最高視聴率40%を獲得した評判のドラマ「家政婦のミタ」をレンタルショップで借りて見ました。家族のドラマだということで興味があったからです。
少し前には「マルモのおきて」が家族のドラマとしてヒットしましたが、これは育児ノイローゼの母親抜きで子どもたちが幸せを求める物語であるところが新しいと思いました。「家政婦のミタ」にもなにか新しさがあるのではないかと思ったのです。
 
「家政婦のミタ」というタイトルはもちろん市原悦子さん主演の「家政婦は見た」のパロディですし、キャラクター設定にもパロディ精神がいっぱいです。たとえば、ミタさんは後ろに人が立つのを嫌いますが、これはもちろん「ゴルゴ13」です。また、持参のカバンから、必要なものが魔法のようになんでも出てくるのですが、これは「メリー・ポピンズ」と同じです。
 
物語は、母親が亡くなって父親と4人の子どもが暮らす阿須田家にミタ(三田灯)という家政婦が派遣されてくることから始まります。
ミタさんはあらゆる家事を完璧にこなすスーパー家政婦ですが、まったく無表情で、絶対に笑顔を見せません。頼まれたことはなんでもやり、殺人を頼まれたら実際に人を殺しかねない不気味さがあります。
阿須田家の父親は、妻と子を捨てて不倫に走った男で、今も子どもの愛し方がわかりません。そのため阿須田家は崩壊状態です。しかし、ミタさんの完璧な家事能力と予想外の行動の連続で、阿須田家はしだいに立ち直っていきます。そして、ドラマの後半は、ミタさん自身の問題になっていき、ミタさんが笑顔を取り戻すか否かが焦点になります。
 
どうしてこのドラマがヒットしたのでしょうか。理由はいろいろあると思います。
たとえば、このドラマでは現実にはありえないようなことが次々と起こるのですが、ミタさんのキャラクター設定がしっかりしていて、周りの人物も少しずつ現実離れした過剰なキャラクターになっているので、なんとなく納得してしまいます。もちろんミタさんを演じる松嶋菜々子さんの存在感も大きな要素です。
その結果、ファンタジーとリアルの中間のような不思議な感じになっています。
 
父親は不倫をして妻を自殺に追いやり、子どもをどう愛すればいいかもわからない、夫としても父親としてもだめな男です。しかし、不思議と不快感がありません。本人なりに誠実なところがあり、演じる長谷川博己さんが甘い雰囲気のイケメンであることも大きいでしょう。
 
そして、過剰にドラマチックなストーリーの中で「家族の再生」が果たされるということが、人気になったいちばんの理由ではないかと思われます。
 
ただ、「家族の再生」といっても、4人の子どもは実はなにも変わりません。むしろ父親や、亡くなった母親の妹である叔母(相武紗季)や、母方の祖父(平泉成)、さらにはミタさんが変わることによって「家族の再生」が果たされるのです。
 
家族や家庭のたいせつな機能のひとつに、子どもを教育するということが挙げられます。しかし、阿須田家には子どもを教育する機能がまったくありません。
母親はすでに亡くなっています。父親は子どもの愛し方がわからず、子どもを教育したりしつけしたりするという意識もありません。子どもを心配してしばしば訪ねてくる叔母は、きわめてドジな性格で、子どものためになることがなにひとつできません。祖父は極端に頑固な性格で、子どもから拒否されています。
そして、ミタさんは家政婦ですから、自分から家族関係に関わろうとせず、子どものしつけもしません。なにか命令されたときに「承知しました」というのがミタさんの有名な決め台詞ですが、なにか意見を求められたときに「それはあなたが決めることです」というのももうひとつの決め台詞です。
 
高校2年生の長女(忽那汐里)はクラブの先輩とつきあって、外泊したりしますが、誰からもとがめられません。そして、先輩に裏切られ、傷つきますが、当然ながら自力で立ち直ります。もし家庭に“教育機能”があれば、外泊は禁止され、裏切られて傷つくこともないかもしれませんが、経験して成長することもできません。
 
“教育機能”のない阿須田家は、家事を完璧にこなすミタさんがいることによって、子どもにとっては理想の環境になったのです(もしミタさんがいなかったら、家事をめぐるごたごたによって家族の崩壊が加速したでしょう)
そして、子どもが主導して父親や周りの人間を変えていきます。
というか、子どもと触れ合うことでおとなが変わっていきます。
 
脚本を書いた遊川和彦さんは「女王の教室」も書いた人です。どこまで意識的かわかりませんが、教育やしつけはおとなも子どもも幸せにしないということがわかっているようです。
 
 
教育やしつけのないほうが家庭は幸せになるというのが私の考えです(将来のことは別ですが)
 
幸せな家庭の典型が「サザエさん」でしょう。カツオやワカメはサザエさんの子どものように見えますが、実は弟妹なので、サザエさんはカツオやワカメを教育したりしません。それは波平とフネの役割ということになりますが、すでに成人して一家の主婦となったサザエさんが防波堤になって、ほとんどその役割を果たすことはありません。そのためサザエさん一家はとても幸せに見えるのです。
 
宮崎駿アニメも、どの作品をとっても子どもが主体的に行動するものばかりです。
 
その正反対のものが「巨人の星」でしょう。星家は飛雄馬にとってまさに教育地獄です(のちに一流選手になることである程度報われますが)
 
家族をめぐるドラマを見ると、いろいろなことを考えさせられます。
しかし、中にはなにも考えない人もいるでしょう。たとえば、「家族は、互いに助け合わなければならない」という改憲草案を書く人たちは、家族についてなにも考えない人たちに違いありません。