冷戦崩壊後、日本の右傾化が進んで、いわゆるオピニオン誌も右翼系のものがほとんどになりました。田原総一朗氏は「朝まで生テレビ」に出る左翼論客が姜尚中さんしかいないと言って嘆いたことがあります。
もちろんそれは日本の左翼の知的怠慢に主な原因があるのですが、優勢になった右翼もこのところ劣化が進んでいます。
私は右翼でも左翼でも中道でもない「上」という政治的立場ですから、右翼と左翼を公平な観点から見ているつもりですが、最近、劣化した右翼が日本をますますだめにしているという思いを強くしています。
 
劣化した右翼のひとつの姿は、「言いっぱなしタカ派」です。タカ派的言説は一般受けするので、ことあるごとにタカ派的言説をまき散らしますが、そのあとのことにはまったく無責任です。
 
現在、悪化した日中関係をどう修復するか(あるいは相手が屈するまで強硬策を貫くか)という問題に直面しているわけですが、このことについてタカ派はまともな意見を言うことができません。
その代表例が石原慎太郎都知事でしょう。もともと尖閣諸島を巡る日中の対立は石原知事が尖閣購入計画を表明したために起きたものですから、ちゃんと責任を取ってほしいものですが、相変わらずの無責任発言を続けています。
 
「追っ払えばいい」領海侵入で石原知事
産経ニュース2012.9.14 16:57  
 尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺で中国の海洋監視船6隻が14日、相次ぎ日本領海を侵犯した問題で、東京都の石原慎太郎知事は同日の定例会見で「人の家にずかずかと土足で踏み込んできた。追っ払えばいい。まさに気がくるっているのではないかと思う」と厳しく批判した。
(後略)
 
石原知事、監視船に「寄らば切るぞと言ったらいい」 デモには「酷い、これはテロ」
産経ニュース2012.9.19 16:23
 東京都の石原慎太郎知事は19日、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺海域を中国の監視船が多数航行、一部は領海侵入もしたことについて「もっと過剰、過激なことになったら『寄らば切るぞ』と言ったらいい」と述べ、牽制(けんせい)すべきだと指摘した。
(後略)
 
 
「追っ払えばいい」といっても、どうやって追っ払うのでしょうか。それが簡単にできないから困っているわけです。また、「『寄らば切るぞ』と言ったらいい」といっても、それでも寄ってきたらどうするのでしょうか。まさに無責任発言のきわみです。
そもそも、日中関係をこれからどうするかという戦略がまったく見えません。尖閣周辺のことしか考えていないようです。
 
とはいえ、石原知事は一貫してタカ派的発言を続けていて、わかりやすいことはわかりやすいです。
 
では、日本維新の会代表で大阪市長の橋下徹氏はどうでしょうか。橋下氏もやはり一般受けするタカ派発言をこれまでしてきました。この事態についての発言によって政権担当能力があるか否かが見えてくるかもしれません。
 
尖閣「警察常駐させるべきだった」 橋下大阪市長
日本の尖閣諸島国有化をめぐる中国の反日デモについて、新党「日本維新の会」代表に就く橋下徹大阪市長は18日、報道陣に対し「(8月に)香港の活動家が上陸した時から日本の警察を常駐させておけばよかった。最大のチャンスを逃し、(政府の対応は)非常に下手だ」と主張。尖閣の実効支配を強めるべきだとの考えを示した。
 
 橋下氏は「中国は(日本の)実効支配を一度認めると、韓国が実効支配する竹島のようになるのをよく見ている」と指摘。「憲法9条によってお気楽な教育を受け、日本人が(領土について)厳しい認識を持たなかったことが非常に悪い方向に来ている」とし、「日本が覚悟を持って(領土を)守っていけるのかを国民に問いたい」とも語った。
朝日新聞デジタル20129182024
 
今、日中關係がもめているときに憲法9条を持ち出すのがいかにも日本の右翼らしいです。9条批判さえすれば格好がつくと思っているのでしょう。
あと、警察を常駐させておけばよかったと言っていますが、自衛隊を常駐させろと言わないところはまともです。ただ、日中間にはトウ小平時代に「尖閣棚上げ論」の合意が成立したとされており、警察を常駐させるというのは合意に違反するということで中国が怒るはずです(今回中国が怒っているのも尖閣の国有化が合意に違反しているからということのようです。また、日本政府が船だまりなどをつくらない方針なのも同じ理由からです)
ただ、この記事はわかりにくいですが、別の記事を読むと橋下氏の言わんとするところがよくわかるので、そちらも引用します。
 
橋下市長、尖閣諸島に「警官、常駐させろ!」
 大阪市の橋下徹市長(43)は18日、大阪市役所で報道陣の取材に応じ、尖閣諸島で香港の活動家が上陸した際の政府の対応について「最大のチャンスを逃した。あのまま警察官を常駐させればいいじゃないか」と苦言を呈した。
 
 8月15日に香港の活動家が上陸した際、島で待機した警察官や海上保安官らが現行犯逮捕した。橋下氏は「(活動家を)わざと上陸させたんだと思った。ホント、情けない。日本の警察が上陸したんですから、なんでそれを持って事実の積み重ねをしないのか」と批判した。
 
 外交安全保障は現状維持が大原則という持論を前置きした上で「現状維持の範囲内でいかに事実を積み重ねていくかが大事。相反することだが最大の腕の見せどころ」と、警察官を常駐させた上で居住のテントやトイレ、船着き場建設など“実効支配”を徐々に強化していく方策を説明した。
 
 一方、今後取るべき対応について説明を求められると、橋下氏は「言ってしまったら、相手に手の内をさらしてしまうことになる。国政政党(日本維新の会)を率いる立場になって、なんでもかんでもしゃべる立場じゃない」と口をつぐんだ。
20129190603  スポーツ報知)
 
つまり「現状維持」と見せかけながらテントやトイレなどを設置して「実効支配」を強化していけというわけで、なるほどこのやり方なら中国も怒るタイミングがむずかしいことになります。ただ、うまくいくとは限りません。巧妙なやり方というよりは姑息なやり方というべきでしょうか。
 
ただ、これはもう終わった話ですから、今言っても意味はありません。
これから日本はどうするべきかについては、本人も「しゃべる立場じゃない」と言っているように、なにも語っていません。
なにも語っていないのに、9条批判や政府批判や実効支配強化のアイデアを言うなどして、それなりのことを語ったかのように思わせるのはさすがです。
 
ともかく、石原知事にしても橋下氏にしても、今後日本政府はどうするべきかについてまともなことは語っていません。
つまり、現実の行動についての策がないので「言いっぱなしタカ派」だというわけです。
 
もっとも、これは日本特有のことかもしれません。アメリカやイスラエルのタカ派が言うことは、現実の行動に直結しています。つまりいつでも戦争をするということを踏まえているのです(ですから、本物のタカ派は勇ましいだけのことは言いません)
 
では、中国はどうかというと、中国はこれまでインドと何度も国境紛争で武力衝突をしていますし、ベトナムとの間でもやっています。領土問題は武力衝突に直結するということがわかっていますし、それだけの覚悟はあるはずです。
また、中国は二次大戦後、戦争経験のない日本と違って朝鮮戦争と中越戦争を経験しています。しかも、そのときの戦い方は人海戦術です。
また、中国は死刑大国で年間数千人の死刑執行が行われているといわれますが、日本での死刑執行数は毎年ヒトケタです。
 
日本が中国と同じ土俵に上るのは愚かなことです。「言いっぱなしタカ派」に乗せられるとそんなことになりかねません。