橋下徹大阪市長は「慰安婦制度は必要」発言以来、失言の上塗りを繰り返して、自爆の規模を拡大しています。
とはいえ、ネットでは橋下氏の発言について「なにが問題なの?」みたいな声が多いのも事実です。
ネット右翼がその典型ですが、バカが集団になるとバカさが増幅してしまいます。
橋下氏もそこを狙って、問題のすり替えをはかっています。
そこで、橋下氏の発言のなにが問題なのかをはっきりさせておきましょう。
 
橋下氏は「慰安婦制度は必要」という自分の発言について、こんな釈明をしています。
 
 日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長は15日、旧日本軍の従軍慰安婦を必要だったとした自らの発言について「(慰安婦を)容認はしていない。あってはならないこと。『当時はみんなそう思っていた』と伝えただけだ」と釈明した。
 
しかし、問題の発端となった発言は、正確にはこのようなものでした。
 
認めるところは認めて、やっぱり違うところは違う。世界の当時の状況はどうだったのかという、近現代史をもうちょっと勉強して、慰安婦っていうことをバーンと聞くとね、とんでもない悪いことをやっていたとおもうかもしれないけど、当時の歴史をちょっと調べてみたらね、日本国軍だけじゃなくて、いろんな軍で慰安婦制度ってのを活用してたわけなんです。
 
 そりゃそうですよ、あれだけ銃弾の雨嵐のごとく飛び交う中で、命かけてそこを走っていくときに、そりゃ精神的に高ぶっている集団、やっぱりどこかで休息じゃないけども、そういうことをさせてあげようと思ったら、慰安婦制度ってのは必要だということは誰だってわかるわけです。
 
「慰安婦制度ってのは必要だということは誰だってわかるわけです」と言っています。「『当時はみんなそう思っていた』と伝えただけだ」というのとは明らかに違います。
もし橋本氏が「当時はみんなそう思っていた」ということを伝えたかったのなら、最初の発言は間違いだったとして取り消すべきです。
 
念のためにいうと、軍隊には慰安婦制度が必要であるという主張が間違いであることは明らかです。アメリカ軍はアフガン戦争やイラク戦争において慰安婦を帯同していたわけではありませんし、日本軍にしても日露戦争のときには慰安婦制度などつくっていませんでした。
軍隊に慰安婦が必要だという発言は、女性を侮辱しているだけでなく、世界中の軍隊を侮辱していることになります。
 
橋下氏の「慰安婦制度は必要」発言は、登庁時におけるぶら下がり取材で村山談話について質問されたことで出てきたものですから、準備されたものでなく、その場で考えながらしゃべったものに違いありません。
「当時はみんなそう思っていた」ということを言おうという気持ちもあったものの、その場の勢いでより強い主張をしてしまったのでしょう。
「誰だってわかるわけです」というのは、子どもが「みんなやってるよ」とか「みんな言ってるよ」というのと同じで、自分の主張を通したいためのごまかしの表現です。
 
そして、一度主張してしまったために、その主張の顔を立てなければならなくなります。今の時代に慰安婦制度が必要だとはいえませんから、風俗業が必要だという話になります。
 
今はそれは認められないでしょう。でも、慰安婦制度じゃなくても風俗業ってものは必要だと思いますよ。それは。だから、僕は沖縄の海兵隊、普天間に行った時に司令官の方に、もっと風俗業活用して欲しいって言ったんですよ。そしたら司令官はもう凍り付いたように苦笑いになってしまって、「米軍ではオフリミッツだ」と「禁止」っていう風に言っているっていうんですけどね、そんな建前みたいなこというからおかしくなるんですよと。
 
橋下氏は「昔は慰安婦制度が必要」「今は風俗業が必要」と一貫した主張をしたわけです。
 
ただ、そのために米軍を引き合いに出してしまいました。今まで従軍慰安婦問題は日本と韓国や中国の間の問題でしたが、橋下氏の発言は真珠湾攻撃みたいなもので、今度はアメリカを巻き込んでの戦いになりました。
で、アメリカとの戦いに勝ち目はありませんから、橋下氏はアメリカに関する発言については火消しに努めています(これを書いたあと、橋下氏はツイッターで「戦場の性の問題として、多くの女性の人権を蹂躙したのは、日本だけではない。世界各国、そしてアメリカも同じだ」などと発言しました。今度はミッドウェー作戦に出たようです)。
 
