中国大使を退任した丹羽宇一郎氏が1221日の朝日新聞朝刊のインタビュー記事に出ていました。
丹羽氏は民主党政権による政治任用で2010年に中国大使となりましたが、石原慎太郎都知事が尖閣諸島購入を表明したことに対し、「仮に石原知事が言うようなことをやろうとすれば、日中関係は重大な危機に直面するだろう」と発言し、これに対して自民党が国益を損なうとして更迭を要求し、退任の流れがつくられました。しかし、あとになってみると、丹羽氏の発言はきわめて適切だったことがわかります。
それでも退任の流れは変わりませんでした。大使のポストは外務官僚にとっては金と名誉が伴うおいしいものであって、決して民間人に渡したくないからです。つまりこれも官僚の巻き返しです。
その丹羽氏は朝日新聞のインタビューでこう語りました。
 
「石原さんは、地方政府のトップでした。知事が国益にかかわる発言や行動をしたとき、どうして一国の首相が『君、黙りなさい。これは中央政府の仕事だ』と言えなかったのか。そういう声をたくさん聞きました。ほかの知事たちも東京と同じような行動をとろうとしたら、日本の統治体制はどうなるのか。世界の信を失いかねない深刻な事態です」
 
私はかつてこのブログで、東京都の尖閣購入計画をきっかけに日中関係がこじれてしまったことについて、「中国は中央集権の国だから地方自治についての理解が少なく、政府が東京都に一方的に命令する立場にないということを理解していないのではないか」というふうに書きました。
しかし、考えてみると、領土問題や外交問題は政府の管轄であって、地方自治体が介入してくるというのはあってはいけないことです。丹羽氏が言うように、野田首相が石原知事を叱りつけるべきです。石原知事は「政府に吠え面かかせてやる」とも発言しており、ここまで言われて、言われっぱなしというのは情けない限りです。
 
とはいえ、私も石原知事を批判したものの、石原知事の行動を止めるという発想はありませんでした。丹羽氏に指摘されて初めて気づきました。
 
人間の祖先は集団で狩りをするサルで、集団には序列があります。これはイヌやオオカミに似ています。今の人間もこうした本能的な序列意識を持っていることには違いがありません。
石原知事の尊大な態度に、ついついこちらの序列が下のような意識になってしまっていたようです。
 
そして、民主党政権の「失敗の本質」もそこにあると思います。
 
政治は権力をめぐる戦いです。どちらが序列の上に立つかという戦いでもあります。大臣は事務次官よりも上と決められていますが、そう単純なものではありません。与党対野党、政治家対マスコミなども戦っています。
イヌは上下関係をマウンティングという動作で示します。人間の場合は格闘技のマウントポジションという言葉を使ったほうがわかりやすいと思いますが、政治の世界でもどちらがマウントポジションを取るかという戦いをやっているのです。
 
鳩山由紀夫首相は普天間基地の国外県外移設を打ち出しましたが、外務・防衛官僚やマスコミなどの総反撃を受けました。鳩山首相は友愛の人ですから、まったく戦う姿勢を見せず、一方的に押し切られてしまいました。また、前原誠司国交大臣は八ツ場ダム建設中止を打ち出しましたが、これもまた総反撃を受け、あまり有効な反撃ができませんでした。
 
こうした中、戦う姿勢を見せたのは小沢一郎幹事長だけです。民主党が急遽天皇陛下と習近平国家副主席との会見を設定したことについて、羽毛田信吾宮内庁長官が記者会見して「二度とこういうことがあってはならない」と発言しましたが、小沢幹事長は「辞表を出してから言え」と反撃しました。ここで小沢幹事長が反撃しなかったら、鳩山政権はもっと早く崩壊していたでしょう。
 
とはいえ、民主党政権は官僚・野党・マスコミとの戦いで完全に遅れをとってしまいました。
たとえば、尖閣諸島で中国漁船と巡視船が衝突したとき、そのビデオを公表しないことで大バッシングを受け、そのビデオを流出させた海上保安庁職員が英雄扱いされることまで許してしまいました。
石原知事が尖閣諸島購入計画を発表したのはその流れの中にあります。尖閣問題で民主党政権を批判する者は愛国者のようなポジションになってしまったのです。そのため野田政権は正面から対決できず、横から島を購入するという姑息な手段に出ました。
 
つまり民主党政権は石原知事など反民主党勢力にマウントポジションを取られていたのです。中国からはそうしたことが見えなかったために「茶番」ととらえてしまい、日本への態度を硬化させました。
 
ちなみに反民主党勢力が民主党攻撃のもっとも有効な武器として利用したのが領土問題でした。したがって、自民党政権になれば領土問題は沈静化することでしょう。
 
ともかく、民主党は“負け犬”のイメージになってしまい、それが総選挙で大敗した最大の原因だと思います。
 
橋下徹日本維新の会共同代表などは、政治は戦いであり、国民はその勝ち負けを見ているということをよく理解しており、たとえば組合代表が橋下氏に頭を下げる場面を写真に撮らせるなど、きわめて巧みです。
 
有識者やマスコミは民主党がマニフェストを達成できなかったことを問題にしますが、まったく本質から外れています。子ども手当が十分に出せなかったのは、要するに「ない袖は振れない」ということですから、国民はそんなことは問題にしていないと思います。
 
民主党はもっと戦い方を習得するべきだというのがとりあえずの結論ですが、これはあくまでとりあえずのことです。戦い方がうまくなって得られるのは目先の利益だけで、戦いが激化することによる損失はどんどん拡大していくことになります。
国際政治であれ国内政治であれ、動物的な争いの世界を脱し、たとえば鳩山由紀夫氏のような友愛政治家が活躍できるような世の中にすることが真に目指すべき方向です。