アベノミクスがもっぱら注目される安倍内閣ですが、安倍首相は教育再生を掲げ、道徳教育にも力を入れています。憲法改正や自衛隊の国防軍化や北朝鮮制裁などタカ派路線を歩む安倍首相はどんな道徳教育をするのでしょうか。
 
道徳を正規教科に」提言へ…教育再生会議
 政府の教育再生実行会議(座長・鎌田薫早稲田大総長)は15日、児童・生徒の「心の教育」を充実させるため、道徳を学習指導要領で正規の教科と位置づけることを政府に求める方針を固めた。
  今月末にまとめるいじめ対策、体罰問題に関する報告書に盛り込む考えだ。道徳を小中学校の正規の教科と位置づけることで、授業時間の確保や質の充実を図り、生徒らの規範意識向上を図る必要があると判断した。
  同会議は15日、首相官邸で会合を開き、いじめ対策や体罰問題、道徳教育の充実について議論した。首相は「子どもたちの規範意識や豊かな人間性を育んでいくために何が必要かとの視点で考え、道徳教育を充実していくことが大切だ」と述べた。鎌田座長は会議後の記者会見で「有識者からは、道徳を教科化すべきだという意見が大勢だった。反対意見は出なかった。こうした点を踏まえて取りまとめる」と語った。
20132161000  読売新聞)
 
今月末に出る報告書には、今話題の体罰問題も盛り込まれるということで、どんなものになるか楽しみですが、私なりに推測してみましょう。タカ派の安倍首相なら絶対こんな内容になるはずです。
 
国家に自衛権があるように、個人には正当防衛権があります。教師が生徒に体罰を加えようとしたら、当然正当防衛権を発動して反撃することが許されます。また、体罰が自分ではなくクラスメートや部員仲間に向けられた場合は、集団的正当防衛権を発動することができます。つまり集団で教師をボコボコにすることができるのです。このように道徳教育で正当防衛権のことをしっかり教えれば、学校での体罰を一掃することができるはずです。
 
このようにタカ派の道徳教育はきわめて現実的で役立つものになります。
 
国家は国益追求を第一にします。これを個人に当てはめると、個人は自分の利益追求を第一にするということです。ですから、安倍式道徳教育ではもっぱら利己主義が奨励されることになります。安倍内閣は尖閣でも竹島でも絶対に譲りません。それは日本の固有の領土だからです。個人も同じように、たとえば電車で座席に先に座れば、それは自分の“固有の座席”ですから、たとえ年寄りが譲るように要求しても絶対に……なんていうことはありません。それは問題が違います。
要するに正当な利益の追求が奨励されるわけです。
 
たとえば会社でサービス残業を強要されることがあれば、断固正当な残業代を要求します。こういう交渉で弱腰になることは、安倍式道徳教育ではもっとも非難されることです。
企業が利益を上げているのに従業員の給料を上げないというときも、従業員は自分の利益を追求して断乎として賃上げを要求しないといけません。もちろん個人で要求しても企業を動かすことはできませんから、集団で、つまり組合を通して団体交渉をすることになるでしょう。
今、安倍首相はデフレ脱却のために経団連などに賃上げを要求して孤軍奮闘しています。しかし、将来は安倍式道徳教育で教育された世代がみずからの力で賃上げを勝ち取っていくでしょう。その日がくるのが今から待ち遠しいですね。
 
 
もっとも、まったく別の道徳教育になってしまうかもしれません。
先の総選挙の自民党の公約にはこう書かれています。
 
教育基本法が改正され、新しい学習指導要領が定められましたが、いまだに自虐史観や偏向した記述の教科書が多くあります。子供たちが日本の伝統文化に誇りを持てる内容の教科書で学べるよう、教科書検定基準を抜本的に改善し、あわせて近隣諸国条項も見直します。
 
要するに日本人としての誇りを持たせる教育をするということです。
しかし、個人としての誇りを持たせる教育、つまり自尊心を持たせる教育をするとは書いてありません。
自尊心のない人間は、人と交渉するときも弱腰になってしまい、自分の利益を追求することができません。イジメられたときもはねつける強さを持てません(「日本人としての誇り」は日本人同士ではなんの役にも立たない)。
自民党は日本人をみんな自尊心のない人間にしてしまおうというのでしょうか。植民地主義の教育は民族の誇りを奪うものでしたが、それと同じようなものです。
 
安倍首相は自尊心のある日本人をつくりたいのか、それとも自尊心のない日本人をつくりたいのか、どちらでしょうか。