複雑な問題も掘り下げていけば単純になり、まったく別に見えた問題も根っこは同じだったということがよくあります。最近のニュースからそういうものを取り上げてみましょう。
まずはアメリカ下院議員のレイプ発言です。これはアメリカで大統領選に影響を与えるほどの騒ぎになっているそうです。
 
「まっとうなレイプなら妊娠しない」、米共和党議員の発言に非難の嵐
820 AFP11月の上院議員選挙に立候補している米共和党の現職下院議員が、「まっとうなレイプ」の場合には妊娠することはほとんどないと発言し、猛烈な批判が巻き起こっている。
 
 トッド・エイキン(Todd Akin)下院議員(ミズーリ州)は、KTVIテレビのインタビュー番組に出演した際、レイプによる妊娠も含めて中絶に全面的に反対だとの考えを語るにあたって「まっとうなレイプ」に対しては女性の体が生物学的な反応を示すため、暴行された女性が妊娠することはほとんどないと主張した。
 
「まず、私が医師たちから聞いて理解している範囲では、(レイプによる妊娠は)非常にまれだ。まっとうなレイプであれば、女性の体にはそれをまるごと拒絶しようとする。そのための仕組みが幾つもあるのだ」(エイキン氏)
 
 さらに、仮に暴行された女性が妊娠した場合については、「これ(拒絶反応)が正しく機能しなかったか何かしたのだと仮定しよう。そのときには処罰が必要だ。だが、処罰はレイプ犯に科されるべきであって、胎児を攻撃するものであってはならない」とも主張した。
 
 この発言を受け、共和党大統領候補のミット・ロムニー(Mitt Romney)氏と副大統領候補のポール・ライアン(Paul Ryan)氏の選挙陣営は直ちに声明を発表。「ロムニー、ライアンの両氏は、エイキン氏の見解に同意しない。両氏による政権はレイプ被害者の中絶には反対しない」と表明し、エイキン氏と距離を置いた。
 
 エイキン氏はその後、「失言だった」と述べたが、中絶反対の立場には変わりないと語っている。(c)AFP
 
どうやらアメリカには、女性が真に拒絶すれば、レイプされても妊娠しないという俗説があるようです。これは逆にいうと、女性がレイプされて妊娠した場合は、実は拒絶していない、つまり性的快感を覚えていたということになります。レイプされて妊娠するケースはかなりありますから、大抵の女性はレイプされて喜んでいるということなのでしょう(エイキン議員は「処罰が必要」という言葉をおかしな文脈で使っています。議員の本音は、レイプされて感じる女性のほうを処罰したいのかもしれません)
もちろんこれは男の勝手な妄想ですから、非難されて当然です。
 
しかし、日本にも同じような考えはあります。女性はみんなレイプ願望を持っているとか、レイプされて最初は拒んでいても、そのうち感じてしまうとかです。AVなどでは、「レイプされて感じてしまう女性」はむしろ定番です。
 
こうした妄想が広がってしまうのは、女性の立場が弱くて、女性の声が社会的な広がりを持たないからです。レイプされた女性が警察に訴え出ると、警察司法はほとんど男の世界ですから、逆に訴え出た女性のほうが傷ついてしまうということがあります(セカンド・レイプ)
私が若いころは、ハンカチ一枚を女性の尻に敷けば裁判ではレイプにならないという俗説がありました。これなども実際にそういう判例があったのかもしれません(ハンカチ一枚だけですべて無罪になるはずはないですが)。日本ではレイプは親告罪ですから、レイプしても罪に問われないことが多く、それも「女性はレイプを望んでいる」といった妄想を拡大させたものと思われます。
 
これはストーカー被害にあっている女性がストーカーに対してきっぱりと拒絶しないためにストーカーの妄想が拡大してしまうのに似ています。もちろん女性がきっぱりと拒絶しないのは、それをするとストーカーが逆上してしまうのではないかと恐れるからです。
 
 
弱者がほんとうのことを言えないために、強者が勝手な思い込みをするというのは、大津市イジメ事件を初めとする多くのイジメ事件でも共通しています。
イジメの被害者はほとんどの場合、イジメられていることを周りに訴えません。訴えても教師も親も同級生も助けてくれないと思うからでしょうし、訴えるとさらにひどいイジメにあうことを恐れるからでしょう。
この背景には、イジメ加害者が強者で、イジメ被害者は弱者であるという関係があり、さらには親や教師が強者で、子どもは弱者であるという関係があります。この関係が見えない人間にはイジメそのものが見えないことになってしまいます。たとえば大津市イジメ事件では、担任が2度にわたって同級生からイジメがあるとの報告を受け、イジメられている生徒に直接聞いたら、イジメではない、遊んでいただけと言われ、もちろんイジメ加害者がイジメを認めるわけもなく、そのため担任はイジメではないと判断したわけです。
 
大津市イジメ事件はようやく表面化しましたが、今も教師が強者として支配する学校ではイジメと認知されないイジメが多数あることでしょう。
 
(長文のために、「レイプ・イジメ・慰安婦(後編)」に続きます)