文部科学省は現在行われている公立学校の「週5日制」を廃止し、土曜日も授業をする「週6日制」導入の検討を始めるということです。ようやく「週5日制」が実現できたかと思ったら、また前に戻そうというわけです。
もちろんこれは「ゆとり教育」から「脱ゆとり教育」へ転換したことに関連しているわけですが、いったいそれはどういう理念に基づいているのでしょうか。「週5日制」から「週6日制」への移行が正しいことなら、次は「週6日制」から「週7日制」へ移行することになるかもしれません。
 
「脱ゆとり」というのはつまり「学力重視」ということですが、今の日本の若者を見たとき、学力の問題がそれほど重要でしょうか。
私の考えでは、今の若者にいちばん足りないのは人間関係能力、対人能力です。草食系男子というのも、要は女性とつきあう能力が欠けているわけです。非婚化・晩婚化も、経済問題ももちろん関わってきますが、根底には対人能力不足があると思います。オタクというのも、二人称に「お宅」という言葉を使う若者が奇異に見えたことからつけられた名称です。引きこもりは究極の対人能力不足です。
 
なぜ対人能力不足になるかというと、勉強や習い事に時間を取られて、子ども同士で遊ぶ時間が少なくなっているからです。授業時間をふやせば、ますます遊ぶ時間がなくなります。
 
とはいえ、保護者の多数は「週6日制」に賛成のようです。
 
東京都小学校PTA協議会が10年に実施した調査では、土曜授業について保護者の86%と教員の38%が「必要」、保護者の7%と教員の52%が「反対」だった。下村博文文科相は「徹底して土曜授業を導入したい。国民的な理解を得るなど省内で課題をクリアしたい」と話している。
 
保護者の考えが必ずしも子どものためを思ってのものとは限りません。今の親の多くは、競馬の馬主のように、子どもを人生レースに出走させて好成績を挙げたいと思っています。この場合の「好成績」というのは、どうしても一流学校とか一流企業といった世間の基準によるものになってしまい、子ども本人の希望は無視されます。
 
今の世の中、親でさえも子どもに対して利己的にふるまうケースが多くなっています。
親でない場合はなおさらです。つまり、多くのおとなの考える教育とは、子どものためのものではなくおとなのためのものです。
 
たとえば、自民党は公約の中に「道徳教育の充実、高校で新科目『公共』設置」をうたっていますが、道徳教育の中身というのはたとえば、「権利を主張する前に義務を果たせ」みたいなことです。
いうまでもないことですが、「権利を主張する前に義務を果たせ」という人は、他人が権利を主張せずに義務ばかり果たしてくれればいいと考えている自分勝手な人です。
 
おとなの考える教育が子どものためのものではなくおとなのためのものであるとすれば、私が考える教育も同じということになります。少なくとも私が考える教育が子どものためになるかどうかわかりません。
いや、誰が考えた教育であろうと、それが子どものためになるかどうかわかりません。
 
では、どうすればいいのかというと、子どもがみずから選べるようにすればいいのです。
自分が受ける授業の数が選べるようになっていれば、土曜日に授業をするか否かは問題ではありません。
また、道徳の授業と英語の授業と数学の授業と、どれでも好きなものが選べるようになっていれば、「道徳教育の充実」を実現したい人は、子どもが選択したくなるような道徳の授業をすればいいわけですし、これから英語力がたいせつだと思う人は、子どもが選びたくなるような英語の授業をすればいいわけです。
 
そんなやり方だと、子どもがどんな授業も受けず、遊びほうけてしまうではないかと思う人もいるでしょう。そうなったとすれば、それは自己責任ですから、しょうがありません。
子どもにそうなってほしくなければ、子どもが受けたくなるような魅力的な授業をいっぱい用意して、その授業がいかにすばらしくて子どものためになるかということを説得すればいいわけです。
そうすれば勉強と遊びのバランスも自然ととれます。
 
今のおとなのやり方は、子どもに強制的に授業を受けさせているので、授業内容がつまらないものになるのはもちろん、その授業がどれだけ子どものためになるかの検証もろくにされていません。遊びの不足という問題も生じています。
 
今私が言ったのは究極の教育改革ですから、すぐには実現できません。しかし、教育改革の方向性は明らかでしょう。
子どもが受けたくなるような授業をするということです。
 
消費社会では、企業は消費者が買いたくなるような商品を提供します。消費者のわがままに応えることで商品は向上し、消費者は豊かな生活ができるようになりました。
学校も同じことです。子どもが受けたくなるような授業を提供すればいいのです。子どものわがままに応えることで授業内容は向上し、子どもは豊かな知識を身につけることができるようになります。