政府は30代前半までの妊娠・出産が好ましいことなどを周知させるために「女性手帳」の導入を目指しているということです。自民党の改憲草案もそうですが、なにごとにつけ安倍政権は「上から目線」であるようです。
 
女性手帳配り妊娠出産啓発へ 政府「生き方介入でない」
 【見市紀世子】少子化対策を検討する内閣府の有識者会議「少子化危機突破タスクフォース」は7日、妊娠・出産の正しい知識を女性に広めるための「生命(いのち)と女性の手帳」(仮称)の導入を提案することで一致した。内閣府などの関係省庁は今夏にも検討会議をつくって手帳の中身を詰め、来年度中に自治体を通して配り始める方針だ。
 
 少子化は晩産化が一因といわれるが、一般的に30代後半になると女性は妊娠しにくくなり、妊娠中毒症などのリスクも高まる。こうした情報を十分知らずに妊娠の機会を逃す人もいる。そこでタスクフォースは、手帳を使って啓発を進めることで一致した。
 
 妊娠した女性に市町村が配る「母子健康手帳」を参考にする。妊娠・出産に関する医学的な知識や自治体の支援情報を盛り込むほか、予防接種など本人の健康にかかわる記録も書き込めるようにする。
 
 配る時期は、中学1年生で子宮頸(けい)がんワクチンの予防接種を受ける時のほか、高校・大学入学や成人式、就職の時など複数回を想定。年齢に応じて内容を変える方向だ。また男性向けにも同様の啓発を進めるため、やり方を検討する。
 
 今回の議論に対しては、ネット上などで「妊娠や出産の選択に国が口を出すことになるのでは」といった心配の声も出ている。これに対し、内閣府は「個人の生き方に介入する形にならないようにしなければならない。正しい情報がある中で、それぞれが選択できる環境を整えたい」と説明する。
 
 
妊娠した女性に「母子手帳」があるのだから、妊娠前の女性にも同じような手帳を配ろうという発想のようですが、“よけいなお世話”感がぬぐえません。
それに、女性だけに配ろうというのもおかしな話です。30代前半までに妊娠・出産することを奨励したいのなら、男性の協力が不可欠です。
ということで反対の声が多いのも当然でしょう。
 
とはいえ、「女性手帳」を交付するという新しいアイデアは、こちらの想像力を喚起してくれます。たとえば、「男性手帳」もあっていいはずです。「男性手帳」をつくるとすれば、どんな内容にするのがいいか考えてみましょう。
 
「男性手帳」には、とりあえず女性の妊娠・出産に対する理解を深めることが書かれますが、男性にはもっと切実な問題があります。
たとえば自殺率の高さです。男性の自殺はもともと女性よりも多いのですが、山一證券などが倒産した1997年以降に男性だけ自殺者数が急増し、女性の2倍以上になって、そのまま高止まりしています。
 
「自殺にみる男女格差」
 
つまり男性の自殺理由には「経済・勤務問題」がひじょうに大きいのです。
ということは、自殺防止にはなにが有効かということもわかります。
男性に対して「命のたいせつさ」と「人生にはお金よりもたいせつなものがある」ということを教えればいいのです。
「男性手帳」にはまずこのことを大書するべきです。
 
それから問題なのは、男性は女性よりも圧倒的に犯罪をする比率が高いことです。一般刑法犯でいうと、10人中8人は男性です。
 
「一般刑法犯の男女別・罪名別検挙人員」
 
男性のほうが女性よりも平均寿命が短いといったことは、たぶんどうにもならないことと思われますが、犯罪率のほうはどうにでもなるはずです。
犯罪をすると、被害者を不幸にするだけではなく、犯罪をした者はもちろんその家族までも不幸にしてしまいます。そのことを周知させることがたいせつです。
また、「法律・ルールを守ること」はもちろん、「人の物を盗んではいけない」「人を殺してはいけない」「人に迷惑をかけてはいけない」といった基本のことも「男性手帳」には書いておきたいものです。
 
そうすると、なんだ、「男性手帳」というのは道徳教本か、ということになるでしょう。
そこで思い出されるのが「心のノート」です。「心のノート」は文部科学省が小中生向けに配布していた道徳の副教材で、民主党政権の事業仕分けによって一時なくなりましたが、このたび安倍政権によって復活することになりました。
ですから、「男性手帳」というのは成人男性向け「心のノート」ということになります。
小中生に配布しているのですから、成人男性に配布して問題のあるはずがありません。
いかにも安倍政権らしいということになるでしょう。
 
むしろ逆に、「心のノート」は成人男性にこそ必要なもので、小中生にはあまり意味がありません。
小中生に必要なのは「体のノート」です。
 
少子化・晩婚化が進むのは、「草食系」という言葉に代表されるように、異性に対する関心や性に対する欲望が減退しているからではないかと思われます。
その理由としては、自民党など保守派が学校で過激な性教育が行われているとして性教育を攻撃し、そのため現場が萎縮してしまって性教育がほとんど行われなくなったことが挙げられます。また、成人雑誌などの販売規制が強化され、インターネットもフィルタリングで遮断されるため、子どもが性的情報に接することがほとんどなくなってしまいました。これでは性的に成熟しないのは当然です。
 
ですから、小中生向けの「体のノート」で、異性の体の仕組みを教え、また性行為の実際についても教えることが必要です。
こうすれば少子化・晩婚化を防ぐことができるでしょう。
「女性手帳」を交付するよりもよほど効果的と思われます。
 
「女性手帳」については、国が個人の生き方に介入することになるのではないかという批判があります。
もし「男性手帳」をつくれば、当然同じ批判が起きるでしょう。
では、小中生向けの「心のノート」についてはどうでしょうか。
当然同じ批判が起こるべきです。
こう考えれば、安倍政権が進めている道徳教育の強化がなぜだめかということがわかるでしょう。
女性であれ男性であれ子どもであれ、国が個人の生き方に介入してはいけないのです。
 
ところで、「体のノート」は性についての事実を教えるものですから、生き方への介入ではないので、ぜんぜん問題はありません。
「男性手帳」は冗談ですが、「体のノート」は冗談ではありません。