このニュースは取り上げるかどうか悩んだのですが、私のほかにこういう観点から取り上げる人がいないかもしれないので、取り上げることにします。マンガ家の郷田マモラさんが暴行、強制わいせつ、傷害の罪で起訴され、有罪判決(懲役3年、執行猶予3年)を受けたというニュースです。
本人が罪を認めたので判決には問題ありませんが、逮捕・起訴するほどの事件だったのかという疑問が残ります。
 
そもそもの事件はこのようなものでした。
 
人気漫画家の郷田マモラ被告、強制わいせつで起訴
死刑制度を扱った漫画「モリのアサガオ」などの作者として知られる漫画家、郷田マモラ(本名・上之郷守)被告(50)が、女性にわいせつな行為をしたなどとして警視庁に逮捕され、東京地検立川支部が強制わいせつなどの罪で起訴していたことが15日、分かった。郷田被告は2度にわたって女性に野球の硬式ボールを投げつけて脅し、わいせつな行為を働いたり、突き飛ばしたりして、けがを負わせたという。
 死刑制度や裁判員制度など深淵(しんえん)なテーマを扱う社会派漫画家が、強制わいせつで逮捕、起訴されるという驚くべき二面性を見せた。
 
 起訴状によると、郷田被告は今年4月21日ごろ、東京都国分寺市内の郷田被告の事務所内で、女性の頭部に硬球を投げつけて脅し、わいせつな行為をした。5月12日にも同じ女性に硬球を投げつけ、突き飛ばして2週間のけがを負わせたとされている。
 
 警視庁小金井署が逮捕し、東京地検立川支部が6月25日と7月12日に暴行と強制わいせつ、傷害の罪で起訴した。
 
 郷田被告と女性との関係は明らかにされていないが、郷田被告とは面識があったとみられている。
 
 捜査関係者によると、4月のときはボールを女性の頭部に投げつけたあと「怒りで仕事が手につかない。どうしてくれるんや」と脅し、わいせつ行為に及んだという。
 
 5月には同じく女性の顔にボールを投げつけ、胸を突き飛ばして転倒させたのち、頭を蹴るなどしたという。女性は頬などに全治約2週間のけがを負った。
 
 郷田被告は、女性監察医が主人公の「きらきらひかる」や、裁判員裁判をテーマにした「サマヨイザクラ-裁判員制度の光と闇」などの作品があり、社会派の漫画家として知られる。2007年には死刑囚と刑務官の交流を描いた「モリのアサガオ」で文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞した。
「きらきらひかる」は1998年にフジテレビ系でドラマ化。「モリのアサガオ」は10年にテレビ東京系でドラマ化され、現在は再放送中。テレビ東京広報部は「放送休止は考えておりません」としているが、「(起訴に関しては)コメントを出す立場にないので、差し控えさせていただきます」と話すにとどめた。
 
 
このあと、8月20日に初公判があり、郷田さんは起訴内容を認め、27日に懲役3年執行猶予3年の有罪判決が言い渡されました。
郷田さんは起訴内容を認めたとはいえ、わが国の刑事裁判の有罪率は99.9%といわれますから、事実関係で争うと、反省がないと見なされて実刑判決になる可能性が大です。そのあたりのことは郷田さんは十分に承知しています。そのため、本当は事実関係で争いたかったが諦めたということも考えられます。
  
「モリのアサガオ」は刑務官と死刑囚の物語です。単純に死刑制度反対を訴える作品ではないようですが、死刑囚を人間として描くだけで十分に死刑制度に対する疑問を喚起することになります。
そして、今回調べると、「漫画アクション」に「あしゅらみち-冤罪-」を連載中だったということです(逮捕後中断)。これはタイトルの通り、冤罪事件を扱ったものと思われます。
つまり郷田さんは、死刑制度や冤罪事件を追及するマンガ家で、司法当局にとっては好ましくない存在だったということになります。
 
別の新聞記事によると、逮捕されたのは6月5日だということです。
つまり、現行犯逮捕ではありません。
4月21日に最初の行為があり、512日に二度目の行為があり、6月5日に逮捕されているということは、被害の女性が警察に訴え出たということでしょうか。
全治2週間のケガというのはそれほどのケガとは思えません。また、逃亡や証拠隠滅の恐れもそれほどあるとは思えません。つまり、通常は逮捕するケースではないはずです。
また、暴行、強制わいせつ、傷害の三つの罪で起訴されたのも、きびしいように思えます。
 
もっとも、新聞記事だけではわからない、ひじょうに悪質な事件なのかもしれません。だったら、逮捕・起訴は当然ということになります。
少なくとも女性が警察に訴えたくなるようなことがあったのは事実でしょう。
 
ということで、このニュースを取り上げるかどうか迷ったわけです。
 
しかし、小さな事件を警察・検察が大きな事件にしたということは十分に考えられます。
この事件によって、死刑制度反対を訴え、冤罪事件を追及するマンガ家に大きなダメージを与えることに成功したからです。
 
昔は雑誌「噂の真相」が警察や検察の問題を追及していましたが、「噂の真相」なきあと、警察・検察を追及するメディアがほとんどなくなったといっても過言ではありません。
そこで、このブログだけでもと思って取り上げてみました。