麻生太郎財務相は「ナチスの手口に学べ」発言をすぐさま撤回しましたが、そのあとになっても発言を擁護する人がいます。
麻生発言はかなり支離滅裂ですから、発言の“真意”を都合よく解釈して擁護することは可能ですが、その解釈が正しいか否かは証明のしようがありません。麻生財務相本人も、発言を撤回した以上は、それ以上語ることはないでしょう。
 
では、なんのために擁護するのかというと、マスコミは発言の“真意”を正しく伝えていないという、マスコミ批判が目的のようです。
たとえば次の「産経抄」がその典型です。
 
8月3日[産経抄]
久々にぎょっとした。朝日新聞など一部メディアが繰り広げている「麻生太郎副総理ナチス発言」祭りに、である。きのうの朝日新聞を見ると、1、2面と政治、社会面、それに社説まで動員しての大騒ぎである。
 
 ▼麻生氏は7月29日、都内で開かれたシンポジウムで「ワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。誰も気がつかないで変わった。あの手口を学んだらどうかね?」と発言した。確かに字面だけをみれば、あたかもナチスの手法を称揚しているようにみえる。
 
 ▼在米のユダヤ系人権団体が「どのような手法がナチスから学ぶに値するのか」と非難したのもうなずける。しかも、ナチスは憲法を改正も制定もしておらず、形の上でワイマール憲法は戦後まで存続していた。
 
 ▼首相経験者であり、しかも政権の柱である副総理として軽率極まりない。ただ、彼の肩を持つ義理はないのだが、前後の発言を詳しく点検し、当日会場にいた記者や傍聴者の話を聞くと、だいぶ様子が違う。
 
 ▼討論者の一人として参加した麻生氏は「(憲法改正は)喧噪(けんそう)の中で決めないでほしい」と改正積極派が多い聴衆に向かって何度も繰り返している。「ナチス発言」も彼特有の皮肉な口調で語られ、場内に笑いも起きたという。ある傍聴者は、「ナチスをたたえているようにはとても聞こえなかった」と話す。
 
 ▼朝日新聞などが、シンポジウム翌日に一行も報じていないのが何よりの証拠である。野党は召集された臨時国会で追及する構えだが、麻生氏はすでに発言を撤回している。麻生発言を奇貨として「改憲派=ナチス支持者」の印象操作をしようとしているのは誰か? ナチスが得意だったプロパガンダ(宣伝戦)に乗せられてはならない。
 
産経新聞は改憲派ですから、自分たちに都合の悪いことを書かれたために、誤報だのプロパガンダだのといっているとしか思えません。
 
いろんなブログを紹介するサイト「BLOGOS」を見ても、麻生発言擁護と、マスコミ批判の意見が目立ちます。
 
しかし、これまでマスコミは安倍政権に対してきわめて好意的でした。たとえば、6月に北アイルランドで行われたG8サミットにおいて安倍首相はオバマ大統領と会談することができませんでした。これなど、マスコミは「安倍首相はオバマ大統領に嫌われた」などと書き立ててもいいところですし、もしそうしていれば安倍内閣の支持率は10ポイントは低下していたでしょう。しかし、実際はマスコミは安倍首相のイメージダウンになるようなことはまったく書きませんでした。
今回、マスコミが珍しく安倍政権に逆風になることを書いたからといって、そのときだけ批判するのでは、ご都合主義の批判になってしまいます。
 
マスコミ批判というのはインターネットのたいせつな役割ですが、こんなご都合主義の批判がいっぱいあったのでは、ほんとうの批判が埋もれてしまうので、かえって害悪です。
 
私もマスコミ批判をしますが、それはたとえばマスコミが官庁の発表をそのまま垂れ流しにするとか、既得権益者に有利な記事を書くとか、差別的な書き方であるとか、なんらかの建設的な方向への批判であるつもりです。単に自分の考えと違うから批判するということはありません(発想の出発点に自分の考えと違うということはありますが)
 
では、今回の麻生発言批判の報道の仕方はどうかというと、最初は当然の報道の仕方だと思っていました。しかし、どのマスコミも同じように書き、しかもかなり派手に書いているということで疑問が生じました。
 
麻生発言があったのは、7月29日でした。その直後は、マスコミはほとんど批判報道をしていませんでした。しかし、ユダヤ人組織のサイモン・ウィーゼンタール・センターが抗議声明を出したことで日本のマスコミは8月2日にいっせいに批判記事を書いたのです。
 
このユダヤ人組織がどうして麻生発言について知ったのかは不明です。日本の一部のメディアが報じていたのかもしれませんし、独自のルートで知ったのかもしれません。
 
ユダヤ人組織が抗議したことで日本のマスコミが動くというのは不思議ではありませんが、その動きがあまりにも大きすぎて不自然な気がします。
 
日本のマスコミは、警察、検察、裁判所に弱いという特徴を持っていますが、もうひとつ、アメリカに弱いという特徴も持っています。
孫崎享著「戦後史の正体」には、60年安保のときに日本の新聞はアメリカの圧力を受けて「七社共同宣言」を出して安保闘争を終息させたと書いてありますが(その先頭に立ったのが朝日新聞です)、日本がアメリカに従属する国になってしまったのにはマスコミの働きが大きかったと思います。
つまり要所要所で日本のマスコミはアメリカの意を受けて日本の進路を変えてきたと考えられるのです。
これは陰謀論と見分けがつきませんが、私はかなり当たっていると思っています(たとえば沖縄の基地問題にしても、マスコミは世論が反米の方向に行くようには絶対にしません)
 
今回、マスコミが大々的に麻生発言批判をしたのは、背後にアメリカの意向が隠れている可能性があります。
アメリカは安倍政権が改憲に動くのを阻止すると決めて、そのために麻生発言を利用したのでしょう。
アメリカは日本が集団的自衛権を容認するのは歓迎するが、改憲はさせたくないということなのです。
現に安倍政権もその方向で動いていますが、麻生発言が集中砲火を浴びるのを見て、さらに改憲を先送りにすることにしたのではないでしょうか。
 
今回、日本のマスコミはいっせいに同じ方向に動きました(「産経抄」だけ空気が読めていませんでした)
それを批判するブロガーも、マスコミの動きの原因が読めていないので、的外れな批判しかできていません。
 
 
ところで、麻生財務相は改憲には批判的な立場であるようです。もしかして、改憲を阻止するためにあえてナチス発言をし、みずからそれをユダヤ人組織に通報していたとすれば……ま、これは完全な陰謀論ですが。