東大が推薦入試制度を導入することを決めました。「教育改革は、すればするほど悪くなる」というのが私の持論ですが、この改革はどうなのでしょうか。
 
数時間の面接も…東大推薦入試「多様な人材を」
東京大は15日、2016年度入試から推薦入試を導入すると発表した。2次試験の後期日程は廃止する。
 
 現在の東大には、受験学力は高くても学ぶ意欲が乏しい学生が目立つため、視野の広い意欲的な学生を獲得したいという。推薦入試は国立大82校のうち、13年度入試では76校が導入済みで、東大は最後発となる。
 
 定員は100人程度。受験生は11月に、高校までの活動実績を書いた願書や高校の調査書、学校長の推薦状などを提出する。各高校が推薦できるのは1~2人。1次選考を通った受験生は12月頃に面接を受ける。1月の大学入試センター試験で一定の水準を満たせば、2月に合格となる。推薦入学者には、大学院の授業の聴講が許可されるなどの特典がある。
 
 東大は各学部で求める学生の基準を公表し、それぞれの教員が面接する。「授業の内外で、幅広く学び、問題意識や深い洞察力を真剣に獲得しようとする人」が大原則。ボランティアなど体験活動の成果も、入学後にやりたい学問や研究との関連性を問うという。
 
 受験生の資質を吟味するため、面接は数時間に及ぶことも想定している。
 
 記者会見した佐藤慎一副学長は「従来のテストで把握できない資質や、優れた人材を発掘し、多様な人材を採りたい」とした。
 2013316  読売新聞)
 
前に東大が国際化のために9月入試を打ち出したときは、かなり激しい賛否両論がありました。しかし、今回の推薦入試制度導入については、あまり議論がないように思います。推薦入試制はすでに国立大も含めて多くの大学で実施されていますから、当たり前のことという感覚なのでしょう。
 
しかし、高校推薦というのは高校の先生の価値観が入りますし、大学での面接では面接官の価値観が入ります。つまり、よくも悪くも高校や大学の先生の価値観で入学者を選ぶというのが推薦入試制度です。
防衛大学校とか神学校とか、一定の価値観で選ばざるをえない学校もありますし、一般の私立学校にしてもそれぞれの価値観があるでしょう。
しかし、東大の場合、この記事を読むと、「視野の広い意欲的な学生」「授業の内外で、幅広く学び、問題意識や深い洞察力を真剣に獲得しようとする人」を選ぶのが目的のようです。
「視野の広い意欲的な学生」「授業の内外で、幅広く学び、問題意識や深い洞察力を真剣に獲得しようとする人」というのは、誰もがそういう人を求めますし、誰もがそうありたいと思いますから、価値観としては当たり前のものです。
国立の総合大学ですから、そんな変わった価値観があるはずもありません。
 
そうすると、面接官の“眼力”でたとえば「意欲的な学生」を選ぶことになりますが、入学希望者のほうも「意欲的な学生」を演じますから、これもけっこうたいへんなことになります。
 
さらに問題なのは、面接官の価値観で選ぶことになりますから、「多様な人材」と逆に、同じような人材ばかりが選ばれることになりかねないことです。
これは就職活動をする学生がみんな「リクルートスーツ」を着ているのを見ればわかります。面接官の価値観に合わせて服装を選ぶと、ああなってしまうのです(個性的な服装をすれば受かりやすいとなれば、みんな個性的な服装をするはずです)
面接官は、自分は広い視野を持った人間だと思っているかもしれませんが、実際はそうではないということです。そして、没個性の人間ばかりを採用する日本の企業は、あまり創造的な事業展開ができていません。
大学の面接においても、同じことが起こる可能性が大です。
 
高校での推薦や内申書についても同じようなことがいえます。高校の教師に評価されるような生徒はみんな優等生タイプでしょう。
 
これは大学や高校の教師や企業の面接担当者がよくないということではありません。人間が人間を評価すると、どうしてもそうなってしまうのです。
 
ですから、ほんとうに「多様な人材」を採ろうとすれば、ペーパーテストだけで選ぶのがベストです。そうすれば選ぶ人間の価値観は関係なくなります(ペーパーテストも限定された「学力」しか測れないという問題がありますが、それでも人間が人間を評価するよりはましです)
その代わり「へんな人間」や「困った人間」も大学に入ってくることになりますが、そうした人間を排除しようとすると、結局「多様な人材」を集めることはできなくなってしまうのです。
 
私の考えでは、高校入試や大学入試で内申書重視が行われるようになってから、中学や高校で教師の力が強くなり、校内暴力などの問題はなくなりましたが、生徒は抑圧され、イジメが増加しました。
教師の目を気にしていると、生徒はのびのびとすることができませんし、意欲や創造性もなくなってしまいます。
これこそが今の学校教育の最大の問題ではないかと私は思います。
 
ちなみに私の高校時代は、大学入試に内申書はほとんど評価されませんでしたから、教師にどう見られても入試の本番で力を発揮すればいいのだということで、気楽な学園生活が送れました。
 
東大までが推薦入試制度を取り入れると、ますます高校生活が抑圧的なものになってしまいます。
また、東大の評価も下がってしまうことが予想されます。これまで東大生といえば、少なくとも試験でいい点を取る頭のよさがあると見なされていました。しかし、推薦入試で入った学生もいるとなると、世間の人の東大生に対する尊敬の念が薄れてしまうと思います。
 
東大の推薦入試制度導入も、「教育改革は、すればするほど悪くなる」という一例です。