しかし、橋下氏は歴史認識については安倍首相とほとんど同じと思われています。橋下氏の発言で、アメリカの安倍首相に対する視線はよりきびしいものになるでしょう。
 
 
というわけで、橋下氏の「慰安婦制度は必要」発言はお粗末そのものですが、橋下氏は巧妙に問題のすり替えをはかっています。
つまり、慰安婦問題について「強制連行の証拠はない」「他国も同じようなことをやっていたのに日本だけが非難されるのはおかしい」ということを強調しています。
これは前から安倍首相や産経新聞やその他の右翼が主張してきたことでもあり、これについてはネットでも一定の支持を得ています。
 
しかし、これは国際社会ではまったく相手にされない主張です。これを主張すればするほど国益を損ねます。
なぜ国際社会から相手にされないのでしょうか。
 
従軍慰安婦問題については、実は事実関係についての意見対立はほとんどありません。昔は「慰安所は民間業者が勝手にやっていたことで軍とは無関係だ」という主張がありましたが、今そんなことを主張する人はいません。
 
今、事実として共通認識があるのはこのようなことです。
 
1、軍は慰安所の設置・運営に関与していた。
2、慰安婦を集めることは主に民間業者が行った。
3、民間業者はときに甘言や強圧によって慰安婦を集めた。
4、軍や官憲が直接「強制連行」したり民間業者に「強制連行」させたりしたという日本側の文書などの証拠はない。
 
問題は、民間業者が慰安婦を集めるのに「強制連行」があったかどうかということと、軍や官憲が「強制連行」に関与したか否かということです。
 
民間業者の問題は後回しにして、軍や官憲の関与について述べます。
 
軍や官憲が関与していたかどうかということを右翼はひじょうに重視します。そして、「軍や官憲が関与したという(日本側の)証拠がないのに謝罪するのはおかしい。河野談話は撤回するべきだ」と主張します。産経新聞などもそうです。
しかし、軍や官憲が関与しなかったとしても、民間業者が「強制連行」をしていれば、日本として謝罪するのは当然です。「それは民間業者がやったことだ」などという言い訳は国際社会では通用しません(日本でも通用しないはずですが、日本人にはよほど「官尊民卑」の考えがしみついているのでしょうか)
 
では、民間業者は「強制連行」をしたのでしょうか。
これについては「狭義の強制」と「広義の強制」といった議論もあって、ややこしそうです。
しかし、実際は簡単なことです。
 
「日本軍は植民地の女性を慰安婦にした」
 
これがすべてです。日本の一部の人がどんな言い訳をしても無意味です。国際社会は宗主国と植民地の関係が軍と慰安婦の関係だと見なします。日本軍は慰安婦に対していつでも強制力を行使できる立場にありました(実際に強制力を行使したかどうか、「強制連行」があったかどうかは大した問題ではありません)
ですから、朝鮮人の慰安婦は、一般的な意味の売春婦とは見なされず、日本軍の「性奴隷」と見なされるのです。
 
今、慰安婦問題を議論している人たちの中には、植民地支配の問題が頭からすっぽりと抜け落ちている人たちがいます。そういう人たちは「外国の軍隊でも慰安所を設置していた例があるのに日本だけ非難されるのはおかしい」と主張して、その主張が国際社会からまったく相手にされないことが理解できません。
 
欧米列強は植民地支配によってさまざまな収奪と人権蹂躙を行いましたが、日本はそれに加えて植民地の女性を慰安婦にすることも行いました。だから、それについては日本だけが非難されるのです。「日本だけが非難されるのはおかしい」と主張する人は、まったくバカとしか言いようがありません。
 
日本は、「朝鮮を植民地にするだけではなく、朝鮮の女性を慰安婦にした」ということで国際社会の顰蹙を買い、日本の歴史に汚点をつくってしまいました。
 
河野談話でそのことを謝罪して終わらせようとしたのに、それをぶち壊す人たちがいて、なかなか終わりません。
 
橋下氏は国内の一部の人たちに受けることを考えるのではなく、慰安婦問題についての認識を深め、国際的に慰安婦問題を終わらせるようにしなければなりません。