5月23日に日経平均株価が千円以上も暴落し、これはそれまでの急激な上昇に対する一時的な調整かと思われましたが、そのあともかなりきつい下げが続いています。「アベノミクスの終わり」という声もあります。
 
流通・小売業界には「売上はすべてをいやす」という言葉があるそうですが、政治の世界でも「経済成長はすべてをいやす」という言葉があっていいはずです。アベノミクスがうまくいっている限り、ほかのことがすべてだめでも、許されるような感じがありました。そのため、安倍首相が好きではない私も、このところ安倍首相への批判を控えてきました。
今後の株価のことはわかりませんが、安倍首相についていいたいことがたまっていたので、これを機会に吐き出してしまいたいと思います。
 
 
安倍首相は国会答弁で「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない」といいました。これについて私はこのブログで、「侵略の定義に関する決議」が国連総会でされているので間違いだと批判したことがあります。しかし、安倍首相はその後も、「学問的なフィールドにおいてさまざまな議論がある」と述べて、「定義がない」論を譲りません。橋下徹大阪市長が「慰安婦制度は必要」発言をしたのは、記者に安倍首相の「侵略の定義はない」論についてどう思うかと問われ、その流れでよけいなことまで言ってしまったわけで、安倍首相も罪つくりなことです。
 
それにしても、侵略の定義がないとなれば、未来の「国防軍」はどんなときに自衛権を発動するのかと安倍首相に聞いてみたいものです。たぶん「学術的な定義はなくても実際的に判断できる」というのでしょうが、だったらその実際的な判断で日本が侵略したか否か答えればいいわけです。
ちなみに村山富市元首相は安倍発言について「おかしな話だ。武力で敵国に乗り込めばそれが侵略であって、その他の表現はない」と明快に述べています。
 
過去の戦争にはいろいろありますから、中には学術的に侵略か否か定まっていないものもあるかもしれません。安倍首相はそのことを言いたかったのでしょうか。しかし、安倍首相が侵略か否かについて問われたのは、日中戦争か真珠湾攻撃以来の戦争についてですから、侵略の定義など関係なしに答えられます。
 
侵略であることを認めたくないために「言葉の定義」を持ち出すのはみっともない限りです。
ちなみに安倍首相は、慰安婦問題についても、強制性を認めたくないために「狭義の強制性」と「広義の強制性」という議論をしています。
 
 
安倍首相は日本の集団的自衛権の行使を可能にすることに熱心です。
日本が攻撃されたときにアメリカが日本を守るのに、アメリカが攻撃されたときに日本がアメリカを守らないのは「片務的」であり、これを「双務的」にしなければならないという考えです。
しかし、もともと安保条約というのは、日本がアメリカに基地を提供し、アメリカは日本を守るということで「双務的」なのです。だからこそ両国が納得して締結したわけです。
集団的自衛権の点で「双務的」にするならば、基地提供の点でも「双務的」にしなければなりません。つまりアメリカ本土に、日本にある米軍基地に匹敵するだけの自衛隊基地をつくらなければならない理屈です。
アメリカ本土に自衛隊基地をつくる意味はありませんから、日本で米軍が専有している土地(の価値)に匹敵する土地を日本政府が専有して、治外法権にし、トヨタの工場をつくるとかカジノをつくるとか、日本政府が自由に使えばいいわけです。
これこそが真の「双務性」です。
 
安倍首相は安保条約の「双務性」と「片務性」を理解していないのではないでしょうか。
 
 
安倍首相は4月に硫黄島を訪問しましたが、そのときのことをフェイスブックにこんなふうに書きました。
 
硫黄島を訪問しました。
慰霊追悼式を行い、駐留している自衛隊員を激励する為です。
 
亜硫酸ガスと熱気、水の無い状況とも戦いながら、遠く家族の幸せを祈りつつ、祖国を護る為尊い命を捧げられたご英霊に感謝と尊崇の思いを込めて手を合わせました。
 
これを読んだ私は、「英霊」に「ご」をつける言葉づかいはスルーするとして、硫黄島に英霊がいるのかと思ってびっくりしました。
英霊というのはすべて靖国神社にいるものだと思っていたからです。
だからこそみんな「靖国で会おう」と言ったのです。今も硫黄島などあちこちの戦没地にいたら、互いに会えないではないですか。
 
もっとも、「霊」なのだから、物理的な空間に縛られず、どこにでもいるのだという考えもあるでしょう。
だったら、英霊に尊崇の念を表すのにわざわざ靖国神社に参拝する必要はないことになります。千鳥が淵でもいいですし、自宅でもどこでもいいわけです。
 
そもそも中国や韓国が問題にしているのは、戦没者を慰霊することではなく、閣僚が靖国神社に参拝することなのです(もちろんこれは国内的にも政教分離の点で問題です)
靖国に参拝せずに英霊の慰霊が行えるなら、これで問題は解決します。
 
安倍首相には、英霊のいる場所について改めて問いただしてみたいものです。
 
あと、つけ加えると、戦没者遺族には靖国神社を信仰していない人もいっぱいいます。総理大臣として硫黄島の慰霊式に出席したのですから、そのとき英霊という言葉を使ったら、納得いかない遺族もいます。「英霊」という言葉はあくまで特定宗教の言葉です。
 
 
ところで、株価が急に失速した理由について、私はアベノミクスの第三の矢である成長戦略が期待外れであるからではないかと考えています。マーケットは「異次元の金融緩和」に続いて「異次元の成長戦略」が出てくると期待していたのでしょう。しかし、今まで発表された成長戦略に目新しいものはありませんでした。
 
規制緩和など大胆な成長戦略を打ち出そうとすれば、抵抗勢力とのバトルが必至です。しかし、そうしたバトルが演じられているという報道はまったくといっていいほどありません。産業競争力会議のメンバーである竹中平蔵教授の発言なども聞こえてきません。
 
本来なら安倍首相が先頭に立って指揮しなければならないはずですが、安倍首相はモンゴル、ロシア、トルコなどを訪問し、東京にインド首相を迎えたりして、もっぱら外交に時間をさいています。ということは、これからもたいした成長戦略は出てこないと想像され、それで株価が下げているのではないでしょうか。
といって、これからどうなるかはわかりません(投資は自己責任で)
 
それにしても、経済政策を別にすれば、安倍内閣がやってきたことで評価できることはほんとになにもないと思います。