安倍内閣は3月12日、サンフランシスコ平和条約が発効して日本が主権回復した4月28日に政府主催の記念式典を開くことを閣議決定しました。これは自民党の公約であり、安倍首相のかねてからの持論でもあります。
 
これに対して反対の論調のマスコミが多いようですが、反対の理由はもっぱら、サンフランシスコ平和条約が発効した日は沖縄が切り離された日でもあり、沖縄にとっては「屈辱の日」であるからというものです。
これは反対の理由としては弱いと思われます。日本国全体の問題と沖縄の問題とでは、重さがぜんぜん違うからです。
どうしても沖縄の問題が重要であると思うなら、沖縄返還が実現した1972年5月15日にちなんで5月15日を主権回復の日として祝うべきだと主張してもいいはずですが、そういう主張は見たことがありません。
 
私は安倍首相の思想信条にはかなり反対の立場ですが、サンフランシスコ平和条約が発効した4月28日を「主権回復の日」として祝うことにはかなり賛成です。
というのは、日本は対米依存という宿痾をかかえていて、そこから抜け出すきっかけになるかもしれないと思うからです。
 
たとえば、TPP交渉に参加するに当たって日本の交渉力のなさが言われますが、これも多分に日本人の対米依存心理のなせるわざです。日本人が独立国としての自覚を深めると、対外的な交渉力も強くなることが期待できます。
 
また、これは中国や韓国に対する日本人の態度にも影響すると思われます。
韓国では8月15日を日本から独立した「光復節」として祝いますが、日本人が「主権回復の日」を祝うようになると、韓国人が「光復節」を祝う心情にも共感できるようになるのではないでしょうか。中国における9月3日の「戦勝記念日」も似たようなものです。
 
多くの国は独立記念日や解放記念日や建国記念日を持っていて、国民が国家意識を持つことの役に立っています。日本の場合は2月11日の建国記念の日(紀元節)がありますが、これは明治政府がいい加減な計算で決めたもので、国民にとってはなんの実感もなく、上から与えられたものでしかありません。
その点、サンフランシスコ平和条約が発効した日というのは、占領状態を脱して独立した日ですから、「日本の独立記念日」という実感が持ちやすいはずです。
 
私は今の時代に国家意識は時代遅れになっていると思っていますが、国家意識を脱するためにも一度は正しい国家意識を持つ必要があると思います。今の日本はアメリカによる半占領状態が継続していますから、「主権回復の日」は大いに意味があることになります。
 
「主権回復の日」に反対のマスコミが多いのは、まさに日本がアメリカの半占領状態にあるからです。日本のマスコミはアメリカ従属意識がめちゃくちゃ強いのです。「主権回復の日」はアメリカの反発を買う恐れがあるので反対だと書くわけにいかないので、沖縄の問題を持ち出して反対していると考えられます。
 
また、日本の右翼勢力もアメリカ従属意識がひじょうに強く、親米を通り越してほとんどアメリカへの売国勢力と化しています。
たとえば、日本はサンフランシスコ平和条約に調印した同じ日に日米安保条約にも調印しています。つまり、占領体制から安保体制に移行したわけです。そして、日米行政協定(現日米地位協定)もサンフランシスコ平和条約と同時に発効しています。日米地位協定は米軍に治外法権を与えるもので、日本を半占領状態にするものです(このあたりの事情は孫崎享著「戦後史の正体」に詳しい)
ところが、日本の右翼は憲法はアメリカの押し付けだと言いますが、日米地位協定はアメリカの押し付けだとは言いません。
 
ともかく、日本の右翼はアメリカに従順で、その分、中国と韓国に傲慢になるという困った性質を持っていますが、「主権回復の日」は日本の右翼やマスコミにとって対米関係を考え直すきっかけになるものと思われます。
 
それにしても、安倍首相は集団的自衛権行使などで対米従属を進める一方、「主権回復の日」を政府行事とするわけで、安倍首相の中に対米関係についての矛盾があります。
アメリカは普天間基地辺野古移設の日米合意見直しや東アジア共同体を唱える鳩山政権を反米と見なしてつぶしにかかりましたが、安倍政権については困惑しているのではないでしょうか。