今年の8月15日は、韓国の国会議員が訪問しようとするなど、靖国神社周辺は例年以上に騒がしかったようです。
結局、安倍内閣としては、首相は靖国参拝をせず(私費で玉串料を奉納)、3閣僚が参拝しただけでした。
 
毎年繰り返される靖国参拝を巡る騒動ですが、考えてみると、8月15日というのは靖国神社にとってはなんの行事もない普通の日にすぎません。
ですから、この騒動は「靖国問題」ではなく「8月15日問題」と見なしたほうがいいのではないでしょうか。
つまり8月15日で終わったあの戦争をどうとらえるかについての対立がこの騒動を生んでいるのではないかと思うのです。
 
「勝敗は兵家の常」「勝敗は時の運」というのが戦争の勝敗についての昔からの一般的な考え方で、勝ったほうは領土や奴隷や賠償金を取っても、そこに善悪や正義はありません。ヨーロッパの騎士道や日本の武士道などはその典型です。しかし、アメリカ人は、自分たちは「神の国」「正義の国」という意識があって、戦争のとらえ方がまったく違います。第一次世界大戦の戦後処理にウィルソン大統領が戦争責任の概念を持ち込み、第二次世界大戦の戦後処理ではアメリカが主導してニュルンベルク裁判と東京裁判を行います。そして、日本では戦争指導者がA級戦犯として裁かれ、国の根幹をなす憲法も変えられます。
 
つまり勝者が敗者を犯罪者として裁くというのは、アメリカの特殊な考え方なのです。これは先住民の虐殺と黒人奴隷の労働の上に建国されたという特殊な事情からきているものと思われます。今もアメリカでは1年間に25人のうち1人が逮捕され、100人のうち1人が刑務所の中に入っていますし、ハリウッド映画にもアメリカ人の考え方が反映されています。
 
アメリカが世界史的にも特殊な裁く国であるということをとらえていないと、東京裁判の意味が見えてきません。
今回調べてみると、第一次大戦と第二次大戦は総力戦であったために戦争責任が問われるようになったという説が一般的なようですが、総力戦だから戦争責任が問われるという理屈は成り立たないと思います。
 
ちなみに中国は先の戦争において、アメリカとは対照的に“許す国”でした。蒋介石も毛沢東も賠償請求権を放棄しましたし、中国大陸の日本軍兵士は基本的に裁判にかけられることなく帰国できました。
中国人は昔から数限りなく戦争をしてきましたから、今は勝ったからといって敗者にきびしく当たると、敗者もいずれ国力を盛り返し、そのときに復讐されるということを学んでいるのです。
これは中国人に限らず人類に共通する“歴史の知恵”というべきものです。“歴史の知恵”がないアメリカ人が特殊なのです。
 
ともかく、日本は戦争に負けたために不当に犯罪国として裁かれ、それは当然日本人には屈辱ですから、国力が回復するとともに、この屈辱をすすぎたいという気持ちが生まれてくるはずです。
しかし、複雑な事情があって、必ずしもそうはなりませんでした。
 
すぐに冷戦が始まったために、右翼は反共を優先させて、必然的に親米になりました。
ですから、反米は左翼の専売特許になりました。しかし、その左翼も、戦時中は政府に弾圧されていましたから、政府の指導者を裁いてくれたということで東京裁判を歓迎しました。
 
右翼はアメリカに憲法を押しつけられたといいながら親米になり、左翼は反米でありながら東京裁判や平和憲法を歓迎するという複雑な図式になっています。
 
冷戦が終わっても、右翼は親米をやめません。惰性が続いているということもありますし、アメリカの日本支配がより巧妙になったということもあるでしょう。
左翼は反米である理由を失いました。
また、アメリカは世界で唯一のスーパーパワーになり、アメリカに反抗するのはますます困難になりました。
ということで、冷戦後はますます日本は親米国家、あるいは従米国家になっています。
 
そのため、日本人は東京裁判は不当だと思いながら、アメリカはけしからんということがいえません。「パール判事はすばらしい」とはいいますが、「パール判事以外の判事はけしからん」とはいいません。
また、「オスプレイ配備はけしからん」とはいいますが、「オスプレイ配備を強行するアメリカはけしからん」とはいいません。
ひじょうに屈折した心理状態にあるわけです。
 
そうした心理状態のはけ口になっているのが中国と韓国です。
日本人は中国と韓国にだけは強くいえます。アメリカにいえない分までいっているような状態です。
南京虐殺や慰安婦問題などは、本来は日本が文句をいえる筋合いではないのですが、中韓の言い分のアラ探しをして文句をいっています。
政治家が靖国参拝をするのは政教分離の点からも問題ですが、靖国参拝について中韓から文句をいわれると、それへの反発のために靖国参拝賛成の声が強くなります。
そうして毎年8月15日になると、日本と中韓の間で騒ぎが起こるというわけです。
 
問題は、アメリカに対して「勝者が敗者を裁いた東京裁判は不当だ」とか「欧米の植民地主義は不当だ」ということがいえない日本にあります。
これをいえずに、代償行為として中韓にいっていても、問題を混乱させるだけです。
 
先住民虐殺と奴隷制の上に建国されたアメリカこそ植民地主義を生み出した悪の帝国であり、アメリカにいかに反省させるかということが人類史における最大の課題です。
ところが、日本はそれに逆行したことをしています。オリバー・ストーン監督が日本に文句をつけるのもそのためです。
 
靖国問題は日本と中韓の間の問題ではなく、むしろ日本とアメリカの間の問題ととらえるべきです。
安倍首相が今年靖国参拝を行わなかったのは、もちろんアメリカの意向があったからです。アメリカにものがいえない国は、中韓にもものをいうことができないというのが現実です。