自殺にはいじめ以外の要因もあるとの見方をにじませた。【千葉紀和】
 
 
もっとも、学校でのイジメも自殺理由のひとつであるはずですから、沢村教育長がその点についてほとんど謝罪する様子がないのも異常です。
 
つまり、自分の問題は棚に上げて学校ばかり追及する父親と、学校でのイジメは棚に上げてもっぱら家庭の問題を自殺理由にする教育長ら学校側と、どちらも異常であり、その異常の中で少年は自殺したのです。