ネット内の世論は一般社会の世論よりバカになるのはなぜかということをこのところ考えています。
 
ネットにおける「集合バカ」の代表的なものにネット右翼がありますが、私は前からネット右翼という名称に疑問を持っていました。右翼思想とは違う気がしていたからです。
そうしたところ、「ネットのバカ」(中川淳一郎著)という本の中に、ネット内の「“愛国者”たちは基本的に『韓国・中国を極端に嫌う人』と言い換えることができる」という記述があり、納得がいきました。
やはり彼らは右翼ではなく、単なる「嫌韓・嫌中の書き込みをする人」なのです(数としては嫌韓のほうが圧倒的に多い)
 
もちろん嫌韓・嫌中と右翼思想は別です。
そもそも好き嫌いは思想ではありません。ピーマン嫌いが思想でないのと同じです。
 
中国は共産党一党支配の国ですから、嫌中は反共思想すなわち右翼思想からきているようにも見えます。しかし、ベトナムは同じく共産党一党支配の国ですが、私は嫌越(嫌ベトナム)の書き込みはまったくといっていいほど見たことがありません。
また、北朝鮮は社会主義の国で、日本は拉致問題を解決するためにも韓国と連携して北朝鮮に対峙する必要がありますから、嫌韓の人はむしろ北朝鮮への利敵行為をしていることになります。
ですから、嫌韓嫌中の人は右翼思想とはまったく関係ないといってもいいでしょう。
 
ネットにおける嫌韓は、2002年の日韓共同開催のFIFAワールドカップにおいて、韓国人観客が日本代表にブーイングを浴びせるなどしたことがきっかけで起こったとされていますが、もとはといえば、日韓併合以来の韓国人・朝鮮人への差別意識からきていることは明らかです。
私は1950年生まれですが、私の子どものころというと、朝鮮人と精神病者への差別が二大差別で、毎日のようにそれこそヘイトスピーチをしていました。ですから、最近まで「チョーセン」という言葉から差別的響きが抜けませんでした。
もっとも、そうした差別を口にしていたのは小学校低学年まででした。高学年になると、多少は分別がついてきたのか、世の中の空気が変わってきたのか、そんな露骨に差別的発言をすることはなくなったと思います。
それでも日本人一般に、韓国人・朝鮮人に対する差別意識が根強く存在しているのは間違いありません。
 
しかし、そうした昔からの差別感情なら年配者のほうに強くあるはずです。最近のネットにおける嫌韓感情は若い人中心ですから、理屈に合いません。
「冬のソナタ」がNHKのBSで初めて放送されたのが2003年4月ですから、ネットで若い人が嫌韓に走る一方で、中年女性が韓流ブームに走り始めたわけです。
 
嫌韓に走る若い人は、結局のところ、教育の失敗の産物です。
 
「『集合バカ』の研究」という記事で書いたことですが、もう一度繰り返しておきます。
家庭や学校に適応できない子どもは、盛り場などで仲間とつるみ、不良になります。これが「行動化する不良」です。もう一方で、家庭や学校に適応できないために引きこもりになる子どもがいます。学校に行き、就職はしても、引きこもり一歩手前という者もいます。これを私は「引きこもり系の不良」と呼んでいます。
「引きこもり系の不良」は「非リア充」でもあります。こうした人たちがネットでヘイトスピーチをするのです。
 
「引きこもり系の不良」や「非リア充」は当然、国際社会で活躍するタイプではありません。異文化に適応するというたくましさがありません。海外旅行をしてもその国からなにも学ぶことができず、「海外に行って日本のよさがわかった」などといったりします。
 
そのように外国の異文化を受け入れることができない者でもなんとか受け入れられる国があります。それが韓国であり、中国です。
 
私はこれまでかなり海外旅行をしてきましたが、最初のうちはヨーロッパ、オーストラリア、カナダなど欧米系の国ばかり行っていました。初めてアジアの国に行ったのはベトナムで、その次が韓国でした。
韓国に行ったときの最初の印象は、日本とあまりにも似ているということでした。町並みは、看板がハングルであることを別にすれば、ほとんど日本と同じです。山など自然の風景も似ています。人の顔も服装も似ています。
それから中国に行きましたが、中国も日本に似ています。
世界の中でいちばん日本に似た国が韓国で、その次が中国だと思います(台湾と北朝鮮も近いかもしれません)
 
「日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか」(黄文雄著)という本があります。私は読んだことがありませんが、タイトルだけでもおかしいと思います。国際性がまったくなく、日本と中国と韓国しか眼中にないようです。しかし、ネット右翼はこうした本が好きなのでしょう。
 
アメリカはキリスト教の価値観を中心とした国で、しかも多様性があるので、日本人にとってひじょうに理解しにくい国です。東南アジアの国も日本とはかなり違います。その点、韓国と中国はきわめて理解しやすい国です。というか、多くのネット右翼にとって唯一理解できる国が韓国なのでしょう。
 
理解できるといっても、好きにならずに嫌いになるところに、「引きこもり系の不良」の心の弱さが現れています。韓流スターを追いかけるおばさんのたくましさがありません。
 
嫌韓というのは、ただ隣人が嫌いというだけのことですが、嫌韓の人は自分を愛国者や右翼と思って正当化しています。
そのためネットの書き込みも声高で、さらにはフジテレビや花王にデモをかけたりします。
 
それにしても、フジテレビにデモをかけるのは意味不明です。フジテレビが韓流番組を多く流しても、それは経営判断のうちですし、日本の国益を損なうことでもありません。
要するにネット右翼は、フジテレビや花王は世間の評判を気にするから、自分たちのデモがいちばん効果的な相手だと思ったのでしょう。つまり勝てる相手を探して喧嘩をしたというわけです(勝てませんでしたが)
 
こうした発想は、学校でのイジメるかイジメられるかという体験からきているのでしょう。つまり「イジメる側になりたい」ということです。「学校からイジメをなくしたい」ということではないのです。
 
いわゆるネット右翼、すなわち嫌韓嫌中の人を観察していると、日本の教育がいかにダメかがわかります。